第167話 天間の樹木

周りが真っ白になったと思ったら、目の前には信じられないくらいの大きさの大樹がそびえ立っていた。その大樹は空の層に忽然と生えていて、空に浮かんでいるようにも見える。


紋次郎を掴んだ神鳥はその大樹を旋回しながら、その上部へと飛来していく。そこには枝や葉が集まり、大きな鳥の巣のような感じになっている。神鳥はその巣へとゆっくり降りて行った。


ここまで無理くり連れてこられたけど、この鳥は特に俺に害を加えるようなそぶりは見せていなかった。鳥は俺を巣の真ん中に置くと、ただただじっと見つめるだけであった。


しばらく身動きしないで様子を見ていた俺だけど、思い切って鳥に話しかけてみた。


「あの・・俺に何か用があるんですか?」

その問いには何の反応も示さなかった。諦めずもう一度声をかける。

「みんなが心配してると思うから、帰りたいんだけどダメですか?」


なるべく刺激しないように話しかけるけど、何の反応もない。


どう反応していいか迷っていると、しばらくの沈黙の後に、ぼそりと声が聞こえてきた。

「あなたは何者なのですか・・・見た目は人間のように見えるけど、中身は人には程遠い・・」


それは美しい透明感のある声であった。鳥のその問いに対して、俺は答えを持っていなかった。自分のことを今の今まで普通の人間だと思っているので、それを否定されても何も答えられない。


「俺は普通の人間ですよ。それ以外では何者でもないです」

素直にそう言うと、鳥はさらに俺を見つめる。そして呟くように語り始めた。


「私がこの世界に生まれて100万年、私はとても目が良くてね・・大空を飛んでいる時も、ここで一休みしている時も、私はあらゆる場所を見ていた。無数の人間や魔族、エルフやドワーフなどの種族たちなどの生活を覗き見ていた。それは無数の命の光であり、時の瞬きでした。あなたはこれまで見たどんな光にも似ていない・・」


俺はその話に自分なりの考えを、鳥に伝えた。

「それは俺が別の世界から来た人間だからじゃないですか、俺はこの世界の人間じゃないんです。だから少し違って見えるんじゃ・・」


しかし、鳥の反応は意外なものであった。

「あなたが元いた世界の事は知っています。随分昔からこの世界には、その世界からやってくる人は少なくないですから・・」


確かにアルティやマゴイットもそうだからね・・思ったよりいっぱい来てるんだな・・。

「俺はその人達とも違って見えるんですか?」


鳥は静かに答える。

「光が違うのです。あなたより激しい光を放つ人間は多くいました。そんな強い光に比べると、あなたの光は決して目立ったものではない・・だけどあなたの光には何か説明できない暖かいものを感じる・・それは一体何なのか・・」


俺は困ったように鳥に話す。

「正直言って、それを俺は実感していません。なのでその答えをお話しすることはできないと思います・・」


「そうでしょうね・・その答えは私自身が見つけないといけないように思います」


そう言うと鳥が激しく光り始めた。そしてその光がどんどん小さくなっていく。光が俺と同じくらいの大きさになると、少しずつ光が晴れていく。そしてそこに立っていたのは鳥なのではなく、一人の女性であった。長い青い髪に、白いドレスのような服を着ている若い女性で、控えめに言っても美人であった。

「私の名はスフィルド・・あなたの名は?」


そう聞かれて少し狼狽えてしまったが、なんとか自分の名を伝える。

「俺は紋次郎です」

「では、紋次郎、しばらく私をあなたのそばに置いていただけませんか」

意外な申し入れに俺は戸惑う。だけど、断る理由もなかったでそれを了承した。

「別に構いませんが・・でも、どうしてそうしようと思ったんですか?」

スフィルドは少し微笑んで答える。

「一緒にいれば、いつかあなたという存在が何なのか分かるような気がしたので」


多分いつまで一緒にいてもそんなことわからないと思うけどな・・紋次郎はそう思っていたが言葉には出さなかった。



「それじゃ、リリス、アスターシア、アテナ、カリス、よろしく頼んだよ」


天馬挺はリンネカルガに到着して、そこから、紋次郎の救出部隊である四人が出発するところであった。

「いいかい、間違ってもスフィルドとまともに戦ったらダメだよ。僕でも勝てるかどうかわからないくらい強いから・・それに多分話が通じる相手だから、変に刺激しなければ大丈夫だと思うよ」

アズラヴィルは、スフィルドの強さを自分と同等かそれ以上と評価しているようである。


「わかってますわよ。誰が神鳥スフィルドなんかと一戦やろうなんて考えますか」

当然な顔をしてアスターシアがそう言う。

「そうじゃのう、紋次郎が無事であれば戦うこともないじゃろうな」

リリスの言い分だと、紋次郎が無事でなかったら相手が何だろうと戦うってことのようである。


四人が出発すると、アズラヴィルは残った修行組にむきなおり、厳しい顔になった。

「ええと、紋次郎のことはリリスたちに任せて、修行に集中してもらうよ。修行を任されたからにはそれ相応の成果を出すつもりだからね」


大天使の修行がどんなものかはわかっていなかったが、アズラヴィルのその表情を見て、全員嫌な予感が心の奥からにじみ出てきていた。








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