第32話 激昂
万年桜の裏にある、11階層へ続く階段、そこで見知らぬ二人の冒険者の死体を見つけた。リンスが近づき、それを調べ始める。
「一人はメタラギの戦斧でやられてるみたいです・・」
それがどういう意味かすぐに理解して、リンスの顔色が変わる。
「冒険者狩りですか?」
「だと思います。おそらくここで奴らに待ち伏せを受けて、敵の数が多いので戦う場所を変えるために下へ行ったんですね」
「それじゃーすぐに助けに行かないと」
「はい。その通りです」
11階層に降りると、リンスはすぐに絶対探索の魔法を使用する。そこでメタラギたちの場所を確認する。
「北西100m・・」
すぐにその方向へ向かう、所々で戦いの痕跡があり、メタラギたちが追われながら戦闘していたのが見られる。
「そこの先です」
リンスの言葉に一同は表情を変える。おそらくもうすぐモンスターとの戦いではない、人同士の戦闘が始まる。
ハンプキンはイライラしながら部下の魔導士たちが魔法の鍵の解除を行っているのを見ていた。
「まだ鍵は開かないか!」
「もうすぐで解除できます」
「手こずらせおって・・・」
魔法の鍵が解除された瞬間、ハンプキンは後方で異変を感じた。
「どうした!?」
「襲撃です! どうやらこいつら仲間がいたようです」
「なんだと!」
アルティの範囲攻撃魔法は強烈だった。狭い通路に密集していた冒険者狩りをまとめて一掃する。それを見ていたべハルキは驚愕の声を上げる。
「ノヴァ・エクスプロージョン・・・豪炎の咆哮だと・・・」
それは最高位に位置する炎の魔法であった。実はアルティにはまだまだ上位の魔法があるのだが、それらは伝説級の魔法であり、一般的にはこのレベルの魔法でも驚愕に値するのである。
しかし、アルティの魔法から逃れた冒険者狩りが一人、紋次郎に斬りかかる。それを見たニャン太が「にょ〜」と一声発する。すると襲撃者の動きが止まる。石のように固まったその冒険者狩りはもう動く事はななかった。これは魔法ではなく、神力と呼ばれる魔法より上位の法則で発動する力であった。神族のみ使える秘技であり、人に真似できるものではない。
リンスは怒りに燃えていた。それは冒険者狩りへの嫌悪・・彼らの存在を完全に否定するハーフエルフは、自らに強化魔法を唱えた。
「
リンスの体が淡く光る。素早い動きがさらに加速する。もはや光の帯とかしたその動きで冒険者狩りに襲いかかる。流れるような動きで次々と短刀で切り裂いていく。すべての敵を切り裂き尽くすまでその攻撃は止まらないかに見えた。しかし、全身黒い鎧に身を包んだ男の剣に阻まれる。
「調子にのるなよ!」
リンスは物理攻撃より攻撃魔法の方が得意である。本来なら距離をとって得意な魔法攻撃に移るべきではあるのだが、彼女の怒りの心がそうは選択しなかった。高レベルの魔法剣士相手に接近戦を挑むのであった。リンスは素早い攻撃で急所を的確に狙う。しかし、やはり接近戦のスキルはべハルキの方が上のようで、その全てを受け流される。そして黒い魔法剣士は攻撃を受け流しつつ、反撃する。鋭いその攻撃は何度もリンスの肌を切りつけていく。致命傷は避けるが、切り裂かれた肌から血が流れ落ちていく。
その状況を見ていたアスターシアはため息をつきながら支援魔法を唱える。
「
リンスの体が虹色に輝き始める。そしてステータスが大幅にアップされる。
全ての能力が強化されたリンスの攻撃は凄まじかった。残像を残すような連続攻撃に、べハルキは為す術もなく、攻撃が次々とヒットする。右手、肩、左脇と切り裂かれていき、ダメージが蓄積されていく。べハルキはたまらず後退する。
「なんだそのふざけた強化呪文は!」
黒の魔法剣士は高速詠唱の魔法を唱える。それはマジックアローと呼ばれる初級の攻撃魔法であった。威力はそれほど高くないが、その分発動が早い。この距離だと確実にヒットすると確信していた。しかしそれは甘い考えでった。マジックアローはリンスの体をすり抜けて、後ろの壁に吸収される。すり抜けたように見えたが、リンスは紙一重で避けていた。そのまま距離を詰めて短刀を振りかざす。べハルキは剣でそれを防ごうとするが、凄まじいスピードに間に合わない。一撃目がヒットすると、そのまま怒涛の連続攻撃が繰り出される、次々と急所を撃ち抜かれていき黒の魔法剣士は絶命する。
べハルキを殺られたの見て、ハンプキンと残った冒険者狩りは狼狽える。もはや勝負は決していた。べハルキを倒したリンスは、そのまま残りの冒険者狩りに襲いかかる。
全ての仲間を倒されたハンプキンは呆然と立ち尽くす。その彼の後ろには、メイルに傷を癒されたメタラギが立っていた、それに気がついた時には、すでに彼の頭上にはメタラギの戦斧が迫っているところであった。
「すまんのう、助かったわい」
「お兄ちゃんだ〜!」
「メタラギ、メイル、よかった無事で」
皆が無事を喜ぶ中、リンスは肩で息をしながら、上を見上げていた。いつもの冷静な自分に戻る為に、心を落ち着かせる。そんな中、暖かい手が肩に触れる。
「紋次郎様・・・」
紋次郎が黙ってリンスに微笑みかけた。その笑顔を見ただけで、リンスの怒りの熱がスーっと冷やされていく。
冒険者狩りたちの遺体はそのままにしておくことにした。そして街に戻った時にダンジョンギルドに通報しておけば、あとはギルドが処理してくれるらしい。聞くと一応はみんな蘇生はされるみたいだ。しかしそのまま拘束されて牢屋に送られるとのことである。
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