第114話 殲滅

疲弊した仲間へ、ルイーナは回復魔法を唱えた。一瞬で全ての仲間の体力が全快する。反則級の回復力に、ミュラーナが悪態をつく。

「チッ、これじゃあ、いくら攻撃しても意味ねえじゃねえか!」

「ミュラーナ、なんとあの女を倒せねえか!」


ポーズが言っている女とはもちろんルイーナのことであった。ポーズに言われなくてもミュラーナもそれを考えていた。このままでは持久力でこちらが先に参ってしまう。早めにあのヒーラーを倒す必要があった。しかし、ルイーナのそばには同じ英雄級冒険者であるルチャダが待機している。中々そこまで踏み込む隙を見つけることができなかった。


そこで意外な人物が、敵の陣形をかき乱してくれる。

「ここは! 私に! お任せよ!」

そう言いながらソォードはリズムカルに剣の舞を披露する。超級冒険者が数多くいる敵の集団の中に切り込んで行って、縦横無尽に斬り伏せていく。かわいそうなことに、皆あまりソォードに興味がないのか、彼の正確なレベルなどを把握していなかった。彼の冒険者レベルは145、英雄級一歩手前の実力者であった。しかも天性の剣の才も手伝って、同レベルの超級冒険者を難なく倒していく。彼の強さは高レベルのステータスではなく、剣の技術によるものが大きかった。


ソォードの奮闘に、後方からデナトスとメイルが支援する。しかし、そんな破竹の勢いのソォードであったが、一つ最大の弱点があった。それは女性を攻撃することができないのであった。それは彼のポリシーであり、生き様である。


「美しきご婦人よ、私はあなたに向ける剣など持たないのです、どうかそこをどいていただけますか!」


戦闘中に敵の女魔導士にそんなことを言い出す始末で、もちろんそんなご婦人からは、ご丁寧に攻撃魔法で返事をされる。

「ソォード! 何やってんだ!」

「ふっ、なんと情熱的なご婦人でしょうか、そのような気の強いあなたも、大変美しいです」


髪の毛を魔法で焦げ付かせられても、ソォードは不屈の精神でそれを気にしない。そんな感じで、完全とはいかないが、ソォードの活躍で、敵の陣形を切り崩し、最大限の隙を作ることには成功した。


これだけの機会を作ってもらえれば、ミュラーナにとっては十分であった。すぐにルイーナに向かって神速の踏み込みで間合いを詰めていく。一瞬でルイーナの目の前に迫ったところで、ミュラーナの周りに異変が起こる。それは地面がわからない感覚、方向感覚も曖昧になって、混乱する。それはルチャダのフィールド魔法であった。それによってミュラーナの感覚が狂わされる。


だけど、ミュラーナは百戦錬磨の強者である。すぐに目を閉じて、瞬間瞑想を行う。一瞬で混乱した脳が正常に機能し始める。感覚を取り戻すと、魔波動を発動して、フィールドの効果を中和した。2秒ほどの時間でこれだけのリカバリーを行ったのである。


そしてミュラーナはルイーナからルチャダへとターゲットを変更した。その行動をルチャダもルイーナも予測できていなかった。気がつくと、ミュラーナの双剣、双子鬼によって、ルチャダの体はバラバラに切り刻まれていた。


それを見たルイーナは、すぐに防御魔法を展開する。次の狙いは間違いなく自分であると理解していたからである。さすがに英雄級冒険者の展開する防御魔法である。それを突破するのはいくらミュラーナでも難しかった。


そこへ、それらの状況を見ていたメイルが、ミュラーナを支援をする。それは防御決壊の魔法であった。防御魔法を弱体化させる魔法で、プリーストなどが得意とする支援魔法であった。


それでもメイルとルイーナの格の違いであろうか、防御魔法を完全に無効にすることはできなかった。だが、それで十分であった。ミュラーナは魔波動を一点に集中して、ルイーナの防御壁を突破する。ミュラーナとルイーナの前には、もう何も障害はなくなっていた。


接近戦において、ヒーラーのルイーナと、戦士であるミュラーナでは勝負にならない。一撃であった。双子鬼の一つ、青鬼の一線によってルイーナは絶命する。


ルイーナとルチャダがいなくなった敵の冒険者は、勝ち目がないと悟り散り散りに逃げていく。それを追う必要がないとポーズは判断していた。それより空中城の方にいる連中が心配である、橋が落とされた今、どうやってあっちへ行こうか考えていた。



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