第110話 聖炎龍
リュヴァは火炎龍爆撃飛攻を発動した瞬間、ものすごい違和感に襲われる。それは予感のような感覚で、自分への危険を察知するものであった。すぐに攻撃の対象を変更しようとした。だが、一度発動した火炎龍爆撃飛攻のターゲットを変更するのは困難なことであり、体をひねり軌道を少し変えるのがやっとであった。
リュヴァの攻撃を待ち構えていた氷結龍は、体から鋭い氷の刃を無数に突起させる。カウンター攻撃の刃の防御であった。さすがに攻撃力のある火炎龍爆撃飛攻でも、敵の攻撃力をそのまま跳ね返してダメージを与えるカウンター攻撃は脅威であった。攻撃力が高い分、跳ね返ってくる攻撃もそれに比例して高くなる。これはリュヴァにとって、絶体絶命の危機であった。
リュヴァはカウンターに備えて、技の威力を抑えて防御の体勢を取ろうと考えた。しかし、今その行動を取っても、跳ね返るダメージを軽減できないと判断する。幼い彼女であったが、このような状況になっても冷静に状況を分析した。
彼女は防御するのではなく、逆に加速させて威力を強めた。それはまさに自殺行為の無謀な行動に見えた。だが、それはすべて計算された、逆転の一手であった。
技の発動と同時に体をひねり、少しの軌道を変えることによって、氷結龍の刃の防御への突入に角度が付いていた。さらに体をひねり、刃の防御にまともにぶつからず、かするようにその刃に接触することによって、火炎龍爆撃飛攻の軌道を真上へと弾きあげる。
まさかそんな回避方法で、この危機から逃れるとは思ってもみなかった氷結龍は素直に驚いていた。しかし、結果からすれば、逃げ場のない真上に逃げたのは失敗であろう。氷結龍は、真上に向かって、最強の攻撃を繰り出そうと息を吸い込んだ。
リュヴァは火炎龍爆撃飛攻を加速させて、そのままグングン上昇する。それは回避行動などではなかった。やがてリュヴァは目的であるフィールドの壁にぶつかる。それは氷結龍が展開させた空間魔法を封じる結界の壁であった。それをぶち破りフィールドの外へと飛び出した。
フィールドの外に出たリュヴァはすぐに召喚魔法を唱える。
「サモン・ドラゴン!」
魔法陣が空中に浮かぶ。その魔法陣をゲートに一体の龍が姿を現した。渦巻く炎の渦が唸りを上げて立ち上る。その炎の中心に、大きな真紅の体を輝かせた高貴な龍がそこに在った。それは龍神王が腹心である八龍が一つ、聖炎龍アヴァロンであった。
「聖炎龍のおじちゃん・・・あの龍を倒して・・」
主の娘であるその少女の願いを聞き入れ、聖炎龍は破滅の炎を吐き出した。灼熱より熱く、業火より燃え盛るその炎の息は、間抜け面で上を見上げていた白銀の龍に襲いかかる。
その炎の熱により、自分の体が燃やされ、溶かされていくのを感じながら、氷結龍は失っていく自我の中に黒い塊を見つけた。それは氷結龍の死とともに大きくなっていく・・・
滅したはずの氷結龍の気配に妙なものを見つけた聖炎龍は、しばらくそれを見物する。すると、氷結龍のいた場所からモヤモヤと黒い煙のようなものが噴き出してきた。
「ほう・・暗黒瘴気か・・・何者かがあの龍に妙な種を植えていたようだな」
「おじちゃん・・どいう意味・・」
「リュヴァ、見ていなさい、あれがこの世界に蔓延る悪意の一つだよ」
「悪意・・・」
黒い靄は一つの塊となって、やがて黒光りするヌメヌメとした怪物へと姿を変えた。その怪物は上空にいるリュヴァたちを見つけて雄叫びをあげる。その雄叫びと同時に、怪物の黒い体の一部が突起して人の顔が現れた。それは一つではなく、身体中色々な場所からいくつも現れ、悲しそうな表情や苦しそうな表情を浮かべた。
聖炎龍は聖なる炎の一撃をその怪物に放った。光り輝く炎の衝撃波は、黒い怪物を粉砕して消滅させる。聖炎龍によって簡単に倒されたが、この黒欲のマリスと呼ばれる怪物は、宿主の魂を貪り食うことによって生まれる邪霊で、その推定レベルは250とまさに難敵であった。
リュヴァは黒欲のマリスの体に浮かんだ人間の表情を思い出し、なんとも言えぬ感情にとらわれていた。
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