第27話 マミュラ洞窟
人は都合の良い動物である。記憶するという機能において、時に信じられないほどの柔軟性を見せつけられる。
「覚えてないの、三人とも!」
「はい・・途中メタラギが裸踊りし始めたところまでは記憶があるんですが・・」
「あっ、私もその辺までです」
「そうね、そのあとは私も曖昧ですわ」
それは随分序盤の出来事だった。まー覚えていない方がお互い良いと思うけどね・・
「それよりアスターシアは、いつまで私たちについてくるつもりですか?」
「私たちじゃないよ。私は紋次郎についてきてるの」
「あなた妖精の国の王なんでしょう、そんなことしてていいの?」
「王って言ってもただの飾りだから、いてもいなくても何も困らないのよ」
「飾りって大事よ、無くなると寂しいものだから・・やっぱり帰った方がいいんじゃないかしら」
「私は紋次郎としばらく一緒にいるって決めたの」
うん・・何だこの空気は・・本当にこの三人記憶ないのか・・いや、そこには触れない方がいいだろう・・
そんな会話をしつつ、気がつけば俺たちはダルマ山脈の麓に来ていた。まー途中10mくらいあるドラゴンに襲われたけど、リンス、アルティ、アスターシアにボッコボコにされていた。それは見ていてかわいそうになるくらいの惨劇だった・・
「あの大岩の下にマミュラ洞窟の入り口があります」
アルティの指差す先には、50mはありそうな巨大な岩がそびえていた。そこへ向かって俺たちは歩みを進める。
マミュラ洞窟の入り口は、岩が積み重なった隙間にあった。自然保護ダンジョンを示す立て看板がなければ、見逃しそうな場所である。
「それじゃー行きましょうか。紋次郎さんは、また逸れないようにしてくださいね」
「はははっ、大丈夫だよ、そんな何回も逸れたりしないって」
それは前フリか、お約束か・・・逸れるなと言われると逸れてしまうものであり・・当たり前のようにそれは起こってしまう。
「紋次郎! そこは触っちゃいかん!」
「え?」
間抜けに答える俺の視界は、一瞬で真っ暗になった。何やらダンジョンの罠が発動したようだ。抜けた床から一直線でものすごい速さで滑り台を滑り落ちていく。
「うわ〜〜〜〜! 助け〜て〜〜〜・・・・」
「紋次郎様!」
しかし時すでに遅し、紋次郎の落ちた床はすぐに閉じられてしまった。
「またか・・本当に困った奴じゃのう」
紋次郎が落ちた石の床のあたりを調べながら、アルティは首を横に振る。
「ダメですね・・一度発動すると、停止するタイプの罠です」
「お兄ちゃん・・また逸れちゃったね」
「アスターシア、ここの穴から入れない?」
「う〜ん、ちょっと無理ですわ。中で狭くなってます」
「仕方ない、先に進むしかないの」
一行は紋次郎を探すべく、ダンジョンを進み始めた。しかし下層へ行くのもいくつかルートがあり、どのルート上に紋次郎がいるかわからない為に困っていた。
「リンス、ここのダンジョンレベルはいくつじゃ」
「自然保護ダンジョンにしては比較的レベルは低くて、60ですね」
「そうか、それなら手分けして探しても大丈夫そうじゃの」
「そうですね、これくらいの難易度でしたら間違いもないでしょう」
こうしてパーティーは、メタラギとメイル、そして他の三人はバラバラと四手に分かれることにした。
「紋次郎様はここから地下60mほどのところにいます。おそらく階層でいうと5〜6階層くらいでしょうか」
「合流はどうするんじゃ?」
「紋次郎様を見つけても見つけなくても、どこかに集まりたいですね」
「10階層に万年桜という名の木があるのですが、そこに集まりましょうか、そこならどのルートを通ってもたどり着けると思いますので」
一同はアルティの案を了承し、それぞれのルートを進み始めた。
★
そこは、何もない無機質な部屋だった。天井が少し光っており、何とか部屋全体を見渡せる程度の明かりがあったが、それ以外は家具どころか、扉すらなかった。紋次郎は自分の落ちてきた滑り台を見てみるが、そこから戻るのは無理そうである。
「さて・・困ったぞ・・逸れるどころか閉じ込められてるな・・・」
何とか出口を見つけようと、部屋の中を探してみるが、それらしきものはどこにもない。壁をくまなく調べて、ようやく見つけたのは小さな穴であった。紋次郎の人差し指が、ギリギリ入るくらいの大きさしかないその穴に、唯一の希望のようなものを感じ、念入りに調べる。
「この穴が怪しいんだけどな・・・何か差し込むのかな?」
とりあえず、この穴に入りそうなものを探してみるが、それらしきものは見つからない。仕方ないので、他に何かないか調べ始めるが、時間がそれを許してくれそうになかった。
ピッチャ・・足が水たまりを踏みつける。うん?・・足元がいつの間にか濡れている・・・いや・・これは・・周りを見渡すと、大変なことに気がついた。部屋の各角からちょろちょろと水が滲み出してるではないか。
「やばい・・このままだと部屋が水でいっぱいになっちゃうんじゃ・・」
ちょっと焦り始めた俺は無我夢中で周りを調べ始める。しかし何も見つからない。焦る俺をあざ笑うかのように、時は無情にも過ぎていく、気がつくと、水は膝のところにまで達していた。
もうダメっぽい・・そう思い始めた時、天井の光が溜まった水を照らし出しているその反射に違和感を感じる。チラチラと何やら水の中で光が反射しているようだ。俺は急いでその反射しているあたりを探ってみる。手に固い何かが触れる。それを水の中から取り出した。それは鍵の形をした金属の棒であった。
「こ・・これか・・こいつを穴に入れればいいのか?」
とりあえず、壁にある穴にその鍵を入れてみる。スッポリと綺麗に入ったので、そのまま右に回転させると、ガチャリと何かが外れる音がした。するとギギギギッ・・・と重いものが擦れる音がして、目の前の壁が動き出した。壁と壁が交差するように開いて、そこから溜まった水が一気に流れ出した。
「助かった・・・」
九死に一生を得た感じである・・密室で水が溜まっていく状況は生きた心地がしなかった。本当に良かったと心から感じながら、次なる不安がこみ上げてきた。見ると目の前には、不気味で、どんよりとした薄暗い通路が続き、今にも何か出てきそうな雰囲気である。この道を一人で進んでいくのかと考えると気が重くなってくる。
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