第163話 強化合宿の準備

俺とはリンスたちと、エラスラの塔の攻略報告をアルマームのダンジョンギルドに提出しに来ていた。その間にみんなは魔界への強化合宿の準備をしている。


ダンジョンギルドに、記入した資料を提出すると、受付の奥で騒めきが起こる。慌てたスタッフが俺の元へ駆け寄ってくる。

「紋次郎さん、この報告に間違いはないのですか」

俺は堂々とその質問に答える。

「はい。間違いないです」


「それではダンジョン最深部で刻印した座標石も必要ですので提出していただけますか」


「あっ、そうかこれだよね」

俺はカバンから手のひらサイズの石を取り出すとスタッフに渡した。この石はファミュから貰ったもので、刻印した場所の座標を刻むことができる魔法石なのだけど、ダンジョン攻略の証拠になる重要なものであった。俺はこんなの準備していなかったけど、ファミュがちゃんと刻印していてくれたので助かった。


この日、エラスラの塔の攻略のニュースは大陸中に広まることになる。これによって無名であった俺の名が、少しこの世界に浸透することになった。有名になりたいなんて微塵も思ってないけど、仲間に有名な者がたくさんいるので仕方ないことなのかな。


ダンジョンギルドでの用事を済ませると、リンス、デナトス、メイル、メタラギの四人は女神ラミュシャの祝福を受けに来ていた。昔からのメンバーたちだけど、聞くと、もう何年も祝福を受けてないそうだ。経験が溜まりに溜まっているようなので、この機会に祝福を受けることになった。ポーズも受けさせようと思ったんだけど、あの男は面倒くさがってこなかった。


何年も溜めに溜まった経験値は大幅なレベルアップをもたらした。リンスなんかはレベルが25も上がっていて、新しいスキルが三つも発動していた。


最後にアムラの魔法商店やフクロウの酒場、キノピの店、ラフルジュールなどに求人広告を貼らせてもらった。高レベルダンジョンの運営スタッフを募集するので条件は厳しく設定している。レベルは120以上と書いたけどこんなに厳しい条件で誰か来てくれるかな・・これからみんなで強化合宿に出かける為に、面接日は三週間後である。


家に戻ると、みんなで天馬挺に荷物を運びいれているところであった。もはや天馬挺を私物として扱ってるけどいいんだろうか・・いくら自分たちに危害を加えてきた連中の物であっても、少し良心が痛む。

「おい主、いいところに帰ってきた、荷物が多いから手伝えよ」

慰安旅行時の荷物より遥かに多いその量を見て、俺は思わず聞いてみた。

「ちょっと荷物多くない? どうしてこんなになってるの」


その質問には、料理道具を運んでいたソォードが答えてくれた。

「リリスの話だと、魔界での食料の調達は難しいそうなので多めに持ってくことになったんですよ」

「それにしても多いように思うんだけど・・強化合宿は二週間くらいの予定だよ」


「僕がお願いしたんだよ。よく食べて、よく学んで、よく寝る。これが重要だと思うんだよね」


そう言ってきたのはアズラヴィルであった。彼女には今回の強化合宿の指導をお願いしている。間違いなくうちで一番戦闘力が高いし、色んな知識に精通しているので適任だとは思うんだけど・・あの変な豆ばっかり食べてた反動だろうか、普通の食事の美味しさにハマっている彼女は、食に貪欲になっていた。


「ソォード、肉類はどうするんだい、干し肉ばっかりでは味気ないと思うんだけど」

「そうですね、その点は抜かりありません、デナトスとポーズに相談して、持ち運び用の冷蔵箱を開発したんですよ、そちらで新鮮な肉を持っていけますので安心してください」


それを聞いたアズラヴィルは涙を流して喜んでる。


「もう、あらかた準備できたみたいだね」

「おう、いつでも出発できるぞ」

「近くに魔界の門ってのがあるんだよね、どの辺にあるの?」

「この辺りだったらダルマ山脈の頂上でしょうか」

リンスのその言葉に俺は思わず突っ込みを入れた。

「全然近くないじゃん」

「いえいえ、天馬挺でひとっ飛びですよ、そのまま魔界の門の中へも天馬挺で入れるみたいですしね」

「魔界ってくらいだから、もっと敷居が高いかと思ってたけどそうでもないね」

それを聞いたリンスは少し神妙な顔をしてこう言ってきた。

「行くのは簡単なんですよ魔界は・・・だけど・・戻ってくるが難しいんです。普通の冒険者ではまず行こうなんて思わない場所です」


そんな感じで言われると少し緊張してきたな・・まあ、一緒に行くのが頼りになりすぎるメンバーなのでそれほど心配はしてないけどね。そんな話をしていると、メタラギがやってきて、みんな準備ができたのでいつでもいけるぞと声をかけてきた。俺は事務所の棚の上にいるニャン太を見つめてこう考えていた。魔界にニャン太を戻す方法とかのヒントはないかな・・・そしてニャン太に行ってきますと心で声をかけて、我が家を後にした。


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