第134話 聖獣バロン
エラスラの塔、15階層・・それは現在の最上到達階層であった。砂漠化を心配していたが、情報通りそこは森林フロアーであったのでみんな安心する。上がってきた階段を少しいったところに泉が湧いている場所があったので、そこで水の補給のついでにキャンプすることになった。
「この先の遺跡にいる聖獣バロンの戦い前に、ここで十分休息を取りましょう」
ファミュのその言葉に、場が緊張するのが紋次郎にもわかった。おそらくそれは聖獣バロンという単語に対してであり、少なからず、みんなそれに恐れを抱いているようだ。
「聖獣バロンって強いモンスターなの?」
その俺の問いに、ファミュ自信が答えてくれた。
「ここが冒険者の最高到達階層な理由が聖獣バロンの存在です。昔、この塔に挑んだ当時最高と言われたパーティーが、その聖獣バロン一匹に壊滅させられ、敗走したと言われているわ」
「そんな強いモンスターに勝てるんですか?」
自信のある言葉が返ってくると思ったのだけど、素直な気持ちで答えてくれた。
「正直わかりません。敗走したパーティーと違って、ある程度聖獣バロンの情報がありますし、対策も用意しているのですが、それすら凌駕する可能性がある強敵ですから・・」
それほどの強敵と戦う前である、キャンプでの食事時もみんな口数が少ない。
「・・・・誰か何か喋れよ、飯が不味くなる」
ギュネムのその言葉に、お喋りなリンカが話を始める。
「前に聖獣バロンと戦ったパーティーの人と組む機会があってね、その時に聞いた話なんだけど。バロンって舞を踊るらしいんだけど、その舞がやばいらしいよ」
「やばいって何がやばいんだ?」
「意識がぶっ飛ぶらしい。マインド系の効果らしいんだけど、マインド防御系の魔法なんかが全く効かないらしい」
「そりゃヤベーな、防御不能のスタン系の攻撃なんてどうすりゃいいんだ」
「どうしようもないらしいよ。使われる前に倒すしかないんじゃないかな」
ボミノフがそのあたりの戦術に対して、ファミュに質問する。
「ちょっと厄介そうじゃが、どうするつもりなんじゃファミュ」
少し考えてから、ファミュは自分の考えをみんなに話した。
「バロンの舞の話は私も聞いていました。最初は波状攻撃で舞を躍らせない方法が有効かと思っていたんですが、今は少し戦術の幅が広がってますから、別の方法を考えてます」
「そうか紋次郎のゴーレムじゃな」
「そうです。ゴーレムにマインドは通用しません。なので紋次郎のゴーレムを攻撃の中心で、戦術を変更しようと思っています」
「なるほどな、確かにそれは有効じゃろうな」
どうもゴン太が対、聖獣バロンの切り札になるようである。
十分な睡眠と休息の後に、聖獣バロンのいる遺跡へと向かった。遺跡から細い柱のようなものが上へ伸びている。他に上へ続く階段などが見当たらないので、おそらくあれが上層に行く階段だと思われる。遺跡内からしか階段を登れないようなので、上に行くには遺跡を守る聖獣バロンを倒さないといけない。
パーティーは慎重に遺跡の中に入っていく。狭い通路を進んでいくと、大広間へと出た。そこに聖獣バロンの姿があった。侵入者を見つけたバロンは、ゆっくりとした動作で動き始めた。
事前にある程度の戦術の確認をしていたので、みんな慌てず、それぞれの役割で動きだす。俺はゴン太に指示を出して、バロンに接近させた。
バロンは想像以上に、大きかった。5mほどあるゴン太より一回り大きく、その姿は金色の獅子といった感じで、見るからに強そうである。
ゴン太はバロンに接近すると、すぐに首根っこを脇で固めて動きを封じようとした。バロンは首を激しく振ってそれに抵抗する。ゴン太の陰からギュネムとバジュゴがバロンに接近する。バロンの注意がゴン太に向いている隙を見て、攻撃を仕掛けるつもりであった。
バロンは首の力でゴン太を吹き飛ばす。その時にはギュネムとバジュゴがバロンの後方で武器を振り下ろすところであった。しかし、二人のその行動を、バロンは気がついていた。無数の小さな雷が、二人に直撃する。激しい衝撃を受けて、二人は吹き飛ばされる。
すぐにクレナイとラザックが二人を援護する。クレナイのクナイがバロンの体に命中するが、岩に当たったように跳ね返される。
ギュネムとバジュゴに攻撃しようと動いたバロンに、ゴン太が殴りかかる。強烈なパンチを連続でバロンの体に叩き込む。しかし、その強烈な攻撃も、バロンには効いてはいないようであった。
ゴン太の攻撃は、ダメージはさほど与えていなかったが、ファミュの行動をサポートするには十分であった。ファミュは闘舞のオーラを纏って、バロンに接近していた。ファミュは加速して、膝でバロンの頭部を攻撃する。すごい音が響き渡り、バロンが仰け反る。その攻撃に怒ったバロンは、衝撃波を伴う強烈な咆哮をファミュに浴びせた。気の力を一瞬高めてその咆哮に耐えると、ファミュは二撃目の攻撃を、バロンの
危ないから近づくなとファミュに言われている紋次郎以外が、一斉にバロンに畳み掛けるように攻撃を放つ。その全ての攻撃をなす術もなく受けるバロンは、やがて力なくそこに横たわった。
「倒したか!」
みんな同じように思った。さすがの聖獣も、あれだけの攻撃を連続で受ければ倒れるとそう思い込んでいた。しかし、それはバロンの反撃の前触れであった。
光の閃光が走り、ギュネムとバジュゴの胸を貫いた。驚きの声を上げる前に、次の閃光が走り。クレナイとラザックの頭部が消し飛ぶ。その異常な気配に気がついたファミュはすぐにみんなに離れるように指示を出す、だが、それはあまりのも遅い判断でった。勢いよく起き上がったバロンは、先ほどより膨張している。一回り大きくなったその凶暴な聖獣は、高くジャンプすると、ワインベルグとハーダーザのいる場所へ着地する。そして二人が反応する前に、その牙で二つの体を肉片へと変えた。
ボミノフは魔法と唱えて、バロンを止めようとする。しかし、発動した魔法は、バロンの横に出現した球体に吸い込まれる。そして光り輝いたその球体は、その全ての魔法エネルギーをボミノフにそのまま送り返した。自分の魔法の力でボミノフはバラバラに吹き飛ばされた。
リンカはみんなを助けるために、杖を振り上げ、防御魔法を唱えようとした。そして杖を持つ自分の腕がもう無くなっていることに、その時に気がついた。高い悲鳴をあげるリンカに、その腕を切り落としたバロンの見えない刃が襲いかかる。リンカの五体の全てが、バラバラにされて地面にボトボトと落ちていった。
リンカを倒されたのを見て、ファミュが焦りの声でシュラザードに声をあげる。
「シュラザード! あなたが死んだらみんなを復活ができない。早くここから逃げて!」
それを聞いたシュラザードは、すぐに後方にいる紋次郎の元へ逃げようと走り出す。しかし、その走る足が吹き飛ぶ。足を飛ばされて地面に転がったシュラザードは、上から飛んできたバロンに踏み潰された。
ダルネとファミュは、このまま自分たちが殺られると、仲間を生き返らせることができなくなると考えた。最低でも一人だけでも街に戻る必要がある・・
暴れまくっていたバロンに、ゴン太が掴みかかる。鬣を握ると、バロンの体を壁に叩きつける。それを見たファミュは、今のうちに逃げることを考えた。
「ダルネ、今のうちに逃げますよ!」
ファミュにそう言われる前に、ダルネは走り出していた。だが・・その絶望は前触れもなく現れた。ダルネの走っている横の壁がいきなり崩れ落ちる。そしてダルネの首が吹き飛んだ。
崩れた壁の先には、先ほどまで戦っていたバロンよりも、さらに大きなもう一匹のバロンが立ちすくしていた。
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