第164話 魔界の門

俺たちを乗せた天馬挺は、空を優雅に飛行して、目的地であるダルマ山脈へと運んでくれた。魔界の門はダルマ山脈の頂上にあるので、ここからどんどん高度を上げていく。標高10000mとからしいのでエベレストより高い場所である。これは徒歩で来ていたら大変だったんじゃないんだろうか、行くのは簡単なんてどんな基準なんだろ・・


高度が上がるに連れて、気温が下がっていき、酸素が薄くなっていく。すぐにアルティが魔法で天馬挺内気温を調節してくれる。窓の外はもはや雪世界で、見るからに寒そうである。


頂上に着くと、石がサークル状に並べられている場所が見えてきた。あそこが魔界の門らしい。天馬挺はゆっくりそこへ近づいていく。天馬挺を操作しているポーズがみんなに声をかける。


「魔界の門に入る時にかなり揺れるって話だからどこかに掴まってろよ」


そう言うとポーズは天馬挺をサークルの中へと突入させる。サークルの中にある黒い霧のようなものに入っていく。天馬挺の周りには小さな稲光が走り、激しく機体を揺らす。


荒れた気象がしばらく続いたが、不意に天馬挺が安定する。どうやら魔界の門を通過したようだ。


「お兄ちゃん、外を見てみて」

メイルにそう言われて、俺は小窓から外を見てみた。魔界の空はオレンジ色であった。地上では見ることのないその不気味な雰囲気に、少し緊張が走る。


「リリス、ここからリンネカルガまではどれくらいですか」

リンスの問いに、リリスは少し考えて返事をする。

「そんなに遠くはないぞ、一時間も飛べば着くんじゃないじゃろうか」


天馬挺で一時間もかかるんならそこそこ距離はありそうだけど・・


運転席からポーズがリリスに声をかけてくる。

「どっちに飛べばいいんだリリス」

「あそこを見るのじゃ、赤い山が見えるじゃろ、あれがリンネカルガじゃ」

「うっしゃ、あそこを目指せばいいんだな」


そう言ってポーズは、その赤い山に向かって舵をとる。


天馬挺はしばらく順調に飛行していた。だけど空路も半ば、三十分くらい経過した時にその異変が起こった。


ドドドッ・・と機体が大きく揺れて、天馬たちが騒ぎ始めた。


「どうしたのポーズ」

「わかんねえ、天馬たちが何かに怯えてる見たいだ」


ガタガタと天井の上から物音がしてくる。アズラヴィルが何かの気配を感じたようである。

「どうもこの上で何かが悪さしているようだね、僕が行って見てくるよ」

「仕方ない、私も行くかのう」

アズラヴィルが扉を開いて外に飛び出す。気圧の違いだろうか、勢いよく外の冷たい風が入ってくる。アズラヴィルに続いてリリスもそこから外に飛び出した。


「寒くて死んじまう。早く扉を閉めろ」

ポーズの言葉を聞いて、グワドンとメタラギが扉を閉める。心配ではあるけど、ここは空を飛べる二人に任せた方がいいだろう。


アズラヴィルは空中を飛行して、天馬挺の上へとやってきた。そこを見て、すぐに異変の原因がわかった。ものすごい数の黒い鳥のモンスターが、天馬挺を囲んで突いていた。どうやら見たこともない天馬挺を警戒しているのか、突いて様子を見ているようだ。


今は警戒している為に恐る恐る天馬挺に近づいてきているが、このままではいつ本格的に攻撃をしてくるかわからない。アズラヴィルはそのモンスターの大群を一掃することにした。


「あれはガーヴィルじゃな、本気で攻撃してきたら天馬挺なんぞひとたまりもないぞ」

アズラヴィルに追いついてきたリリスが眉を細めてそう話しかける。

「だから殲滅しようと思う。リリス、手伝ってくれるかい」

「天馬挺を落とされるわけにもいかないからのう。手伝ってやろうぞ」


魔界の魔鳥と、アズラヴィル、リリスの壮絶な空中戦が開始された。


天馬挺の外が騒がしくなり、紋次郎はアズラヴィルとリリスが心配になってきた。

「大丈夫かな二人・・」

「あの二人なら大丈夫でしょう。魔竜が束になって襲ってきても談笑しながら殲滅しそうだわ」

デナトスのその意見にも納得はするけど、それでも何が起こるかわからないからね・・そんな俺の顔色を見て、気を利かせたのか、アスターシアが話しかけてきた。

「私も大丈夫だと思うけど、ちょっと見てこようか?」

そう言われると甘えてしまう。

「お願いできるかいアスターシア」


それを聞いたアスターシアは、微笑むと小窓から外へと飛んでいく。俺はアスターシアの出て行った小窓を見つめて、みんなの安全を祈っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る