第31話 冒険者狩り

「どうやらワシらが一番乗りのようじゃのう」

「そうだね。お兄ちゃん大丈夫かな〜」

「ま〜紋次郎も多少は経験を積んでおる、それほど心配せんでいいじゃろう」


その時、メタラギとメイルは自分たちの周りに、微かな殺気を感じていた。それは一つや二つではなく、二桁を超えている。

「おじちゃん・・・」

「わかっておる。これはちょっと厄介じゃのう」


メタラギは周りの殺気の配置から、自分らを完全に包囲してから襲いかかると読んだ。このまま包囲を完成させてはかなりまずいことになる。メタラギは周りを見渡し、万年桜の裏側に階段を見つけた。


「メイル、あの階段まで走るぞ」

「うん。わかった」


二人は同時に動く、素早い動きで、階段まで走り抜ける。それを見た襲撃者たちは、自分たちの存在を察知されたことをこの時気づいた。もはや隠れている必要もない、周りで気配を消していた集団は一斉にメタラギたちに襲いかかった。すでに詠唱に入っていたのか、すぐに10発ほどの攻撃魔法が、メイルとメタラギに降り注ぐ。しかし、その魔法の全てがメイルの追撃魔法に撃ち落される。エナジーパトリオット、魔法エネルギーに反応して自動追尾するエナジーボールを出現させ、その攻撃魔法を相殺する高位の追撃魔法である。威力の強い魔法には効果が無いが、一般的によく使われる、ファイアーボールやエナジーボルトくらいの魔法なら、100%追撃する。


「ナイスじゃメイル〜」

「褒めて褒めて〜」

魔法を全て追撃された襲撃者たちは、弓やボウガンで後ろから攻撃してくる。しかしメタラギたちはすでに階段の入り口まで来ていた。だが、そこには襲撃者が二人待ち構えていた。槍と両手剣を持つ二人の襲撃者が、前を走っていたメタラギに襲いかかる。メタラギは槍の一撃をかわすと、両手剣の男に戦斧を叩き込む。その攻撃を両手剣で受け止めようとするが、メタラギ自慢の戦斧の威力は凄まじく、無名のその両手剣を真っ二つに粉砕して、襲撃者を絶命させる。


槍を持つ男は、メイルの高速詠唱のエナジーボルトで精神を撃ち抜かれて即死する。


「おじちゃん〜この人達そんなに強くないね」

「そうじゃのう、しかし、後ろには高レベルぽいのも何人か見かけたし、数も多いから油断はできんぞ」


メタラギの推察通りに、この襲撃者の中には高レベルの者も含まれていた、その中には黒の狐と呼ばれ恐れられている、ベハルキと言う名の魔法剣士がいた。

「べハルキ、あのドワーフと子供、相当強いぞ」

「見ていた。だがその分装備も一流のようだ、実りがあるのなら倒す価値はあるだろう」

「そうだな、なんせーこっちにはあんたと、レベル80超えが5人もいる、負けることはないだろう」


「ハンプキンさん、奴ら11階層に逃げ込んだようだぜ」

「上物の獲物だ、逃がすなよ」


冒険者狩り・・それは冒険者を狩って生計を立てている集団。不意打ち、罠などを駆使して冒険者を殺し、その装備品の全てを奪う。蘇生などせず、そのまま遺体は放置して腐らす。もちろんダンジョン法違反で立派な犯罪者である。彼らの多くは、ダンジョン管理者のいない、天然ダンジョンや自然保護ダンジョンに出没する。


「ここが自然保護ダンジョンというのを忘れていたの・・」

11階層に逃げ込んだメタラギとメイルは、襲撃者を迎え撃つ場所を探していた。


「おじちゃん、そこの通路がいいんじゃない?」

「そうじゃのーここなら囲まれることもないじゃろう」


メタラギとメイルが選んだのは幅が5mほどの通路だった。後ろには扉があり、最悪そこに逃げ込めることも計算に入れていた。


「来たぞ」

「うん」


メタラギが前に出て敵を迎え撃つ。メイルは後ろで呪文の詠唱に入った。メイルはヒーラーである、デナトスやアルティのように強力な攻撃魔法は使えない。しかし、それでも高レベルの彼女には、一般的な中級ウィザードなどを凌駕する攻撃魔法のストックがあった。

エンターライズ・オーダイム閃光の雷撃!」

無数に煌めく光の雷が、襲撃者数人に降り注ぐ、攻撃を受けた襲撃者は一瞬まばゆく光り、黒い塵へと変わる。この強力な攻撃で、ひるんだ襲撃者をメタラギは戦斧で真っ二つにする。

「まだまだ来るぞ」

メタラギの言うように、後ろから襲撃者が次々とやってきていた。その数は20・・いや30ほどいるだろうか・・

「さすがに数が多いよ・・」


べハルキは後ろからその戦いを見ていた。そして二人の力量を見図ると、ハンプキンに声をかける。

「ダメだな、俺たちがやろう」

「べハルキ、お前が出るのか?」

「そうだ、でないとあの二人は倒せない。他の連中は下がらせろ」

「奴らはそれほどか・・わかったそうしよう」


メタラギが5人目を倒した時に、その異変が起こった。


「どうしたんじゃ・・敵が下がっていくの」

「諦めたかな?」

「そんな連中じゃないじゃろう・・何かあるのかの」


下がっていた襲撃者に変わり、6人が前に出てきた。それは先程の連中とは明らかに雰囲気が違った。


「本命じゃの・・これは困った」

「おじちゃん・・」


まずは二刀流の剣使いが一歩踏み込んできた、それにメタラギは反応する。しかし、その行動はフェイントだった。その横のレイピア使いが、メタラギの隙をついて、神速の速さで突きを繰り出した。意識が二刀流にいっていたメタラギは、その早い攻撃を避けることができなかった。なんとか致命傷は避けるが、肩を貫かれる。

「おじちゃん!」

「大丈夫じゃ・・」


次は3人が一斉に動く、二刀流が左から、レイピアは右から襲いかかる。そして正面からは巨大なバトルアックスを持った大男がメタラギにその恐怖の塊を振り下ろした。

「十段魔人旋風斬!」

それは強烈な衝撃だった。メタラギが戦斧を横に薙ぐと、竜巻のような渦と、大地が揺れるような衝撃波が生まれる。それは一斉に動いた3人を飲み込み、風撃のダメージを与えながら吹き飛ばした。


「やった、おじちゃん」

しかし・・その大技は攻撃後に大きな隙を生んでいた。それを見逃さない男が敵に存在していたのがメタラギの不幸であった。


一瞬の踏み込み。それはまさに無駄のない動きであった。メタラギが気がついた時にはその男は目の前に立っていた。そして魔法で強化された剣で、やすやすとメタラギの胸を貫いていた。

「おじちゃん!」


それを目撃したメイルはとっさに呪文を唱えていた。それは暴風の魔法、攻撃力はそれほどないが、強力な風で、相手を吹き飛ばす。


風に押し戻されて、その男はメタラギに止めを刺せなかった。その隙にメイルは小さい体でメタラギを担ぐ。そして後方の扉に逃げ込んだ。急いで扉に魔法の鍵をかける。

セラフィム・フィールドロック空間閉鎖!」


これでしばらくは入ってこれないだろう。そのうちにメイルはメタラギの傷を癒し始めた。




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