第36話 新たな希望
久しぶりの我が家のお風呂にゆっくり浸かる。先ほどまで険悪だった一同も、今は笑顔で入浴している。うちの温泉の効能には【揉め事】ってのがあるのかもしれない。
「旅先の村で入った温泉もよかったですけど、やはり我が家の温泉が一番ですね」
「確かにそうですね、ここの湯は落ち着きます」
「ま〜私はそこには入ってないからわからないけど、ここが最高なのには同意するわ」
俺は皆から少し距離を置いて入浴していた。しかし、それを見つけたアスターシアが声をかけてくる。
「それより紋次郎! どうしてそんなに離れてるのよ、こっちにくればいいですわ」
「いや・・俺はここがいいから」
なんとも歯切れの悪い返事をするのが精一杯である。
ふとアスターシアが、デナトスの石化した胸元を見て、彼女に質問する。妖精の彼女にはその辺のデリカシーがないのかもしれない。
「デナトスでしたっけ、あなた、その胸元はどうしたんですか?」
「これは古い罪の跡よ・・・」
「そう・・どうも強力な呪いみたいだけど、そのまま放っておくとあなた死んでしまいますわよ」
「それはわかっているわ、でも色々調べたけど、この呪いを解く方法はないのよ」
「確かに難しいかもしれないですけど・・・不可能ではないと思いますわよ」
「そうなのアスターシア! デナトスの呪いは解けるの!?」
デナトスが反応するより先に、俺はアスターシアに詰め寄っていた。あまりにも興奮してしまった俺は、裸のアスターシアを両手で握りしめてしまっていた。
「い・痛いですわ紋次郎〜。そう・・どんな呪いも解くのは不可能ではないですわ、でもその方法は私に聞くより、ニャン太に聞いた方がいいかもしれないですわよ」
「ニャン太が・・」
「確かにそうですね、ニャン太はあれでも神族ですから。神力にはどんな呪いも解く秘術があると聞いた事あります」
「ニャン太ってあのしゃべる小動物?」
「あっそんな認識だったんだ。ニャン太はあ〜見えても神獣って生き物らしいよ」
「あの子神獣なの!?」
デナトスはかなり驚いている。どうも彼女は、しゃべる動物なんて珍しいな〜くらいの感じで受け入れていたらしい。
風呂上がり。俺たちは屋上にあるバルコニーで、氷結魔法でキンキンに冷やした炭豆茶を飲んでいた。そこへアスターシアがニャン太を連れてやってきた。
「僕に用ってなんだい?」
「ニャン太〜! ちょっと聞きたいことがあるんだ」
俺たちはデナトスの呪いのことをニャン太に説明した。それほフンフンと頷きながら聞いている。一通りの説明を聞いたニャン太はこう答える。
「なるほど、話はわかった。結論から言うと呪いは解けるよ。神力に絶対解呪って秘術があるんだ」
俺はニャン太に抱きつきながら懇願する。
「ニャン太〜!! 頼む、デナトスの呪いを解いてくれ」
デナトスも俯き加減にお願いする。
「ニャン太・・おねができるかしら・・・」
一同注目の中、ニャン太の答えは良いとも悪いとも取れる内容だった。
「え〜と呪いを解くのは全然構わないんだけど・・絶対解呪にはいくつか条件があるんだ。一つは触媒、マルマオの宝玉とマグル紙片っていう素材が必要。もう一つは場所、神の聖域と呼ばれる場所じゃなければいけない、この近くだとオヴルの空中城にあるかな、最後に時、年に三度ある、ルーン新月の日じゃないとダメなんだ」
俺はそれを聞いてデナトスの肩を掴んでこう言う。
「よかったデナトス、君の呪いは解けるよ。色々条件はあるけど、そんなのは絶対俺がなんとかするから」
それを聞いたデナトスは驚きの顔をしている、そして少し震えながら俺に絞り出すような声でこう言ってきた・・
「紋次郎・・・ありがとう・・私・・・」
彼女の瞳には涙が溜まっていた・・
「次のルーン新月までは2ヶ月ありますね」
「そうなんだ、じゃーそれまでになんとかって触媒だっけ?それを集めとかないと」
「マルマオの宝玉とマグル紙片ですね。かなりレアリティの高いアイテムですが情報を集めておきます」
リンスがそう言ってくれた。
「それとリンスの件も片付けないと」
それを聞いてデナトスが慌ててリンスに謝罪する。
「ごめん、リンス・・あなたの件が途中なのに、こんなことになって・・」
「大丈夫よデナトス。気にしないで」
「まーまだ2ヶ月あるから、リンスの件も同時進行でやっていこうよ」
俺のその言葉にみんなうなずく。何にしろ、解決策が見えてるのはやる気も出るもんである。色々課題は増えたけど、どれも大事な家族の問題の解決のためである。俺は心に気合を入れて、残っていた炭豆茶を飲み干した。
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