第49話 エラスラの街

大陸西北に位置する街エラスラ。大きな交易街道がいくつも通り、四方には巨大なダンジョンが多く点在する。商業的にも冒険者の拠点にも賑わう大きな街であった。そんなエラスラの街の中央には、天までそびえる大きな塔が立っている。それは10キロ離れた場所からも見えるほど高く伸びていて、エラスラの象徴となっていた。


「エラスラの塔が見えてきましたね」

「あそこに見える塔?」

「そうです。あれが見えるってことはエラスラの街まではもうすぐです」

「もうすぐってどれくらいですの」

「2〜3時間くらいでしょうか」

「まだそんなにあるの・・」

アスターシアは疲れた顔で不満の意思を表示する。


「そうね、街に着いたらまずは宿を取りましょうか、買い出しは少し休んでいけばいいでしょう」

「そうだね、そうしよう」


エラスラの街は、アルマームの街とはまた違った雰囲気で、商業都市の賑わいを見せる大きな街であった。紋次郎たちは、宿が多く営業している西地区に向かう、そこは宿の多い場所なだけあって、冒険者の姿を多数見かける。


「そこの宿はどうですか?」

「ちょっと古臭くないかしら、それよりあちらの方が良さそうですけど」

「私はあの気品溢れる建物の宿を希望したいですね」


なんだかんだ皆意見がバラバラだったけど、俺の意見が通り、温泉付きの宿に決まった。宿に荷物を置いて、少し休むと、俺たちは街へ物資の補給へ出かけた。


「デナトスたちは、干し肉とチーズを、後、干し魚や干し果実など良いものがあったら買ってきてください」

「了解したわ」

「私たちは米と豆類、後は水とパンなどを買いに行きましょう」


俺たちは二手に分かれて、それぞれ買い物で出かける。デナトス組はアルティとソォードとニャン太、俺の方はリンスとアスターシアとリリスである。


俺たちは、市場で米と豆を購入した後、パンを買うためにパン屋を探していた。


「お兄さん〜お兄さん〜何か探してるのかい?」

そう言って声をかけてきたのは小動物のような顔をした少年であった。後でリンスに聞いたのだけど、マミュルリス族と呼ばれる種族で、戦闘力が低いという理由の為、主に商業的な仕事をこなす者が多い種族だそうだ。


「え〜と、パン屋を探してるんだけど」

「パン屋かい? それなら僕が知ってるよ、教えてあげてもいいけど、ギブアンドテイクって言うのかい、僕にも何かメリットがると嬉しいんだよね、そうだ、よかったら僕が売っているものも見てくれないかい、いいものを置いてるんだよ、きっと気にいるからさぁ」

少年の売っているものに特に興味がなかったけど、珍しい香辛料が売っていて、ソォードが喜びそうなので仕方なくこれを購入した。


「ありがとう〜じゃ〜約束だからね、パン屋さんを教えてあげるよ。あの赤い屋根の建物あるでしょう? あそこの角を曲がってすぐ行ったところに美味しいパン屋があるよ」


俺たちは少年に礼を言ってそのパン屋さんに向かった。


教えてもらった場所に、確かにパン屋さんはあった。しかし・・想像していたような店とはなんか違う・・・なんか魚屋みたいな外見なんだよね。


「へい! いらっしゃい! なんにしやす?」

「・・・あ・・え〜と保存のきく、栄養価の高い美味しいパンはありませんか?」

「あるよ! そのパンがオススメだね、幾つ欲しいんだい」

それは30cmほどの大きさのパンであった。少し大きので5個くらいあればいいかなっと注文しようしたら、リリスにじ〜っと見つめられた。

「え・・と、ごこ・・いや・・それを10個ください」

「へい! 10個ね毎度!」

それを聞いたリリスはなんか嬉しそうだ。ま〜ちょっと多いように思うけど・・あまり重くはないからいいか。


その後、水を購入して、宿に戻った。すると、デナトスたちはすでに帰ってきていた。


「デナトスどう、買えた?」

「問題ないわ、干し肉も色々種類が買えたわよ」


どちらも問題なく物資の調達ができたみたいだ。後は体を休めて、ダンジョンへの準備を整えるだけだね。


その日は、宿の下にある酒場で、食事をとることにした、もう歩くのが疲れたってのが本音である。しかし、その結果、思いの外、美味しい食事をとることができた。明日から、本格的にダンジョンへと冒険を進めることもあり、今日はお酒は飲んじゃダメってことにした。それでもデナトスなんかは隠れて飲んでたみたいだけど、ま・・少しならいいんだけどね。


宿の温泉はこれで選んだってこともあり、素晴らしく良かった。どんな風に良いかというと、屋上に温泉を引いていて、そこに露天風呂が作られていたのだ。景色もいいし湯加減も最高であった。その露天風呂に浸かりながら、街のシンボルである塔を眺める、夜になると、その塔は魔法灯の光に照らされ、美しく夜の街に浮かび上がっていた。


「紋次郎、背中流してあげようか?」

「そんな隅にいないでこっちに来ればどうじゃ?」

「こらっ! ソォードあんたは入ってきちゃダメ! みんな上がった後に入ればいいでしょう」

「どうして紋次郎は良くて、私はダメなのですか〜〜〜」

「あんたはいやらしい目で見るからに決まってるでしょう」


俺が入っているのに、なぜ普通に風呂に入ってこれるんだうちの女性陣は・・・でもソォードはダメみたいだけど・・ちょっと可哀想だな・・


「あの塔の中ってどうなってるのかな?」

不意に疑問に思ったのでリンスに聞いてみた。そうするとリンスはあっけらかんと答えてくれる。

「普通にダンジョンになっていますよ。しかも有名な高難易度ダンジョンです」

「そうなの? そんなのが街のど真ん中にあって危なくないのかな」

「塔の入り口には強力な結界が張られていますから、そう簡単にはモンスターは出てこれないですから」

「へぇ〜そうなんだ」


高難易度のダンジョン・・一体どんな感じなんだろうか・・ま〜そんな難しそうなダンジョンに、俺なんかが行くことなんてないだろうけどね。


この時、紋次郎はそのように考えていたが、遠くない未来に、彼はこのダンジョンに挑戦することになるのであった。しかもその時、今の仲間たちは誰もついてこず、一人で挑戦することになるのである。










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