第28話 単独行動
紋次郎は、暗い通路を閃光丸の淡い光を頼りに先に進む。通路の両脇には、たまに扉があるのだが、扉を開いて中を確認する気持ちの余裕のない彼は、それらは無視して通路をひたすら真っ直ぐ進む。
代わり映えのしないその通路を何も考えず、黙々と進む。程なくすると、少し先にふわっとした明かりが見えてきた。それはオレンジ色の光で、フワフワと動いているのを見ると、こちらに向かって歩いてきているように見える。紋次郎は仲間の誰かが助けに来てくれたと思い、気持ち急ぎ足で、その明かりに向かって歩みを進めた。
しかし、その明かりの主を確認できる距離に来て、初めてそれが仲間なのではないと気がつく。それは腰にランタンをつけ、古い鎧に身を包んだ一人の剣士だった。ただ・・その顔には、肉や皮膚など表情を構成する素材が一切なく、完全な無表情のドクロの頭だった。
「うわっ!!」
ドクロの剣士は俺を見つけると、すぐに剣を抜き、攻撃してくる。それをアルゴシールドでなんとか受ける。俺は閃光丸で攻撃しようとするが、敵はその隙を与えてくれず、次の攻撃を繰り出してきた。とっさにその攻撃を閃光丸で受けてしまう。それは致命的なミスであった。攻撃を受けた閃光丸は俺の手からはじき飛ばされてしまい、後方へ転がっていく。
「やばい・・」
閃光丸以外に攻撃手段のない俺は、ここから防戦一方になる。ドクロの剣士の怒涛の連続攻撃をアルゴシールドでひたすら受ける。このままではやばいと・・なんとか打開策を考える。そこで腰の袋に、炸裂玉と呼ばれる攻撃アイテムが入っていることを思い出す。それはデナトスが持たせてくれたもので、敵に投げつけると激しく弾け、相手を怯ませる効果のあるものだった。なんとか激しい攻撃を防ぎながら、腰の袋からそれを取り出す。そして思いっきりそれをドクロの剣士に投げつけた。
バシューーー!! 激しい音と光でドクロの剣士は後ろによろめきながら後退する。俺はその隙に、飛ばされた閃光丸を取りに走った。それを見たドクロの剣士は素早い動きで、俺を追いかけてくる。
閃光丸を取ると、すぐ後ろまで迫ってきていたドクロの剣士に向けて振り抜いた。光の閃光がドクロの剣士を粉々に砕き、蒸発させる。後には剣士の装備していたランタンが転がり落ちた。
ドクロの剣士が持っていたランタンはすごく丈夫なようで、どこも壊れていなかった。これは使えると思い、俺はそれを自分の腰に取り付ける。
気を取り直して、先に進む。ランタンのおかげで視界が広がり、かなり進みやすくなった。
進んでいた通路のゴールは下へ行く階段であった。上ではなく、下へ行くのにすごく抵抗があったのだが、他に行くあてもなく、他の道を探す気力もなかったので、とりえず一度下へ降りることにした。
そして降りた下の階層は、上の階層とは違って、ほどよく明るく開けた場所だった。地下なのに所々に木が生えていて、少し自然を感じる。少し先の方に何やら水が流れるような音が聞こえる。俺はそこへ向かって歩き始めた。その水音の正体は、ブロックで作られた水路を流れる水の音であった。見た目すごく綺麗な水に見えるがどうなんだろう。見ていると無性に喉が渇いてきた。少し手ですくって匂いを嗅いでみた。当たり前だけど無臭である。
「これ飲めるかな・・・」
水筒をどこかで失くしたようで、渇きを癒すことができないでいた俺は、この状況で我慢できなくなった。すくった水を少し口に含んでみる。口の中で水分が染み込んでいくように吸収されそうである。喉が目の前にあるその水分を欲する。その喉の欲望を満たすために俺はそのまま含んだ水を飲み込んだ。
「大丈夫・・・かな?」
そう思うともう止まらない。すくっては飲んで、すくっては飲んで、満足するまでそれを繰り返す。
「ふ〜生き返った・・」
喉の渇きが癒されると、自分がすごく空腹であることに気がついた。周りを見ると、特に危険はなさそうである。今いる場所は周りを見渡せて視界がいいので、もし何かあればすぐ気がつくだろう。そう考えた俺は。カバンの中から燻製の肉とパン、それとチーズを取り出し、食事にすることにした。ちょうど周りに小枝がいっぱい落ちているので、それを集めて火を炊く。その火で燻製を炙り、チーズを熱する、それらをパンにのせてかぶりついた。空腹は最高のスパイスとはよく言ったものである。ものすごい勢いで平らげてしまった。
空腹も満たされたので出発しようと思ったその時、背後で何やら物音が聞こえた。振り返ると、猫くらいの大きさの、小さな生き物がこっちをじっと見ていた。
「あれもモンスターなのかな?」
大きな耳につぶらな瞳、モフモフの体に小さな手足。害のなさそうなその小動物を見て、率直に疑問に思う。ちょっと気になったので、猫を呼ぶように、その動物を呼んでみた。すると少し警戒しながらではあるが、こちらに近づいてきた。
「お・・近くで見るとさらに可愛いな・・」
俺は大の猫好きである。さらにこんな感じの小動物には目がない。モンスターだったら危険だと頭ではわかっているのだが、理性を抑えることができなかった。恐る恐る頭を優しく撫でてみる。
「にょ〜にょ〜」
「おっ・・・鳴いた・・なんて可愛い鳴き声なんだ・・」
ここまでくるとすでに自分を抑えることができなくなっていた。カバンの中からパンを一切れ取り出すと、ちぎって与えてみた。そいつはクンクンと数回匂いを嗅いで、優しくパクリと食べる。その仕草がなんとも言えない愛らしさがあり、もう俺の脳は沸騰しそうであった。我慢できず俺はそいつをぎゅっと抱きしめてしまった。
「苦しいよ〜はなせって〜」
空耳だろうか・・何か声が聞こえたが・・
「はなせって言ってるだろうが〜クソが!」
空耳は俺の胸のところから聞こえる。そこには愛らしい小動物しかいない。なので気のせいだろう。
「ダァーーーーーー!」
そう叫ぶと小動物は俺の腕から抜け出した。
「ニャン太! なぜ逃げる!」
「勝手に変な名前つけんじゃね〜よ!」
俺は幻覚を見ているのだろうか・・ニャン太がしゃべっているように見える。しかもそこそこ口が悪い。
「ニャン太・・ほらパンがまだあるよ」
俺はパンで釣ってもう一度ニャン太を呼ぼうとした。
「ちげーよ! それはもういいよ〜肉ぽいのあったろ? それくれよ」
「あっこれかい?」
俺は薫製肉を取り出し、ニャン太に見せた。
「それだよそれ!」
そう言ってニャン太は俺の方に近づいてくれた。俺の手から、モソモソと薫製肉を頬張る。やっぱり可愛い・・・これなら口が悪いのなんて無視できる。
「美味しいかい?」
「まあまあだな」
俺は初告白する学生のように頬を赤らめ、照れながらニャン太に提案する。
「どうだろう。ニャン太さえよければなんだけど・・家の子にならないかい?」
「うん・・なんだよそれ、どう言う意味だ?」
「いや・・うちの家で一緒に住まないかなっと・・」
「なんだそんなことか、いいよ飯くれたし」
おぉー聞いてみるもんだ。まさかOKしてくれるとは・・・やばい・・ニャン太との生活を想像するだけでちょっと心が躍る。まーそのためにはここから帰ることを考えないといけないけど。
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