第30話 万年桜

「次の階層が、みんなとの待ち合わせ場所になります」

リンスの話だと、俺を捜索する為に、バラバラに行動していたパーティーの集合場所が、10階層にある万年桜という名の木らしい。それを聞いて紋次郎は元の世界で、毎年、春になると有名な公園で花見をしていたのを思い出していた。日本の桜も十分美しかったが、万年桜はまた別の存在感を示していた。


それは幾多の輝き光る花を咲かせた、巨大な桜の木であった。壮大とは言い過ぎではなく。威厳あるその風格は自然の力を見せつける。ダンジョンの中とは思えないほどの自然に囲まれ、天井からは屋外の昼間ほどの明るい光が差し込んでいた。その広い空間のどこからか優しい風がふき流れてくる。その風は万年桜の花木を揺らし、美しい花びらを撒き散らす。


「すごいね・・こんなでかい桜見たのは初めてだよ」

「この万年桜の保護の為に、ここは自然保護ダンジョンに指定されていますから」

「まーここも僕の庭見たいものだからな〜よくあの根元で寝てるぞ」

「・・・」

「うん? なんか変な顔してるけどどうしたリンス」

「いえ・・・ただ・・一つだけ聞きたいのですが・・その者はなんですか?」

「あ〜そうだ、紹介してなかったね。この子はニャン太だよ」

「ニャン太・・・・そうですか、私には神獣のフェルキーにしか見えないものですから」

「ニャン太、お前フェルキーって名前なの?」

「まー人間はそう呼んでるな」

「そうかそうか、でもニャン太の方がいいよね?」

「まー紋次郎の呼びたいように呼んだらいいよ」

「うん? リンス、頭抱えてどうしたの?」

「いえ・・紋次郎様・・神獣というのは下級でありますが一応、神族に属するものです。そのような接し方をする人は初めて見ました」

「へ〜ニャン太って偉いんだね」

「僕は別に偉くはない、そいつが言うように下級だからな」

「またまた謙遜して〜」

そう言いながら俺はニャン太の腹をくすぐる。ニャン太は真顔でそれを嫌がりながら体をくねらす。

「ダァーーー!! やめい!」

「ははははっ可愛いな〜ニャン太は〜」

その光景見て、リンスは上を見上げて目を瞑る。それは神々への謝罪なのか、聞こえない声で何やら呟いた。


万年桜は小高い丘の上にあった。その丘の下にはいくつもの小川が流れていて、そこで水をくみ上げる。ここの水も冷たく綺麗で、どうやら飲料水として使用できそうであった。このダンジョンの水はみんな綺麗だ、おそらくこの地下に来るまでに、地上の水がろ過されて流れこんできているんじゃないだろうか。


「紋次郎さん!」

炭豆茶を粉末状にしたものに、沸騰したお湯を注いでいる時にそう声をかけられた。


「アルティ〜よかった合流できて」

「本当に心配しましたよ〜怪我はないですか?」

「大丈夫、ピンピンしてるよ」


それからすぐ、炭豆茶を美味しく飲んでいる時にアスターシアが飛んできた。

「紋次郎! 大丈夫ですの〜」

「アスターシアも大丈夫かい」

「妖精王に何言ってるですの、私にとってはこんなダンジョンなんて、街をショッピングしてるのと変わらないですわ」


妖精のアスターシアが、街でショッピングする光景を想像して違和感を覚えるが、指摘すると怒られそうなのでやめとく。これで後はメタラギとメイルがくれば全員集合だな。


しかし・・待てど暮らせど・・メタラギとメイルは、いつまでたっても現れなかった。


「遅すぎますね・・」

「何かあったんだろうか・・モンスターにやられちゃったとか」

「それはありえないですね。ここのダンジョンレベルは60くらいです。メタラギとメイルの冒険者レベルは最低でも100前後です。冗談でも負けるようなレベル差ではありません」


そうなんだ・・あの二人がそこまで高レベルとは少し驚いたが、それなら確かにモンスターに負けるようなことはないように思える。

「そうだとすれば何があったんだろ・・・」

「リンスさん、絶対探索で調べられますか?」

「わかりました。探索してみます」


絶対探索を使用したリンスは顔色を変える。

「リンス・・どうした?」

「不測の事態が起こったみたいですね・・・二人の反応がここより下の階層にあります」

「迷ってるのかな?」

「下の階層に行くには、万年桜の裏側にある階段を使わないといけないですから、迷って下に行くってことはありえないと思います」


アルティのその話を聞いて、俺は急に心配になってきた。

「ちょっとやばそうだよね、探しに行った方がいいよね」

「そうですね、状況的に助けを求めている可能性があります。行ってみましょう」


こうして、俺たちはメタラギとメイルを探しに下の階層へと向かった。このダンジョンに来た目的であるブフの結晶石も下の階層にあるそうなので、どっちみち集合したら行く予定ではあった。


実は万年桜には紋次郎たちが一番乗りではなかった、その前にメタラギとリンスは到着していたのである。しかし、そこで二人はトラブルに巻き込まれていた・・













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