第111話 灼熱の戦い
火炎の魔神イフリーダと対峙するアルティは、慎重に次の行動を考えていた。自分の得意属性である炎の魔法に対して、イフリーダは絶対的な耐性を持っている。下手に攻撃を仕掛けても、状況が不利になる可能性が高かったのだ。イフリーダの方も目の前の敵がとてつもない力を持っていることを感じており、下手な攻撃ができないでいた。
膠着状態から最初に動いたのはイフリーダであった。ブツブツと人には理解できない魔法の詠唱を唱え、激しい咆哮を発する。するとアルティが立っている地面が一瞬で火の海に変貌する。アルティはその灼熱の海で、炎の波にさらわれる。
激しく炎の波が打ちつけるその場所で、アルティは平然とした顔で立っていた。それは彼女の装備している真紅のローブ、絶対的な炎の耐性を持つ神器、アグニプロヴィデンスローブの炎の加護の力であった。彼女がその装備を装備しているのには理由があった。それは自分の使う炎の魔法があまりにも強力で、炎の耐性が無ければ自分自身にも危険を及ぼすからである。
この神器がある限り、強力な炎の攻撃でも彼女には火傷も負わすことすらできないであろう。
アグニ神の力を見せつけられ、イフリーダは戦略を変更する。炎の力は熱や炎だけでは無いと、この火炎の魔神は思い出したのである。イフリーダは両手に燃え盛る炎の塊を出現させると、それを自らの体に埋め込むように放つ。青色に燃える炎が、幾つもの線となり魔神の体を駆け巡る。痛みなのか苦しみなのか、イフリーダは大地をも震わす叫び声を発した。その光景を見てアルティは、この火炎の魔神が今から何をするのか理解した。彼女の頬には一筋の汗が流れ落ちる。
「
それは炎の力による身体強化魔法であった。大幅にステータスをアップさせる代わりに、急激に意識レベルが低下する。それは破壊だけを考え、実行する、破壊神が生まれたことを意味していた。
イフリーダは雄叫びをあげながら、その拳を振り回してアルティに襲いかかる。アルティは素早くその攻撃を避ける。イフリーダの拳は、彼女のいた地面をえぐり飛ばした。避けられた怒りで、近くにあった壁を無意味に殴り壊し、叫び声をあげる。そしてアルティの方向へ、強烈なスピードでタックルを繰り出した。あまりのスピードに一瞬避けるのが遅れそうになるが、紙一重でその体当たりを避ける。イフリーダはそのまま、巨大な岩にぶつかり、それを粉々に破壊する。あまりの威力に、さすがのアルティも冷や汗をかく。
そんな圧倒的なパワーを見て、アルティは小さく微笑む。それは勝利を確信した者の表情であった。
「イフリーダさん・・・私は馬鹿には負けません!」
アルティは魔力を集中する。集まる魔力の収束風の流れの力で、彼女の体は空中へと浮かび上がる。高く上がっていくアルティに、イフリーダは近くにあった岩を投げつける。その時にはアルティの周りには高濃度の魔力フィールドが展開されていて、投げつけられた岩はそのフィールドにぶつかり破壊する。しかし、それを理解していないのか、イフリーダは何度も岩を投げつけ続ける。
アルティは長い詠唱に入った。それは彼女の持つ最強の攻撃魔法であった。もしイフリーダの意識が正常であれば、この魔法の危険性に気がついて対応していただろう。だが今のイフリーダは、狂ったただの破壊神に過ぎない。アルティは魔法の詠唱を終え、それを発動した。
「
この世界で存在する最強の炎属性魔法が発動された。とてつもない熱で、光の帯にしか見えない炎がイフリーダに降り注ぐ。火炎の魔神の高い炎耐性も、その究極炎の前には無意味であった。イフリーダの周りに漂う炎のオーラが、究極炎の熱によりジリジリと燃やされていく。炎さえ燃やすその究極炎の前には、イフリーダの体など固形燃料のようなものであった。イフリーダは溶けるように燃えると、あっという間に跡形もなく燃え尽きた。すると、燃え尽きたイフリーダのカスから、黒い靄が噴き出してくる。だけど、その靄は究極炎の残り火によってすぐに燃やし尽くされた。アルティはその黒い靄に気がつき、なんだろうとは思ったけど、燃え尽きたものを調べることもできないので気にしないことにした。
アルティの魔法は、周りの城壁や木々などを溶かし、空中城の地表に大きな穴を開けてしまった。それを見て万能の秘神は呟く。
「やりすぎちゃいましたね・・・」
貴重な遺跡を壊したことを気にしながらも、アルティはすぐにその場を後いして、リンスたちの救援に向かった。
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