第165話 天馬挺防衛戦
しばらくすると、様子を見に行っていたアスターシアが戻ってきた。その顔は少し焦っているようにも見える。
「まずいですわ。ガーヴィルの大群に囲まれてしまっていますの。今、アズラヴィルとリリスが追い払ってますけど、数が多すぎて少し危険かもしれないですわ」
それを聞いたマゴイットが険しい顔で発言する。
「魔鳥ガーヴィルやて・・地上でなら問題ないかもしれへんけど、こんな空の上で大群に囲まれたらやばいんとちゃうか」
「そうですね・・このまま天馬挺を落とされたらたまりません。私たちも迎撃に参加しましょう」
そんなリンスの呼びかけで、俺たちもガーヴィルとの戦いに加わることになった。
「空飛べる者は、扉から外に出て参戦してください。それ以外は天井に登って遠距離攻撃で対応しましょう」
残りのメンバーで空を飛べるのは、アスターシアくらいと思っていたのだけど、カリスとアテナにも飛行能力が備わっているらしい。俺もフライを使えば飛べなくはないんだけど、飛べると言うより浮いているレベルなのでこの戦いでは役に立ちそうになかった。
扉を開いて、アスターシアとカリス、アテナが船外に飛び出す。天馬を操っているポーズと、回復要員であるメイルを除いた他のメンバーは、天井へと続く扉から上に上がっていった。
天馬挺の上は強風が吹き荒れていて、油断すると吹き飛ばされそうであった。みんな上に上がってくると出っ張りにつかまり、態勢を低くして、慎重に移動する。
上を見上げると、空を埋め尽くすくらいの大きな黒い鳥が飛行していた。それがガーヴィルの大群の姿であった。
上空では光や炎が所々で閃いている。おそらくアズラヴィルたちが戦っているのであろう。俺たちは、天馬挺に近づいてきたガーヴィルを遠距離攻撃で撃墜していく。油断すると、攻撃を放った時に、そのまま風で吹き飛ばされそうになるのでヒヤヒヤものである。
たしかにガーヴィルの数は多いが、こちらには強力な遠距離攻撃を打てるメンバーが揃っているので、黒鳥の群れを天馬挺に寄せ付けることはなかった。そんな時、上空で激しい爆発が起こった。その爆風を食らったガーヴィルが、パラパラと大量に落ちてくる。おそらくアズラヴィルかリリスの大技が炸裂したのであろう、一気に敵の数を射ち減らす。
しかし、その爆発は、思わぬピンチを招いた。爆発の音とエネルギーに誘われたのか、魔界に住む他の魔物も集まってきたのである。その中にはガーヴィルを大幅に上回る戦闘力の魔物も含まれていた。
「これは厄介じゃな、魔竜や
「う・・すまない・・僕の攻撃で引き寄せたみたいだね・・」
「気にしてても仕方いぞな、あれもまとめて片付ければよかろう」
「そうだね・・ちょっと本気で暴れてみようかな」
真剣な顔つきになったアズラヴィルは、魔力を集中する。その強烈なオーラに、さすがのリリスも身震いが走る。
「でっかいのが近づいてきたでぇ、アルティ、ええ感じのぶっ放してえや」
「わかったからちょっと離れなさいよ」
アルティにしがみ付いて離れないマゴイットに冷たくそう言う。
「うるさいわ。うちが高いとこダメなの知っとるやろう」
「じゃあ、どうして出てきたのよ。そんなのじゃ役に立たないから船内に戻ってよ」
「そんなんしたら、逃げてるみたいでかっこ悪いやんか」
「震えながら人にしがみ付いてる方がかっこ悪いでしょうが! それよりあんた飛行の魔法が使えなかったけ?」
「ウイングのことか? あれは低空しか飛べへんよ。この高さじゃ真っ逆さまや」
「・・・・何よそれ」
呆れたアルティはマゴイットを無視して攻撃魔法の詠唱に入った。
カリスは高速で飛行しながら敵を蹴りと拳で殲滅していった。彼女は自分ではそれほど戦闘を得意としているとは思っていなかった。しかし、実際にはその戦闘センスはかなりのもので、高水準のパワーとスピードよりも、その攻撃技術の方が遥かに高いものであった。彼女の後ろから高速飛行してきたモンスターの気配を素早く察知すると、最小限の動作でそれを避ける。そして少ないモーションで放たれた手刀で、そのモンスターの首を落とした。
「すまねえだ・・これもご主人様を守る為だ、成仏してくんろ」
カリスは首を落とされてクルクルと回りながら落ちていくモンスターにそう語りかけた。
アテナの手から放たれたレーザーは無数に分かれて、敵を追尾していく。そして正確に敵の胸を貫いて撃ち落としていた。魔力反応のない、その強力なエネルギーの攻撃に、魔界のモンスター達は為す術がなかった。さすがに得体の知れないその存在に恐怖を感じているのか、アテナの周りから離れていく。しかし、マスターの紋次郎からアテナへ与えられた任務は敵の一掃である、そんな逃げるモンスターも見逃すはずもなく、高速飛行で近づいては、強力なレーザーで無慈悲に殲滅していった。
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