第48話 ネモリ村の料理の鉄人

ネモリ村は北天街道の終着点である為であろうか、村とは思えないほどの賑わいを見せていた。多くの露店が立ち並び、無数の飲食店が営業していた。その日はもう遅いこともあって、俺たちはこの村に一泊することにした。


比較的、手頃な値段の宿を見つけ、部屋を取る。その後、美味しい食事を取る為に外へ出て店を探していた。

「紋次郎〜何が食べたい?」

「この辺の名物って何だろうね」

「確かネモリ村の名物はマラモ芋料理だったと思います」

「私もマラモ芋の料理は得意ですよ」

ソォードはさりげなく自分をアピールする。


「私は肉料理がいいな〜」

「アルティって肉が好きだっけ?」

「魚も好きですけど、どちらかって言うと肉が好きですね」

ふっと俺の目線がリリスに向いた。そういえば悪魔って普段何食べるんだろう。道中はソォードの作ったキャンプ料理をパクパク食べてたけど、本当のところどうなんだろう、人間が好物とか言わないよね・・

「リリスは何か食べたいものとかある? 悪魔の好みってどんな感じなんだい?」

「そうじゃのう。。私はパンが好きじゃ」

意外な答えに驚く、俺以上にみんなびっくりして絶句している。


「それよりお店はどうしますか? この村には食事する場所が多くて決めるのが大変ですね。そうだ、ちょっと村人に聞いてみましょう」

そう言ってリンスがその辺にいたおじさんに美味しい店を訪ねた。

「そりゃ〜鹿熊酒場に行けば間違いないぞ、あそこの肉シチューは絶品だぞ」

しかし、その隣にいたおばさんが反論する。

「あんた馬鹿じゃないの、そんなのうさぎ亭に決まっているでしょう、あの店の野菜スープは格別よ」


とりあえず二件の候補ができた。鹿熊酒場とうさぎ亭・・これはどっちに行くべきなのだろうか・・・

「私はうさぎ亭ってのが気になりますわ」

アスターシアは基本肉を食べない、なので自然と野菜スープに惹かれてるのだろう。

「肉シチューの方が美味しそうですけどね」

肉好きのアルティはやはりそちらを選ぶよね。

「私もうさぎ亭がいいですね」

「悩むけど今は肉の方がいいわ」

リンスも野菜派かな、デナトスはイメージ通り肉を選んだ。


「え〜とニャン太とソォードとリリスはどっちがいいんだい?」

「僕はやっぱり肉がいいな」

そっかニャン太は肉が好きだっけ。

「私は野菜料理の勉強がしたいので、うさぎ亭ですかね」

「う〜ん、私は美味しいパンがある方じゃな、まーイメージではうさぎ亭とやらかな」


「俺も今は肉が食べたいかな・・なので鹿熊酒場が4人でうさぎ亭が4人だね、困った・・ちょうど半々だね」

「まぁあれでしたら、二手に分かれましょうか」

「そうだね、食事取るだけだし、それに食べたいもの食べた方がいいよね」


こうして、今晩の食事は二手に分かれて取ることになった。しかし、この選択を俺はあとで少し後悔することになる。


「肉シチューすごく美味しかったです!」

「あれは絶品だったわね」

「そうだね、僕も美味しかったと思うよ」

「そうですか、でも野菜スープも信じられないくらい美味しかったわよ」

「まーそうね、素材の味をあれだけ生かしたスープも珍しいわね」

「確かに野菜スープも美味じゃったが、パンが絶品じゃった・・もう一度所望したいものじゃ」


俺はみんなの笑顔を見て嬉しくなった。やはり美味しい食事は人を幸せにする。

「どっちも美味しかったみたいで良かったよ」

「そうですわね、だけどうさぎ亭の方が美味しかったと思いますわ」


しかし、アスターシアのその発言に異論を唱える鹿熊酒場派。

「いえいえ、どちらが上とかって話になれば鹿熊酒場でしょう」

「そうだわ、あの肉シチューが野菜スープごときに負けるとは思えないわね」


このデナトスの発言がうさぎ亭派の癇に障ったようだ。

「野菜スープごときとは何よデナトス!」

「そうですわ、肉なんて下品な食材を使っているのに美味しいわけありませんわ」


なんか険悪なムードになってきてないか・・・俺はお互いのヒートアップぶりに言葉を失う。

「果実の実を皮ごと食べるような下品な舌をしている妖精が、味の良し悪しがわかるのか疑問だわ」

「果実は皮のすぐ下が美味しいのですわ、それもわからないのでは話になりませんね」

「それより、アルティなんていつも魚の骨をバリボリ食べてるけど骨に味なんてないでしょう? 卑しすぎるんじゃないですか」

「食感がいいんです! リンスさんだって何にでも辛子油をかけて激辛にしてますけど、あれじゃ〜全部同じ味になってませんか?」

「そんなの好みの問題でしょう、辛いは美味いって言葉知らないの?」

「知りませんよ!」


わ・・・なんか関係ない方向の言い合いになってきてるよ・・・どうしよう・・・そんなん感じで俺がオロイロしていると、珍しいことに、ニャン太が眠そうな顔でみんなに発言する。

「あのさ、明日の朝食を、今日とは逆のメンバーで店に行って確認するってのはどうだい? 全員が両方食べて判断した方が早いと思うんだよね」

もっともな意見である。俺もニャン太の意見を押してみる。このまま言い合いがこじれて、魔法の打ち合いにでもなったら大変だし・・・


「そうだね、それがいいと思うよ。比べてみるとすぐわかると思うし」

「それもそうですね・・」

「まー食べればすぐどっちが美味しいかすぐに理解するでしょう」


なんとかその方向で話がまとまった。ナイスだニャン太。


そして朝食・・・俺とデナトス、アルティ、ニャン太はうさぎ亭へ、リンス、アスターシア、リリス、ソォードは鹿熊酒場へと向かった。その結果・・・


「鹿熊酒場のパンも美味じゃった」

「そうね・・マラモ芋のスープもすごく美味しかったわ」

「あら、そっちはスープでしたか? こちらはマラモ芋のサラダでした、これがまた美味しくて〜」

「うさぎ亭は卵料理が美味しかったわね」

「デナトスもやっと味の理解ができたみたいね、昨日の夕飯も卵料理が出ましたけど、あれはシェフの腕ですね、大変美味しかったです」


何だかんだ言ってもどちらの店も美味しいんだよね、結局みんなどちらも食べたら、両方ともいい店だと納得したようだ。その後は変な揉め事にもならずに、丸く収まった。この展開を読んで、ニャン太はこの提案をしたのだろうか、やはり神族なだけあってそんな予見をする目があるのかもしれない。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る