第35話 疲れるお疲れ会

我が家へに到着すると、デナトスが入り口で迎えてくれた。久しぶりに見るその顔は安堵とも、喜びとも取れる満面の笑顔だった。


「ただいま〜デナトス」

「おかえり紋次郎〜無事に帰ってきたわね」

「よう主! どうだった初めての冒険はよう〜」

ポーズはいつものようにヘラヘラと俺の肩に手を回してそう聞いてくる。

「ははっ正直疲れた」

「そうだろう、そうだろう〜それよりお土産はねーのかよ、お土産はよう〜」

「ポーズ、私たちは遊びで出かけたんじゃないのよ、そんなのあるわけないでしょう」

リンスの厳しい返しに仏頂面でポーズはぼやく。

「しけてんな〜」

「そういえばソォードとグワドンがいないね?」

「あいつらは今買い物に行ってるよ」


「ここが紋次郎の家ですのね」

そう言ってパタパタとアスターシアが入ってくる。それを見てポーズが怪訝な顔で聞いてきた。

「主よ・・・この虫は何だ?」

それを聞いたアスターシアは睨みつけるようにポーズに言葉を投げる。

「虫とは私のことを言っているのですか、性悪ホビット!」

「何だと、虫が人語を喋ってんじぇね〜よ」

「ほほう・・最近のホビットは口の利き方を知らないようですね・・」

アスターシアはそう言うと短い詠唱を唱える、それは速攻呪文、威力の弱い雷がポーズの体に適度な激痛を与える。

「ウギャーーーー!!」

感電したポーズは床に転がり落ちる。


「大丈夫かポーズ・・・」

「自業自得じゃ放っておけ」


「デナトスには紹介しておくね、こちらの妖精がアスターシアで、こッちがニャン太、うちの新しい家族だよ」

「そう、よろしくね、アスターシアにニャン太」

「まーよろしくしなくもないですわ」

「よろしく、ダークエルフのデナトスとやら」


それからしばらくして、ソォードとグワドンが買い物から帰ってきた。俺の見つけるとグワドンはドスドスと近づいてきて、俺の脇を持ち上げ、喜んでいる。

「紋次郎・・無事・・・帰ってきて・・・よかった・・」

「紋次郎、おかえりです。久しぶりに私の料理が恋しいでしょう。すぐにご馳走をこしらえますね」

「あっ、ありがとうソォード、そうだ、今回の冒険のお疲れ会をしたいので、少し豪勢な食事を用意してもらっていいかい」

「かしこまりました。それではいつもの5倍豪勢にこしらえましょう」


言葉通り・・いや、これはいつもの5倍どころではない豪華さで食事が用意された。肉料理も多いので、ニャン太もにょーにょー喜んでいる。ちょっと悩んだけど、お酒も用意してもらった。だけどリンスとアルティ・・そしてアスターシアにあまり飲ませないようにしないと・・


「これはシャルネート酒の二十年物じゃないですか! よく手に入りましたね?」

「ちょっと酒屋につてがございまして、良い酒がたくさん手に入ったんですよ。今日はご婦人方に思う存分飲んでもらおうと思いまして用意しました」

「ソォードもたまには役に立つじゃねーか」

「たまにではないですけどね」


「よし、主! お疲れ会をはじめるぞー挨拶しろ〜」

ポーズにそう言われて紋次郎は、ちょっと照れながら席を立つ。

「え〜と、色々大変だったけど、今回の冒険の目的も達成したし、アスターシアとニャン太という新しい仲間も増えた。結果的に、実りの多い冒険だったんじゃないかと思っています。冒険に出たメンバーも留守番をお願いしたメンバーも本当にお疲れさんです。今日は思っ切り飲んで食べて、疲れを癒してください。え〜とそれじゃ〜乾杯!」

「乾杯!!」

こうして、お疲れ会が始まった。この時、かなり嫌な予感がしていたのだけど・・まさかあんなことになるなんて・・・


「メタラギ。それ取って」

「紋次郎〜ここにお酒を入れてちょうだい」

「え! いいけど飲みすぎちゃダメだよアスターシア」

「わかってますわよ」

「グワドン! てめー! 俺の肉取るなよ!」

「ポーズ・・残してる・から・・もう・・食わないと・・・思って・・」

「ちげーよ! 好きだから大事に取ってたんだよ」

「ニャン太ちゃん、これ好きなんだね、メイルのも食べていいよ」

「いいのか! おめーいいやつだな〜」

「紋次郎さん、私にもシャルネート酒を一杯ください」

「アルティも飲みすぎちゃダメだよ」

「え〜もちろんわかってます」


アルティは満面の笑みでそう答える。しかしその笑顔が怖いんだよな・・


最初の揉め事は意外なところから始まった。


「なんじゃとポーズ、ワシの作る装備が古いじゃと」

「いやいや、そーは言ってねーよ。ちょっとデザインがワンパターンじゃねーかといってるんだよ」

「デザインなど二の次じゃ、装備に大事なのは機能性じゃからのう」

「最近のやつらは見た目も気にするんだよ」

「最近のやつらなど知らんわい」

「俺はメタラギの装備好きだけどな〜」

「主はセンスねーんだよ」

「ポーズ、あんたにはあるのセンス」

「もちろんよ〜センスの塊みたいなもんだろう」


自分でそれだけ力強く言い切れるのは逆にすごいと思ってしまう。メタラギはふんっと言って酒を大きな器で浴びるように飲み始めた。それを見たポーズも負けじとハイペースで酒を飲み始める。


そこでデナトスがポーズをどけて、俺の隣に割り込んできた。

「紋次郎、飲んでる?」

「ちょこちょこ飲んでるよ」

「ほら、私が注いであげるよ」

「あっありがとう」

デナトスは酌をするつでに妙に密着してくる。足をくっつけて、肩を寄せてくる。それを見たアスターシアが抗議の声を上げる。


「そこのダークエルフ! 紋次郎にくっつきすぎじゃないの!」

「久方ぶりのふれあいですよ、くっついて、触れて、寄り添って・・そうしないと私の心が満たされません」

「なぁんですと・・」

あまりにも堂々としたその態度に、アスターシアは絶句する。

「デナトス・・はしたないですよ、そんな触れ合うとか・・・」

「リンス、あなたたちは紋次郎と冒険中ずっと一緒だったんでしょう、今日くらいは私に譲りなさい」

「譲るとか譲られるとかそんな問題じゃないでしょう、紋次郎様も迷惑しているわよ」

「紋次郎、迷惑なの?」

デナトスは至近距離で、色っぽい目で俺を見つめてそう聞いてくる。ちょっと戸惑いながらこう答える。

「いや・・迷惑ではないけど・・」

「ほら。迷惑じゃないって」

「そんな聞き方したらそう答えるに決まってるでしょう」


そんなリンスとデナトスのやり取り中に、トコトコと近づいてきたアルティが、俺の右隣に座っていたメイルに声をかける。

「メイルちゃん、ちょっとそっちにズレてくれる?」

「どうしたのアルティおねーちゃん・・目が怖いよ」

メイルはアルティの迫力に押されたのか、恐る恐るズレてスペースを作る。そこに座ったアルティは、俺になみなみとお酒が注がれたコップを渡して、笑顔でこう言ってくる。

「紋次郎さん・・これ美味しいんです。ぐいっと飲んでください」

それを進めるアルティの目が少し怖い・・

「アルティ、紋次郎にそんな怪しいカクテル飲ましてどうする気ですの」

アスターシアがアルティに食ってかかる。

「黙ってなさいチビ妖精」

あ・・・アルティ酔ってるなこれは・・いつの間にそんなに飲んでたんだ。


「妖精王たるこの私をチビ呼ばわりとは・・喧嘩を売ってるようですわね、無能の秘神」

「売るつもりはないですけど・・どうしてもと言うならお相手しますけどチビ妖精」

アスターシアとアルティの周りに、魔力の渦だろうか、何やらオーラのようなものが揺らめき始める。うわ・・・ちょっとヤバくないかこれ。そうだ、リンスに止めてもらおう。

「リンス・・え・・」

見るとデナトスとリンスが一触即発の状態になっているじゃないか。二人ともバチバチと火花を散らしながら今にも魔法を発動しそうな勢いである。うわ・・ポーズとメタラギ寝てるよ・・・こんな時に・・・


メイルは部屋に戻ったみたいでいなくなってるし・・勘がいいなあの子・・そういえばニャン太もいない・・・グワドンとソォードはこの状況に恐怖を感じているのか、部屋の隅で震えている。う・・ここはなんとか俺が止めないと・・今にも戦闘が始まりそうなこの雰囲気に、勇気を振る絞って声を出す!


「スト〜〜〜〜〜ップ!!」

その声にリンス、デナトス、アスターシア、アルティは俺に注目する。そこで提案をする。


「一緒に風呂にでも入りに行こうか〜!」

少しの沈黙の後に、無言でゾロゾロと風呂場に移動始める一同。間抜けな策だと思ったけど意外に効果があったようだ。風呂で一汗かけば酔いもさめるだろう。それを期待して紋次郎も風呂場に移動するのであった。









 




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