第113話 破壊の人形

ベリヒトはそのメイド服の少女に、ある種の歓喜と、単純な恐怖を感じていた。超人的で人間離れしたその動きに感動すらしてしまい、味方が殺られているのに、一瞬見とれてしまったほどである。


英雄級冒険者のアゾルテの魔剣の一撃を片手で受け止めると、カリスは強烈な前蹴りを食らわした。驚きの顔で高名な戦士は吹き飛ばされる。


「ご主人様たちさぁ、害をなす輩はぁ、私が許さないだぁ!」


そう言い放つと、カリスは敵の冒険者を次々となぎ倒していく。そのスピードとパワーに、立ちはだかる敵は、なすすべもなく倒されていく。


「さすがユルジール作のオートマタですね・・伝説級冒険者並みの戦闘力がありそう」


リンスが呟いたその分析は正確なものであった。カリスの推定レベルは240、まさに伝説級冒険者と呼んでも問題ない戦闘力を秘めていた。


エミロ配下の最後の英雄級冒険者であるダンジルバは、身長3mを超える巨漢であった。その巨漢の戦士は、巨大な自分の体よりさらに一回り大きな巨大な斧を持って、さらに大きく聳える巨人と対峙していた。


グワドンは武器を持ってきていなかった。その為に素手で英雄級冒険者の戦士と戦わなければいけなかった。戦いが始まると、すぐに信じられない大きさの斧が振り下ろされてきた。その大きさでは考えられないほどのスピードで、グワドンは転げるように避けるのが精一杯であった。そのままグワドンを追いかけるように斧は振り下ろされていき、それをジタバタとカッコ悪くなんとか避けていく。


リンスはグワドンとカリスを後ろから援護していた。おそらく敵も味方も含め、リンスはこの中で単体戦力としては一番低い存在だと思われた。なのでサポートに徹して、真正面による敵との交戦を避けていた。


しかし、そんなリンスの動きを見ていた男がいた。それは英雄級冒険者のルダナであった。放っておくと厄介で、攻撃すれば簡単に倒せそうだと思い、彼はリンスを狙い動き出した。


リンスは自分の後ろに敵が近づいていることに気がついていなかった。ルダナはさすがの英雄級のハンターである、完全に気配を消して接近していた。ルダナは一撃必殺の弓を弾く。それをリンスの真後ろから放とうとしていた。矢を放つその瞬間、ルダナが予想をしていない方向から攻撃魔法が飛んでくる。それはルダナを直撃して、彼を後ろの壁に吹き飛ばす。その魔法を撃った者が、先ほどまで危険にさらされていた者へ声をかける。


「リンス、どこを見てるですの、後ろに目をつけないとダメですわ」

「アスターシア、ごめんなさい、助かりました」


アスターシアはこの場での戦闘の状況を見て、すぐに自分にできる最善の行動に移る。

マスター・ブースト達人強化!」


カリス、グワドン、リンスの三人を、淡い金色の光が包み込む。強烈にステータスが強化されたのを実感する。


グワドンは、すぐにそのステータス強化の恩恵を受ける。ダンジルバの振り下ろした斧を両手で受け止めて、そのまま斧ごとダンジルバを岩に向かって投げとばす。岩が砕けるほどの衝撃で叩きつけられて、少なからずダメージを受けて膝をつく。そこへ加速してグワドンがさらに追撃する。それは巨大な体を利用した体当たりであった。さすがの巨漢戦士も、強化された巨人の体当たりを受けてはひとたまりもない、大量の血を吹き出して絶命する。


リンスは強化された身体能力を利用して、一瞬でルダナとの間合いを詰める。そのまま弓を構えさせずに短剣の連続攻撃で攻撃する。ルダナは、アスターシアの魔法攻撃のダメージで朦朧としていて、それに対応することができなかった。リンスの短剣はルダナの急所を的確に貫き絶命させた。


強化されたカリスはまさに破壊の人形であった。次々と敵の冒険者を一撃で葬っていく。アゾルテがそれに立ちふさがる。しかし、英雄級の冒険者でも、今のカリスを止めることはできなかった。最初の拳の攻撃で、レーヴェン級の鎧が粉砕する。その威力は、鎧越しでもアゾルテの気を失わすほどの衝撃であった。二発目の拳は、まさにとどめの一撃であった。身体中から出血して、その場に崩れ落ちた。


それを見たベリヒトは逃げようと、イフリーダのいる方向に走っていこうとした。そっちに行けば四天の一つがいる、自分とイフリーダの二人で戦えばまだ勝算があると考えていた。だが、逃げようとした方向から、アルティが一人近づいてきたのを見て絶望する。


「まさか・・あのイフリーダが倒されたのか・・・」


それがベリヒトの最後の言葉であった。後ろから近づいてきた破壊の人形にその命の火をかき消された。


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