第112話 女神の本気
飛翔王馬は無数の雷球を出現させる。雷球一体で、強化前の飛翔王馬と同じくらいの戦闘力を秘めていた。それが無数にリリスの周りを取り囲んでいく。このまま全ての雷球から雷撃が放たれたら、さすがに致命傷は避けられない。リリスは回避スキルを発動する。それは
雷球が雷撃を放ち、分身したリリスを攻撃する。雷撃は分身体を貫き消し去る。多くの分身が消し去られていく中、本体のリリスは、飛翔王馬の後方へと回り込んでいた。リリスは不意を突く為に、攻撃魔法を唱えようとした。しかし、その瞬間、肩に激痛が走る。飛翔王馬から放たれた高出力のライトニング・レイザーに肩を撃ち抜かれていた。飛翔王馬は本体のリリスの位置を見抜いていたようである。閃光が走り、二発目のライトニング・レイザーが放たれた。次は先ほどとは逆の方を貫かれる。
なんとか敵の攻撃から逃れようと距離を取ろうとするが、飛翔王馬は間合いを詰めてきてうまくいかない。3度目の閃光が走る。右の太ももを貫かれ、リリスは悶絶する。すぐに4度目の閃光が走り、左の太ももを貫かれる。
弄んでいる・・飛翔王馬は勝利を確信して本気で攻撃をしていない。わざと致命傷にならない攻撃を繰り返している。それは夜の女神と呼ばれる者として、最大の屈辱であった。
5度目の閃光が走る。その光はリリスの体の中心に向けて放たれた。さすがにそれが命中すると致命傷は避けられない。だが、閃光はリリスに届くことはなかった。リリスの周りに巨大な蛇が絡みつき、その身を守る。光は蛇に当たると弾き返された。
リリスに絡みつくその蛇は、リリスの本体の一部であった。普段の彼女の姿は、紋次郎を意識してか、本体の比較的人間に近い部分しか見せていない。その状態では戦闘力の本領をほとんどを発揮していなかった。
今、強敵を前に、リリスは真の姿をさらけ出していく。それは近くに紋次郎がいれば見せることのない、異形の姿であった。真の姿に近づくほどに力が解放されていく。
目の前の敵の姿が変化していくの見て、飛翔王馬は危険を感じる。すぐに全ての雷球に攻撃させて、自らもその攻撃に加わる。リリスはその全ての攻撃を、気の解放だけでかき消し消滅させる。リリスは敵の攻撃を全て消滅させると、続けて反撃を開始した。リリスの目が妖しく光ると、尾から繋がる蛇が咆哮をあげる。すると夜の女神の周りに数十の赤い魔法陣が出現して、その全てから赤い光が放たれる。その赤い光は雷球を簡単に貫き破壊する。その一瞬の攻撃で雷球の全てが破壊された。
飛翔王馬は嘶き、大きな体をさらに膨張させて強大な攻撃をリリスに向けて放とうとした・・・だがその攻撃はリリスの魔法によって封じ込まれた。飛翔王馬はいつの間にかリリスの出現させた重力フィールドに捉われていたのだ。円形の重力フィールドは飛翔王馬を完全に取り囲み、その大きさを縮小させていく。重力フィールドが縮むたびにフィールド内の重力が上昇していく。
すぐに飛翔王馬の姿は、高い重力によって潰されていき、どんどんコンパクトに縮小されていった。この時にはもう飛翔王馬は何もできない状態で、ただただ重力によって押しつぶされるのを待つだけであった。
重力フィールドが野球の球くらいの大きさに縮小すると、それは赤く輝き破裂する。そして完全に消滅した。リリスはそれを見届けると、すぐにいつもの姿に戻り、山側の橋向こうへと、ポーズたちを助ける為に飛んで向かった。
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