第44話 巨人の力
ヴァンヴェルブのパーティーはドラゴンゾンビを倒し、地下階層に進んでいた。そこは無数の罠が張り巡らされた、トラップエリアだった。罠自体は簡単なものであるが、仕掛ける場所は巧妙で、罠を回避するのに多少の時間が必要だった。
「またトラップか・・しかし、ドラゴンゾンビ倒したパーティーに、この程度の罠を大量に仕掛けても時間稼ぎくらいにしかならないだろうに・・・」
「案外それが狙いかもしれんぞ」
「そりゃ〜何の為だよ」
ヴァンヴェルブはその質問には含んだ笑い顔で答えた。彼自身にもその理由が思い浮かばなかったのだ。しかし、その考えは間違いではなかった。この罠によって作られた時間は、この先の脅威を生んでいたのだ。
デナトスは鉄の塊に命を吹き込む。それも強力な力を持った、とっておきの命であった。巨大な鉄の塊は膨大な魔力を蓄積させ、その鉄のコアに、熱い生命の鼓動を脈打ちさせる。そのエネルギーは硬い金属の身体中に行き渡り、やがて一つの命として動き始めた。
巨人のグワドンより一回り大きいその巨体に、その腕力は南の島に住むと言われる怪力巨人のギガントウーヴを凌駕する。しかも鉄の体には耐魔法の咒式がほどこされ、並の魔法では傷をつけることすらできない。まさに鉄壁の魔神と呼べる最強のガーディアンであった。
ボス部屋でグワドンは侵入者を待ち構えていた。普段と違い、グワドンの体は大きな鎧に身を包んでいた。それは巨人用の装備で、ジャイアントアーマーと呼ばれるものであった。魔法金属のアグレイタイト製のその鎧はメタラギの特注で、通常のその鎧を遥かに凌ぐ防御力を持っていた。しかもデナトスの魔法エンチャントで、スフィード級の魔法装備に強化されている。武器は巨大なモーニングスターを装備していた。それは炎の魔力を秘めた強力なマジックウェポンで、まさに鬼に金棒の武器であった。
今、ボス部屋の扉が開かれた、ぞろぞろと10人の冒険者がそこに入ってくる。グワドンは静かに立ち上がると、その冒険者たちに対峙した。冒険者の一人がグワドンを見て呟く。
「ここのボスはティタンか・・・中ボスのドラゴンゾンビの方が強ええじゃねえのか」
「いや・・待て・・何か来るぞ」
グワドンの後ろの扉から、二つの巨大な黒い影が姿を現した。
「アイアンゴーレムか・・・いや・・ちょっと違うな・・・」
戦闘はすぐに開始された。巨大な鎌を持った戦士と、片手剣とシールドを装備した騎士がグワドンに切りかかった。グワドンはモーニングスターで二人の戦士に応戦する。モーニングスターの攻撃は戦士たちに避けられ、床を粉砕する。その粉砕された床を中心に紅蓮の炎が舞い上がる。完全に攻撃を避けたと思っていた戦士たちはその炎をまともに受けてしまう。数千度の高温の炎は、戦士たちの体を燃やした。
「グォ・・・・」
「魔法武器だぞ、油断するな!」
冒険者の魔導士たちは魔法の詠唱に入る。しかし、鉄魔神の一体が、まっすぐそれにに向かって歩み寄って行く。それを見たヴァンヴェルブはその鉄魔神をけん制する。長剣を真上に上にかざして、気を集中する。そしてその気の塊に魔力を上乗せする。それは魔剣法と呼ばれる魔法と剣技の複合技であった。
「
強烈な魔法と物理の複合攻撃が鉄魔神を襲う、鉄の体に受けたその攻撃は、激しい火花を散らして、轟音が響き渡る。一瞬、鉄魔神の歩みは止まるが、さしたるダメージを受けたようには見えない。
「チッ・・丈夫なおもちゃだ・・」
鉄魔神に魔導士たちの魔法が一斉に火を吹く。様々な上級魔法がその黒い鉄の塊に降り注ぐ。鉄魔神の表面がオレンジ色に染まる。しかしそれは、その強固な装甲を打ち破るものではなかった、鉄魔神の歩みは止まることなく魔導士たちの前まで迫っていた、そしてその凶悪な腕力を振るうのである。上級冒険者の耐久力でもその豪腕の前では無力であった。一撃を受けた魔導士は粉々の肉片へと変えられる。
もう一体の鉄魔神は一人の男と対峙していた。その男は一振りの大剣を持っていて、それは赤い刀身に金色のオーラを纏った神々しいものだった。それを魔法水晶で見ていたアルティが目を細め、驚嘆の声を上げる。
「あれは龍牙無双の剣・・・ラレーヴェン級の超級武器・・」
「おいおい・・さすがにそんなもんで殴ったら鉄魔神でも無事ではすまんのじゃいのか」
メタラギの不安は的中する、龍牙無双の剣は鉄魔神の硬い装甲を貫き、触れた外装を強烈な熱で半壊させる。右脇から腰のあたりまで、ごっそりとえぐられた鉄魔神はその動きを弱める。それでも腕を振るって攻撃しようとするが、その腕も超級武器の一振りで切断される。そして動きの弱まった鉄魔神を高く跳躍すると、脳天から一途両断するのであった。
「鉄魔神が一体やられた・・・」
「まずいわね・・・あんな武器は想定外だわ」
それと同じタイミングで、グワドンは冒険者を3人をそのモーニングスターの一撃で葬っていた。グワドンが周りを見ると、鉄魔神の一体が真っ二つにされているところであった。
残った鉄魔神は魔導士を一掃して、長剣を持った剣士と戦っていた。その剣士の動きは素早く、鉄魔神の攻撃をやすやすとかわしている。しかし、その剣士にも鉄魔神に決定打を与えることができず、戦いは膠着していた。
「ダメだ。ユベロン、お前の得物でこっちも頼む!」
鉄魔神の一体を倒した戦士はそう声をかけられ、ゆっくりと残った鉄魔神の方へと歩んでいく。
「残った鉄魔神もやられたわ・・」
「もうグワドンだけだ・・やばいよね・・」
「冒険者も残ってるのは二人だけですが・・・あの二人はかなりの強さです・・このままではグワドンもやられるのは時間の問題ですね・・」
グワドンと冒険者二人の最後の戦闘が始まる。それは一方的な展開になった。グワドンのモーニングスターの攻撃はかすりもしないが、敵の攻撃は着実にダメージを与えていく。もう立ってるのがやっとの状態でもグワドンは頑張っていた。しかし、もうこれまでかと誰もが思ったその時、グワドンの後方から金色の光が飛来する。
「
グワドンの体が赤い淡い光に包まれたる。速攻の癒しの力で、みるみるうちに巨人の体は癒されていく。
「なんだあの妖精は!」
「チッ・・まだ敵がいたのか・・・ま〜妖精の一匹や二匹、物の数ではない。握りつぶしてやる」
しかし、ヴァンヴェルブのその考えは甘かった。目の前にいるその妖精は普通のそれとは違っていたのだ。
「
グワドンの体が虹色に輝き始める。すべてのステータスが大幅にアップされた。強力に強化されたその力を使い、グワドンは攻勢に転じる。それはまさに鬼神がごとく攻撃であった。巨大な体が、烈火の勢いで超級武器を持つ戦士に迫る。予想できないその動きに、その戦士は一瞬動きが止まってしまった。それは致命的な時間であり、取り返しのつかないミスであった。グワドンのモーニングスターは、神速の速さでユベロンの頭を捉える。それはまさに得物の頭に食らいつく蛇のような動きであった。
ヴァンヴェルブは何が起こったのか一瞬理解できなかった。気がつけば隣にいたユベロンの頭が破壊されたのだ。慌てて脅威となったその巨人に警戒するが、もはやその行動すら無意味になっていることに彼は気づくことができなかった。強力に強化されたグワドンのモーニングスターの攻撃を、もはや避けることも防ぐこともできなくなっていたのだ。一撃だった。一瞬、グワドンの姿が消えたと思った瞬間、ヴァンヴェルブの頭が粉砕していた。
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