第62話 帰路

俺たちは、アダータイの天然ダンジョンでの目的を達成したので、そのまま、ダンジョンから帰還した。その足で、エラスラのダンジョンギルドに出向いて、アダータイで起こった冒険者狩りの話を報告する。ミュラーナは大規模パーティーの依頼者に、事の顛末を報告して、正式にクエストの破棄をお願いした。


「ミュラーナ、依頼の方は問題なく片付いたの?」

「ああ、問題ないよ。あたいに落ち度はないからね、依頼主も納得していたよ。それとベリヒトのやつらのことは冒険者ギルドに報告しといた。あとはギルドが処理してくれるだろうよ」

「そうか、よかった」


「紋次郎様、今日はみんな疲れているでしょうから、エラスラで一泊いたしましょうか」

「そうだね、あの温泉の宿にしようよ」

紋次郎が話しているのは行きに泊まった宿のことであった。屋上の展望風呂を気に入ったようである。


「そうですね、あそこの酒場は料理も美味しいですし、みんな賛成すると思います」


その日の夕食は軽い打ち上げをした。みんな無事だし、新しい仲間が二人入ったこともお祝いする。お酒は控えて欲しかったけど、そんな席でそれも難しく、みんないい感じで飲み始めた。


「リュヴァは果実のジュースでいいよね?」

「・・・うん・・」

俺はリュヴァを隣に座らせ、変にから絡まれるのを防いでいた。さすがにこんな子供の前ではみんな遠慮してしまうのか、効果があるようだ。


代わりにソォードが変な絡まれ方していて、なぜか空中に貼り付けにされている。


「紋次郎〜助けてください〜〜〜」


俺は巻き込まれるのを恐れて、それを見て見ぬ振りをする。悪いソォード・・お前の屍を俺は超えていく・・・


しかし、そんなリュヴァシールドの効果も、みんなの酒の量が増えるにつれて薄れていった。最初は、リリスの過剰なスキンシップから始まった。彼女はみょうに体を絡めて俺に密着してくる。それを見つけた、風紀委員長のリンスが、目を吊り上げて注意してくる。

「ちょっとリリス! 紋次郎様にくっつきすぎです」

「あら、そんな決まりがあるのかえ? 私の肌に触れて、紋次郎は嬉しそうじゃぞ」

「また・・そんないやらしい表現をして・・とにかくどきなさい!」

「いやじゃ、私はここがいいのじゃ」

「聞き分けのない悪魔ね・・・」

「力ずくで退けてみるかえリンス」

「あなたがそれを望むなら・・私の命に代えて・・・」

いやいや・・そんなことで命をかけるなリンス!


そこでなぜかミュラーナも参戦してきた。

「紋次郎・・あたいの初めてを奪っておいて・・放っておく気かい?」

「そ・・・それはどういう意味ですか紋次郎様! ま・・まさかそんなことに・・」

「え〜〜!! 違うよ、そんなんじゃないって・・」

「紋次郎・・私のはなぜ奪わぬ?」

そう言って、リリスがさらに密着してくる。

「どきなさいって! この悪魔!」

「どかないのじゃ、ここにいるのじゃ!」


リンスとリリス・・そしてミュラーナが三つ巴でやりあっている隙をついて、アルティが俺の背後に忍び寄っていた。

「紋次郎さん・・私・・何だか寂しいの・・だから・・これ・・飲んでくれますか?」

アルティはまたよく分からないカクテルを俺に持ってきた。これは飲んじゃいけないような気がしてならない。

「アルティ・・また紋次郎に変なカクテル飲まそうとしてますね」

「チッ・・・」

今舌打ちが聞こえたよ・・アルティ・・

「邪魔よ、ちび妖精!」

「ちびじゃないですわ! 妖精の中では大きい方ですの!」


またアルティとアスターシアの睨み合いが始まった。なんとかこの状況から抜け出さないと・・


俺はリュヴァを部屋で寝かしつけるのを理由に、その場から抜け出そうとする。とうのリュヴァはこんなことを言ってるけど。

「リュヴァ・・まだ眠くない」

それをなんとか説得して、部屋に戻ろうした。そこへデナトスが近づいてくる。

「紋次郎、リュヴァを寝かすんでしょう? 私も手伝うわ」

そうきたか・・そんな申し入れを無下に断ることもできず、しぶしぶそれを受け入れて、デナトスも一緒に部屋へと戻ろうとした・・しかし、それを他の連中が見逃すはずもなく・・・


「そこ! 抜け駆けしない!」

「デナトス! 卑怯ですわ!」

「腹黒女! ちょっと待ちなさい!」


このままでは宿に迷惑かけるレベルで、暴れられそうなので俺は妥協案を提示する。


「とにかく・・みんな風呂でも入って落ち着こうか・・」

「・・・・・・」


無言で風呂に入るために、ぞろぞろと移動し始める一同。なぜか風呂って話になると素直に従うんだよね・・


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