第61話 浮遊界の井戸
龍の姫君である、リュヴァがいるおかげか、俺たちは特にドラゴンに襲われることもなく、龍の巣を探索していた。この先にお目当てのアイテム、マグル紙片が存在するとの情報を確認するためである。おそらく冒険者では初めて、龍の巣を超えて、10階層北東エリアの最深部へと足を踏み入れたのではないだろうか。下の階層への攻略ルートからも外れ、危険度も高いことから、誰も足を踏み入れてはいないと思われるこの場所を、紋次郎たちは、あるかどうかもわからないアイテムを探していた。
「あれは何かしら」
見るとそこには、円形の広い空間の中心に、井戸のようなものが不自然に設置されていた。井戸の周りは石畳になっていて、そこは満遍なく苔に覆われている。ソォードがその井戸を覗き込むと、不思議なことを言い出した。
「これはこれは・・・何かしらの歪みが見れますね」
「何よそれ、意味わかんないって」
そう言ってデナトスもひょいと覗き込む、すると同じように怪訝な表情で似たようなことを言い出した。
「歪んでるわね・・・」
「ちょっと! 気になるんだけど〜」
一同、皆、井戸の周りを取り囲んで中を覗き込む。普通は直線的にまっすぐ下に伸びている井戸の穴が、なぜかうねうねと妙な風に歪んでいる。よく見ると、その穴の先に小さな宝箱が置かれているのが見える。
「怪しい宝箱がありますね・・・」
「ソォード、ちょっと飛び込んで取ってきて」
「え〜私がですか! こんな得体の知れない場所に入るの嫌ですよ〜」
「あそこにアグル紙片が入ってたらどーすんのよ、我慢しなさい」
「確かにそうですけど、ここは公平にパカコンゲームで決めましょうよ」
「なんだそのパカコンゲームって?」
俺が聞いたこともないゲームに疑問を持ってると、皆、そんなのも知らないのか的な空気に・・どうも話を聞いていると、この世界ではポピュラーな勝負事らしく、俺の世界で言うところのジャンケンみたいなものらしい。ていうかルールを聞いてみるとジャンケンそのものであった。ただ手の呼び名が違うくらいである。グーがドワーフ、チョキがエルフ、パーが人間、そんな感じである。
「行くぞ〜〜〜パカコン、パカコン、パカコンほい」
一斉に皆、手を出す。結果・・・ソォード以外はエルフで、ソォードは人間であった。一発でソォードの一人負けが確定する。公平に決まったことである。悪いけどソォードに取ってきてもらうことになった。
「ちゃんと結んでくださいよ!」
ソォードにロープをくくりつけて、下へ降ろすことにした。ゆっくりとロープを緩めて、おろしていく。デナトスとアルティは中で何か変化がないか注意を払っている。なんだかんだ言っても、安全を考慮してるみたいだ。
ソォードは下に降ろすたびに、何やら歪んで見え始める。ちょっと心配になって声をかけた。
「ソォード、どんな感じ? 大丈夫か?」
「え? 何ともないですよ、もう少しで宝箱のところに着きます〜」
どうやら降ろされた本人には歪みがわからないようである。そのままロープを緩め、ソォードを降ろしていくのだけど、全然宝箱までつかない。
「ソォードまだつかないの?」
「おかしいですね・・すぐそこまで来てるんですけど・・・」
「何か妙な結界があるのは間違いないわね、ニャン太、何かわからない?」
「どうだろう・・もしかしたら浮遊界に繋がってるのかな・・」
「何その浮遊界って?」
「え〜と、そうだね、簡単に言うと地面の無い世界だね。地面が無いし、距離という概念が無いんだ。だからあの宝箱は近いようで遠い・・そして遠いようで近いものなんだよ」
「距離が無い世界・・そんなのどうやって近づけばいいんだろう」
「いや・・実はすごく簡単なことなんだけど、距離が無いってことは、近づく必要が無いってことなんだよ。それに気がつけばいいだけだなんだけどね」
そうか。見えている宝箱が、まだ手の届かないように見えるからそこに近付こうとしてしまうけど、実際その見えてるものが間違っているってことなのかな・・・
「ソォード〜目を瞑るんだ。そして手で宝箱を探ってみてよ」
「意味はよくわかりませんが、了解しました〜」
そう言ってソォードは目を瞑る。そのまま手でその辺りを弄るように動かす、すると何かに手が当たったようで、ソォードはそれを引き寄せた。状況はよくわからないけど、見ると、ソォードの手には宝箱がしっかり握られていた。
「ありましたよ、手に入りました!」
「ソォード、よくやった、今聞きあげてあげる」
そのままロープを引っ張り、ソォードを引き上げる。彼への労いもそこそこに、宝箱を開けることになった。こんな時は罠の察知や解除の得意なポーズがいると何かと便利なのだが、今は彼は留守番でここにはいない。そこで、リンスが宝箱に罠がないか魔法でサーチする。結果、宝箱には罠はかかっていないようなので、ミュラーナが慎重に宝箱を開ける。そこには一枚の紙切れが入っていた。
「マグル紙片よ」
「これがそうなの?」
「これはこの世界を作る時に、創造神が作った、世界の設計図を写した写本のその一部と言われているわ」
「そんなすごいものだったんだ」
「これを売れば多分1億くらいにはなるわよ」
デナトスはそう意地悪に言ってくる。でも、たとえ十億で売れても、これの使い道は決まっている。後はルーン新月とやらを待って、ニャン太に呪いを解いてもらうだけだ。それを考えると、俺は少し嬉しくなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます