第166話 天空の神鳥

大きく、強く、自由なその存在は、いつものように大空を飛んでいた。その者は何千年も誰にも邪魔されず、この大いなる大空の支配者であり続けた。強大な力を持っている為か、自分の周りで起こる些細なことには気が引かれることもなく、思うがままに我が空を飛び続けていた。


その時、とんでもない威力の爆発がその者のすぐ下で巻き起こった。ここ数百年で感じたことのないその衝撃にも、さしたる興味を引かれることはなかった。


だが、その大空の支配者は、不思議な気配に気を引かれた。それは、大きな力のようでもあり、小さな存在でもあるような、今まで感じたことのないものであった。


その者は数十年ぶりに高度を下げた。どうしてもその気配を見てみたいと思ったのだ。



アズラヴィルから放たれた無数の光の槍は、三つ首の黒い怪鳥を貫く。彼女が次の敵を攻撃しようと回りを見渡した瞬間、真上から途轍もない存在が降りてくるのを感じた。一瞬、星が落ちてきたと感じたほどのその強大な気配は、魔界の強力なモンスターを、木の葉でも吹き飛ばすように蹴散らしながら近づいてきた。


紋次郎が天馬挺に近づいてきた敵を剣で切りふせた瞬間、一瞬で周りが暗くなった。何が起こったのか上を見上げた瞬間、自分の体がふわりと浮き上がるのを感じる。


「うわわわっ、何、何?」


紋次郎が大きな鳥に掴まれて空に舞い上がるのを見て、リンスが叫び声をあげる。

「紋次郎様!」

すぐにデナトスが攻撃魔法を放ってその鳥を攻撃する。だけどその攻撃は何かの障壁に阻まれて跳ね返される。


「アズラヴィル! リリス! 紋次郎様を助けて!」


リンスに言われるまでもなく、すぐに二人は動こうとした。しかし、その瞬間、紋次郎を抱えた鳥がブレるように光り始めて、一瞬で姿を消した。


「光速移動・・・・」

アズラヴィルは絶望的な表情でそう呟く。



その後、モンスター達は一掃したが、リンス達はお通夜のような雰囲気でテーブルを囲んでいた。

「アズラヴィルもいてどうしてそんなことになったんですか」

少し怒りの表情のファミュがそう言い放つ。

「すまない・・まさかいきなり光速移動するとは思わなかった・・」


「そもそも何者なんだあの鳥は」

ミュラーナがそう聞くと、アズラヴィルが話し始める。

「あれは多分。神鳥スフィルド・・だと思う・・」


それを聞いた一同はざわざわと驚きの声をあげる。

「魔界の天界の間に生きていると言われるあの伝説の神鳥ですか・・・」

アルティが呟くようにそう口にすると、アスターシアが声を張り上げる。

「そんなものがどうして紋次郎を連れて行くのよ」

アズラヴィルは困ったように答える。

「全くわからない・・そんな悪さする奴じゃないはずなんだけどな・・」


「それよりこれからどうするんや、紋次郎助けるにしても居場所がわからんのじゃどうしようもないしな」


マゴイットがそう言うと、無表情でアテナが発言してきた。

「マスターの生体パターンは私に登録されています。どこにいても次元レーダーで居場所は特定できます」


それは驚きの情報であった。

「ナイスやアテナ、そやったらすぐにでも助けに行こうや」


マゴイットがそう言うと、意外にもアズラヴィルは難色を示す。

「まあ待ってくれ、全員でゾロゾロ助けに行ったら、警戒して、また光速移動で逃げられるかもしれないから慎重になった方がいいよ」


「それではどうすればいいのですか」

少しイラつきながらのリンスの発言に、アズラヴィルは冷静に答える。

「少数の救出部隊で助けに行こう」


その言葉にリンスがすぐに手をあげる。

「私、それに救出部隊に参加します」

ミュラーナやファミュもそれに続いた。

「もちろん私も行きます」

「あたいもいかしてもらうで」


だけど、そんな彼女らに対して、アズラヴィルはその申し出を断った。

「残念だけど君たちはリンネカルガで修行に入ってもらうよ」


「どうしてですか?」

「なんでだよ大天使!」

そんな反応にも冷静に答える。

「君たちは飛べないだろう。救出部隊は飛行できる者で編成した方がいいと思う」


相手は飛んでいるのだから確かにもっともな話であった。合理的な理由でぐうの音も出ない。


そこへニコニコとしながら妖精王が飛んできた。

「それでは私の出番ですわね。紋次郎の事は私に任せるといいですわ」


「魔界の地理に精通している私の出番じゃな、空も飛べるし文句はなかろう」

確かにリリスも適任であろう、リンス達は、歯ぎしりが聞こえてきそうな険しい表情でそれを聞いている。


「アスターシアとリリス、それとアテナとカリスの四人で救出部隊と考えてるけどどうかな」


「リュヴァも・・龍になれば・・飛べるよ・・」

「リュヴァは一番伸びしろがあるからね、絶対に修行してもらうよ」

そんなアズラヴィルの言葉に、リュヴァはほっぺたを膨らまして不満な顔をする。


「お主は救出部隊には入らないのか?」

メタラギの言葉にアズラヴィルは簡潔に答えた。

「僕は紋次郎に修行の指導を任されてるからね」


紋次郎を信頼しているのか、神鳥スフィルドが悪さしないと思っているのか、アズラヴィルはいたって冷静であった。

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