第43話 戦いの序曲
マルマームの街から少し離れた山あいにある廃墟に、10人ほどの冒険者が集まっていた。その中には左の目を眼帯で覆った男がいる、彼の手には一枚のポスターが握り締められていた。
「情報では、かなり難易度の高いダンジョンのようだが、このパーティーなら問題ないだろう」
「それにしてもレベル100超え10人はやりすぎじゃないのかヴァンヴェルブ」
「失敗するわけにはいかないんだよ。必ずブフの結晶石は手に入れる」
「本部には連絡してるのか? さすがにこれだけの戦力を動かしてるんだ、了承を得てるんだろうな」
「エミロ様には話している。他の五大老の方々には結果で報告すればいい」
ヴァンヴェルブと呼ばれた片目の男は、そうは話しているが追い込まれていた。もしこのミッションに失敗することにでもなったら、間違いなく自分はただでは済まないだろう。
ウルボォール教には現在、とある目的の為に、全ての力をその達成に注いでいた。五大老と呼ばれる大幹部を軸に、それぞれが別の任務を与えられ動いている。しかし、今回の任務はヴァンヴェルブの本来の任務とは少し違っていた。彼に与えられていた任務は情報の収集であり、その実行ではなかったのである。これはもはや暴走と呼べる行為であり、失敗すれば進退は悪い方向へと進むであろう。
「それではダンジョンの攻略に向かうぞ!」
「おう!」
ヴァンヴェルブのパーティーは10人、全てがレベル100を超えていた。さらにその中には120越えの最上級冒険者が二人存在した。ヴァンヴェルブとユベロンである。この二人はウルボォール教の中でもトップクラスの力を持っている実力者である。パーティーレベル的に、ダンジョンの攻略は揺るぎないものだと彼らは思っているのだが、紋次郎のダンジョンには、彼らの想像すらできない強大な力が二つ待ち構えていることを知る由もなかった。
★
なかなか上等そうな装備に身を包んだ大規模パーティーに、ドラゴンゾンビの強烈なブレスが降り注ぐ、瘴気に対する備えをしてきたのか、そのブレスでは犠牲が出ていない。しかし、それは死者が出なかったと言うだけで、一様に大ダメージを受けてるようである。巨大な両手剣を持つ大男の戦士が、勇敢にもドラゴンゾンビの懐に飛び込む、それを後衛の魔導士たちが援護していた。おそらく必殺の一撃であろうその戦士の攻撃は、ドラゴンゾンビの首元に致命傷のダメージを与えた。だが、それがこのパーティーの限界であった。大男の戦士は他のドラゴンゾンビの爪に引き裂かれ、肉片となり、それがパーティー前衛の崩壊につながった。後はほとんど抵抗することもできず、次々とドラゴンゾンビの爪とブレスの犠牲になっていった。
「これでいくつのパーティーがドラゴンゾンビの餌食になったのかな?」
「12ですね」
「この調子だと強化グワドンどころか鉄魔神の出番もないね」
「まーおかしいくらいのダンジョン難易度だからのう、そう簡単には突破できんじゃろう」
そんな会話をしている留守番組の面目いる居間に、アスターシアが飛んできて朗報を伝える。
「紋次郎たちが帰ってきたよ〜!」
「おう〜無事じゃったか」
「ただいま〜」
「首尾はどうじゃったんじゃ」
そう聞かれた紋次郎は、リズーから貰ったマルマオの宝玉を見せた。
「うわ〜綺麗な玉だね〜」
「それでそっちはどうなの、問題ない?」
デナトスの問いに、アルティが答える。
「とりあえず、どのパーティーもドラゴンゾンビを倒すことすらできてないです。その倒した全ての冒険者から情報を抽出しましてけど、リンスさんの欲しがってるような情報はありませんでしたね・・」
そこで魔法水晶を見ていたリンスの動きが止まる。そこはダンジョン入り口が映し出されていて、10人ほどの冒険者がダンジョンに入ろうとしていた。そしてその冒険者の中に眼帯をした片目の男がいた。
「あれってまさか・・」
リンスは真剣な眼差しでジッと魔法水晶を見つめる。それは何かを見極めるかのように、その中に映ったものの情報を必死で見ていた。
片目の男が率いるパーティーは順調に進む、それは街中を散歩するように淡々と進んでいった。
「ドラゴンゾンビの部屋まで来たようじゃのう」
「さて・・どんな戦い方を見せるでしょうか・・・」
「いい勝負しそうなの?」
紋次郎の質問に、アルティが答える。
「どうでしょうか・・見たところ全員上級冒険者のようですが・・ドラゴンゾンビは並の上級冒険者のパーティーでは歯が立たないはずですから」
結果、その冒険者のパーティーが並ではないことを証明することになった。
緑のローブを着た魔導士が、大きな杖を真上に掲げる。そして魔法を発動させた。その魔法は聖なる結界の魔法。それも最上級の強力なものであった。
「
キラキラと光りながら、太い木のツルが無数に伸びて、部屋中を埋め尽くす。それは瘴気を吸い取る聖なる樹木であった。
それを見たアルティが眉を細めながら、率直な感想を言う。
「これはちょっと部が悪くなってきましたね・・・おそらくこの結界でドラゴンゾンビの能力は半減します」
力を半減されたドラゴンゾンビが相手をするには、その冒険者たちはあまりにも強力であった。一つは竜殺しの異名を持つ攻撃魔法、レイ・ヴァルド・スレイヤーの一撃で葬られ、一つは三つの上級攻撃魔法の波状攻撃に消滅され、一つは片目の男の長剣に貫かれ、滅した。これを魔法水晶の見ていた紋次郎たちは息を飲む。
「これは・・少々厄介な相手ですね」
「やべ〜んじゃねえのか、鉄魔神とグワドンで勝算はあるのか?」
「急いで鉄魔神をもう一体増やすわ。悪いけどポーズ。それまで少し時間稼ぎしてくれない?」
「何! 俺がか?」
「他に誰がいるのよ」
「チッ・・しょうがね〜な、ちょっと地下に行って罠を仕掛けてくる」
そう言ってポーズは、地下に走って行った。
「どうかな、やはりアスターシアとニャン太を投入するしかないのかな」
「なるべくそれは避けたいですね・・これから先、何があるかわかりません、なるべく秘密兵器は秘密にしておくべきだと思います」
確かにその通りである。リンスの敵が一体どんな奴らなのかわかっていなこの状況である、手の内はなるべく見せないほうがいいだろう。でも、それであの強力な冒険者をどうにかすることができるのだろうか・・・
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