第45話 その先に

おそらくアスターシアが助けに行かなければグワドンは敗れていただろう。そうなればリンスの仇の情報を得ることもできず、ブフの結晶石は相手に奪われていた。リンスはアスターシアに素直な感謝の気持ちを伝える。


「ありがとう、アスターシア・・」

「まー紋次郎が悲しむからしょうがないですわ」


10体の冒険者の死体を並べて、アルティは何やら呪文を唱える。それはネクロマンシーの呪法で死体の記憶から情報を強制的に抜き取るものであった。アルティの頭に膨大な情報が流れこんでくる。その中から必要そうなものを精査して紙に書き写していった。


「もういいですよ。蘇生に入ってください」


手に入った情報は期待以上のものだった。ウルボォール教の存在とその組織構成、その中には冒険者狩りを行う専門部隊があること・・手に入れた情報からリンスの仇は間違いなくこのウルボォール教だということがわかった。

「こいつら何しようとしてるんだ?」

「ちょっと邪悪な儀式を行おうとしてるみたいですね・・・」

「邪悪な儀式?」

「詳しくはこの人達も知らないみたいですが、どうやら古代の邪神を復活させようとしているようです」

「とんでもない奴らじゃのう」


「それともう一つ、私たちにとって有益な情報がありました。マグル紙片の情報です」

「それって絶対解呪の触媒だよね、どんな情報なの?」

「マグル紙片が天然ダンジョンにあるとの情報があるみたいです」

「それはどこのダンジョンですか?」

「クラッス地方にあるアダータイの天然ダンジョンです」

それを聞いたリンスが絶句する・・・・それはリンスが昔、冒険者狩りに襲撃されたダンジョンであった。


ヴァンヴェルブたちはダンジョンの攻略を失敗して、失意の中帰路についていた。

「どうするんだヴァンヴェルブ・・・このままでは俺たちは・・」

「もう一度挑戦する・・しかし、今のままではダメだ・・今のままではあそこは攻略できない」

「まあ、次のチャンスがあればいいがな・・・」


ユベロンの言葉は、ある意味この後の自分らの運命を予想してのものだった。それほど彼らの上の人間は甘くはなかった。おそらく何かしらの形でこの責任は取らされるだろう。その覚悟だけはヴァンヴェルブもユベロンにもあった。


星々が、はっきりとその主張をしている満天の星空。紋次郎は屋上のベンチで、炭豆茶を飲んでいた。そして一人でこれまでのこと、これからのことを考えていた。一番気になるのはリンスの敵討ちはどこを目指していくんだろうかということである。それはウルボォール教の壊滅なのか・・それとも彼らの行っている邪神の復活の阻止なのか・・・彼女の思いは成就して欲しいとは思うけど・・あまり誰かを殺したり、傷つけだりするようなことはやって欲しくないと思っていた。


「紋次郎、隣座ってもいいかい」

デナトスは控えめにそう声をかけてきた。紋次郎は笑顔でそれを了承する。


「私はね・・・呪いの解呪については少し複雑な心境ではあるのよ・・あの呪いは私の罪の証だから・・それを消すってことは罪を無かったことにするってことだと思うから・・」


俺はそんなデナトスの考えを否定する。

「もし・・デナトスに罪があるんだとすれば、それはデナトスが石化することでなんかで消えるもんじゃないと思うんだ。多分、その罪の傷はそんな体のどこかにあるもんじゃなくて、もっと内側に刻み込まれてると思う」


デナトスは、紋次郎の言葉に何かを感じたようだ・・それは何かの迷いを振り払うには十分な説得力があった。


「紋次郎・・ありがとう、少し気が楽になったわ・・」

そう言ってデナトスは紋次郎を見つめる。そして自然とその瞳は紋次郎の顔に近づいていった・・何が起こっているのか理解した紋次郎だが、緊張で動きが止まってしまった。それを了承だと誤解したデナトスはそのままさらに顔を近づけていく・・・だがその時、その光景を良しとしない人物が、横槍という名の一撃を放つ。


「何やってるのデナトス!!」

「チッ・・何よリンス・・ちょっとは空気読みなさいよ」

「何の空気なのよ! 紋次郎様が困っているでしょう。はいはい離れて〜」

「いい雰囲気だったのよ! 何てことしてくれたのよむっつり真面目サル!」

「どこがいい雰囲気よ、一方的に迫ってるようにしか見えなかったわよ」


リンスとデナトスの言い合いが始まった。困った紋次郎はそそくさとその場を退散する。





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