第116話 迷宮主の戦い

天空の騎士、それはエミロの四天、最強の戦力であった。それにレベル42の紋次郎が挑むなど無謀以外なにものでもなかった。


「やめるんだ紋次郎! それは伝説級冒険者より強い。逆立ちしても君には勝てない!」


そんなことはわかっていた。でも殺されるとわかっていてニャン太を放っておくなんてできなかったのである。紋次郎はスキルを発動する。

「ターボ・オン」

加速した紋次郎は天空の騎士に迫る。そんな紋次郎の動きに、天空の騎士は無駄のない動きで剣を放り抜く。先読みのスキルでその動きを読んでいた紋次郎はすぐにそれを回避する。そして天空の騎士に閃光丸改で攻撃しようとしたのだが、すぐに二撃目の攻撃が紋次郎の首を狙ってくる。それも先読みで察知して避けるのだが、あまりの早さに首の皮を一枚切られる。ターボを使用していなかったら間違いなく首は飛んでいたであろう。


ターボを使用してギリギリ対応できるスピードに、紋次郎は胆を冷やす。ターボが切れたら間違いなく真っ二つにされるだろう・・


紋次郎のその姿を見たニャン太はある覚悟を決めた。多分、彼はこのまま死ぬまで自分の為に戦うだろう。それを放っておくわけにはいかなかった。ニャン太は、紋次郎の脳に直接メッセージを送る。


紋次郎聞こえるかい・・これから大事な話をするよ・・実は君には神力の才能がある・・アルティにもその才能があるから・・もしかしたら君の世界の人間にはそれほど珍しいものじゃないかもしれない・・・神力には通常のスキルとは別に・・神道しんとうと呼ばれる特殊なスキルが存在するんだ・・これは君の中にも幾つか感じることができる・・今の僕でも・・その一つを解放するくらいのことはできる・・その神道がどんなものかは僕にもわからないからこれは一つの賭けになってしまうけど・・・下手をすればもっと状況が悪くなる神道が発動する可能性もある・・最悪・・君が消滅するような神道だってありえるけど・・紋次郎・・それでもそれを発動する覚悟はあるかい・・


紋次郎は頭の中でその返事をした。ニャン太・・それしか望みがないならやってくれ・・


わかった・・それじゃあ少し、僕の近くに来てくれるかい・・


そう言われて紋次郎は、敵の隙を見てニャン太に近づいた。するとニャン太は短い言葉を発する。それを受けて紋次郎の体に異変が起こった。すごく熱い何かが生まれる。それは心のコアにまで広がり、体全体に浸透していた。


「ニャン太、どうなった!?」

「紋次郎、天空の騎士が来ている!」


すぐそこまで天空の騎士が近づいていた。紋次郎はすぐに閃光丸改で天空の騎士に攻撃を繰り出した。天空の騎士はそれをまともに受けるが、さしたるダメージを受けてるように見えなかった。紋次郎に近づいた天空の騎士は、剣を振り紋次郎を攻撃する。しかし、先ほどよりそのスピードが遅く感じる。紋次郎は少し余裕を持ってそれを回避した。避けるとすぐに天空の騎士に蹴りを入れた。非力のはずの紋次郎の蹴りは天空の騎士をぶっ飛ばす。


「え、何? どうなってんの?」

ぶっ飛んだ天空の騎士を見て、一番驚いていたのは紋次郎自身であった。明らかに敵が弱くなっている・・・いや・・自分が強くなってるのか・・


当たりだ紋次郎・・君が発動した神道は一心三英傑いっしんさんえいけつ・・・君のステータスは・・現レベルの三倍レベルのステータスが反映される・・今のレベルは42だけど・・ステータスはレベル126相当になっているんだ・・


レベル126、最上級冒険者と同等のステータスになった紋次郎であったが、それでも天空の騎士には遠く及ばない。不意を突かれて吹っ飛ばされた天空の騎士であったが、全くダメージは受けていなかった。それはニャン太も把握していた。天空の騎士はすぐに立ち上がると、紋次郎に迫る。


動きを制限されているニャン太であったが、もう一つ紋次郎の為にできることがあった。それはニャン太の主神の助力を得ることであった。


「我が主よ、フェルキーの名において、今この場へ降臨したまえ!!」


ニャン太がそう呼びかけると、激しく空気が震える。一瞬視界を奪われるほどの光が発すると、目の前に美しい女神が浮いていた。


「どうしたのフェルキー・・こんな所に私を呼ぶなんて・・あらエミロと喧嘩しているの? 悪いけど天界のルールで、私は下界ではあなたを手助けすることはできないですよ」

「わかっています主よ」


それを見ていたエミロが声をかけてきた。

「どうしましたかフェルキー、主神に泣きつくなんて・・天位の神は下界で何もできないでしょうに・・・それにしても暇な天神様ですね、そんな下神に呼び出されてホイホイ出てくるなんて、私の主神なんて絶対来てくれませんよ」


それを聞いていた女神は冷たい目でエミロを睨みつける。それを感じたエミロは黙り込んだ。エミロが縮こまるのを見届けると、女神はすぐにニャン太を見て優しく話しかける。

「それでフェルキー、どんな用なの」

「主よ・・あの人間に祝福を・・・」


それは、天空の騎士と戦っている紋次郎のことであった。女神はそれを聞くと微笑んでそれを了承した。

「そんなことであればおやすい御用です。しかし、あなたがどうしてあの人間の為に、私をわざわざ呼んでまでそのようなことを?」

「それは彼が僕の友だからです」


それを聞いた女神は、心底驚いたような顔をした。そして紋次郎をまじまじと見る。

「なるほど・・・面白い人間ですね・・何か妙な力を感じますし、神族に友と呼ばせる人間など初めてです。気に入りました」


ニャン太は主のその言葉を聞いて、思惑の全てがうまくいったことを確信した。


「それでは彼に祝福を与えましょう」


そう言って女神は両手を上げて、紋次郎にその光を注ぐ。光を受けた紋次郎は、急激に自分の力が上昇するのを実感した。その効果は強化でもなんでもなかった。紋次郎はこの場でレベルアップしたのである。この祝福を与えた女神の名はラミュシャ・・全ての冒険者の母である、探求の女神ラミュシャであった。


そして、ラミュシャはもう一度両手を挙げると、紋次郎に先ほどより激しい光を与えた。

「我が名はラミュシャ・・・この者に、我が寵愛を与える!」


女神ラミュシャに気に入られた紋次郎が受けたのは神の寵愛、それは全ての者に平等に与えられる神の加護とは比べものにならないほどの神の恩恵・・あらゆる面で、紋次郎は神から特別待遇をされることを意味していた。ニャン太は、女神ラミュシャが、紋次郎に寵愛を与えることを確信していた。それほど、この人間の友を信頼していたのである。







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