第63話 エラスラの夜

二度目となる、エラスラの街にある、温泉宿の展望露天風呂。湯加減は最高だし、眺めも良い。言うことなし・・と思いたいのだが、少しだけ不満があるとすれば、必要以上に騒がしいことだろうか。


「ちょっとその石鹸とって」

「リンスさん、いつ見ても立派なものをお持ちですよね・・」

しんみりとリンスの胸を見ながら、うらやましそうにアルティが言う。


「どこ見て言ってるのよアルティ」

「まあ、アルティの胸は無いに等しいからね、リンスのに憧れるんでしょう」

「私のも立派だとは思いますけど」

「アスターシアのは形はいいんだけどね、サイズが・・」

「うるさいですわね、形が良い方が殿方は喜ぶに違い無いですわ」

「殿方って、あなたにとっては不特定多数の男たちじゃ無いでしょう? 紋次郎がどう思うかでしょう」

デナトスのそんな指摘にアスターシアはほんのり頬を赤める。


少し遅れて、ミュラーナが素っ裸で入ってきた。タオルで何も隠さないのは、彼女の性格の表れだろうか。

「何でえ、紋次郎、どうしてそんな隅にいるんだよ」

「・・・いや・・まあ、あれだよ、ここから見る景色が好きなんだ」

「あん時はあんなに大胆にあたいの唇を奪っといて、何恥ずかしがってんだよ」

「ちょ・・・ちょっとそれはどういうことですか紋次郎さん!」

「紋次郎様! ちゃんと話してもらいますよ」

「いや・・だから、それはミュラーナが毒で侵されていて・・でも気を失った状態だったから仕方なく、口移しでポイズンポーションを飲ましただけだよ」

「仕方なくって何でえ!! あ・・あたいの初めての接吻なんだぞ!」

「いや・・仕方なくってのはそんな嫌な意味じゃなくて・・」


そこへ後ろからふらりと紋次郎に近づいたリリスが、腕を首に絡めながら、耳元で囁く。

「だから紋次郎・・私にもそれをしておくれよ・・その接吻とやらを」

「リリス、びっくりするだろう。後ろからそっと近づくのはやめなさい」

「それじゃあ、接吻をしてくれたら言うことを聞こうぞ」

「こらエロ悪魔! なにどさくさに紛れて変な頼みしているの」

「だって、ミュラーナだけずるいでわないか、皆もそう思わんか?」

「う・・それはそうだけど・・」

「それではこうしませんか、みんな平等にキスをしてもらうってのは」

アルティがとんでもない提案をし始めた。てか、こいつらまだ酔ってるな・・・


「仕方ないわね。それじゃあ、3秒・・いや一人5秒よ。それは絶対守って頂戴」

「それじゃあ、順番決めるわよ」

「だぁあああああああ!!! 何勝手に決めてるんだよ、俺はそんなことしないぞ」

「ケチ・・」

「ケチですわ紋次郎」

「どけち!」

「そういう問題じゃないだろう・・・」


そんなこんなで、釈然としない俺の元へ、洗い場でゴシゴシ体を洗っていたリュヴァがおもむろにこちらに走り寄ってくる。そして不意に俺の頬にチュッとキスをすると、湯船にドボンと飛び込んだ。その一部始終を見ていた一同は、長い沈黙の後に、騒ぎ始めた。


「子供ならいいんですの?」

「紋次郎さん、どーして私じゃだめなんですか!」

「やってんじゃねえか!」

「このエロ迷宮主!」

「紋四郎! 私というものがありながら・・・あんな子供と・・」


もう・・疲れた・・温泉に入りながら疲れるってどうだろこれ。俺は癒されたいのだ。あ・・一人で温泉にゆっくり入りたいよ・・・



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