第144話 一騎当千

十分に31階層で休息を取った紋次郎たちは、上層へ向かって先へ進んだ。戦いものなく32階層の階段を見つけてそこを登り始める。


32階層に来て、三人の動きが止まる。それは目の前の状況に驚いているからなのだが・・


「これ・・どれくらいの数いるのかな」

「わからへん、うちは三桁からはぎょうさんおるって一括りにしとるから」

「下手をすると千はいるかもしれないですね」


俺たちの前には、フロアーを埋め尽くすほどの無数のモンスターがウロウロしていた。それもどれも強力そうな高レベルモンスターである。とにかくそれでも倒して上に行かないといかないので、俺は剣を握りしめて前に出ようとした。しかし、それをマゴイットに止められる。

「まあ、なんや、ここはうちに任せてや、長い間眠っとたからリハビリやリハビリ」

「え! 一人であの数倒すの?」

「うちを誰や思てんや、勇者マゴイットやで」


マゴイットはそう言うと勢いよく加速して走りだす。それは信じられない早さだった。マゴイットは高くジャンプすると唱えていた魔法を放つ。それは広範囲の攻撃魔法のようで、密集したモンスターの中に着弾すると、爆発と炎の力で範囲内のモンスターを蒸発させる。


マゴイットはそのままモンスターの大群のど真ん中に着地すると、片手剣を抜き放ち、モンスターに斬りかかる。彼女の剣速は異常に早い、一秒で数十回ほど剣を振り、数体のモンスターを一瞬で切り刻む。


ファミュはその動きを見て感嘆の声を上げる。

「信じられない強さです・・同じ伝説級冒険者でもこれほど戦闘力が違うとは・・本当の伝説になっている人間は違いますね・・」


マゴイットは声をあげながらモンスターを殲滅していく。

「まだや! どんどんこんかい! こんなんじゃリハビリにもならへんわ」


その声に応えるように大型のモンスターがマゴイットの後ろから接近する。それに気がついたマゴイットは、少し振り向くと左手をかざして強烈な光のビームを放出して、巨大なモンスターを一撃で葬る。一見魔法のように見えたこの攻撃であるが、ファミュにはその正体がわかったようで口を開けて心底驚いていた。

「あれは魔法じゃないですね・・気の放出に何かしらの生体エネルギーを加えている・・詠唱の無しであれだけの高出力攻撃は脅威です」


目の前に迫った敵を剣で刺したマゴイットであったが、その敵は体に物を吸い込む力があるのか、刺した剣を吸い込んで、一瞬剣が抜けなくなる。後ろからは二体の別のモンスターがその牙で襲いかかってきていた。マゴイットは抜けなくなった剣から手を離すと、体をくるりと回転させて右の後ろ回し蹴りで一体の頭を破壊すると、もう一度回転して、次の一体は左足の回し蹴りで頭を破壊した。二体を倒したマゴイットは、吸い込まれている剣を下から思いっきり蹴り上げる。吸い込んでいたモンスターは腹から上に真っ二つに切られて地面に倒れた。


マゴイットは剣技、体技、魔法、闘気法、あらゆる攻撃を駆使してモンスターを殲滅していく。それはまさに戦闘の芸術のような戦い方で、力任せに戦っている自分とは全然別次元のものであった。


あれほどいたモンスターも、最後の一匹になっていた。その一匹も、上から振り下ろした剣で真っ二つに切り裂いた。


「すごい・・本当に全部倒しちゃったよ」

「あれほどの戦闘は初めて見ました・・さすが勇者の名は伊達ではありませんね」


「やっぱり久しぶりやから調子でんかったな、ちょっと時間かかってすまんね」


その表情から謙遜で言っているのではないのがわかる。本調子だとどれくらいの動きになるのか想像もつかない。


「さあ、どんどん上に登って行こうや」


本当に頂上への道が見えてきたような気がする。みんな・・待っててね・・紋次郎は石になっている仲間たちのことを思い出し、気を引き締め直した。

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