第20話 旅立ちの儀式

自然保護ダンジョンに向かったはずだが、俺たちはアルマームの街にいた。なぜかというと、自然保護ダンジョンへの立ち入りは、その管理をしているダンジョンギルドの許可が必要だからである。その為にこの街にある、ダンジョンギルドのアルマーム支部へと足を運んでいた。


「ここがダンジョンギルドのアルマーム支部です」

「うわ〜立派な建物ですね」

「まーダンジョンギルドといえば、冒険者ギルドと双璧をなす、大組織ですからね」

「とりあえず自然保護ダンジョンの立ち入り許可を申請しましょう」

「そうですね」


中に入ると、大勢の人で賑わっており、まさに元の世界の役所のような感じであった。申請書はリンスに記入してもらい、受付の順番を、椅子に座って待っていた。


「君!」

誰かが誰かを呼んでいる。

「君だよ君!」

早く返事しなさい

「私の声が聞こえないのか君!」

「あっ俺?」

なぜか知らない男に声をかけられる。

「ちょっと下を見てみたまえ」

そういうので、足元を見てみた。そこには俺の右足が、何やら布のようなものを踏みつけているのが見えた。どうやらこの男の服を踏んでしまっているようだ。

「あっすみません・・」

そう言って足をどける。

「気をつけたまえよ君! 私の服は君の装備のように安物じゃないんだからね!」

そう言った男の周りにいる、取り巻きの一人が、男に小声で何やら伝えている。

「え・・何! 高いのアレ? ウソ・・安物って言っちゃったよ・・え・・ごまかすの? いや無理だろう・・どうすんの? 恥ずかしいじゃん私・・何も知らないみたいじゃん・・」

「ごほんっ! ふむ。まー何だ、少し手違いがあったみたいだが・・君の装備・・そこそこの値段はするみたいじゃないの、まー私の服にはかなわないけどね」

そこで取り巻きがまた男に何やら小声で耳打ちする。

「え・・違うの? 私の服より高いの? ウソ・・また恥かいちゃうじゃないの!・どうするの? え、もう無理なの?」

「ごほんっ。まー何だ、私は心の広い人間だからね、君の無礼は水に流すとしよう。ではさらばだ!」

そう言って男は取り巻きを連れてどこかへ去って行った

「何だったんだあれ?」


そんなやり取りをしていると、俺たちの順番が来た。リンスの書いてくれた書類を提出すると、特に何も聞かれることもなく、書類に判子を押して、許可書がもらえた。どこの世界もこういうところはお役所仕事なんだろうな。


「簡単に許可、貰えたね」

「まー私たちはダンジョンギルドの正規会員ですから、審査が甘いんですよ」

「そうなの? 初耳だ」

「前の主様がダンジョンギルドに所属していましたから。しかも比較的ギルドに貢献していましたので、シルバー会員の資格を持っているんです」

「へ〜そうだったんだ。じゃー何か特典なんかあったりする?」

「そうですね、特定の施設の使用権や、ダンジョンギルド議会の発言権とか色々ありますけど、一番実用的なものはあれでしょうか・・」

「何ですか?」

「ギルドが経営しているお店などの割引ですね」

「すごく普通な特典だな・・」

「まーそんなものですよ」


「さて、許可ももらったし、早速、出発しようか!」

「それなんですが紋次郎様、先ほどアルティやメタラギと話をしたのですが出発する前に、行った方がいい場所がありまして」

「え、そうなんだ。それはどこだい?」

「旅立ちの神殿です」

「ほほう。旅の無事でもお祈りするのかな」

「いえ。冒険者の加護を得に行きます」

「冒険者の加護、そんのあるんだ。それがあると何かいいことあるの?」

「冒険者の基本能力が得られます。それとジョブを取得できるようになりますし、それに付随して、スキルを取得できるようになります」

「へ〜そ〜なんだ。あれ・・でもみんな冒険者じゃなかったけ? その加護は受けてないの」

「いえ。私もメタラギもアルティもメイルも、もう既に加護を受けています」

「それじゃ〜なんの為に・・・あっ! え? 俺が受けるの?」

「そうです。紋次郎様の旅立ちの儀式を受けに行くんです」


なんてこった・・冒険に出るどころか冒険者になるとは、想像もしてなかったよ。でも話を聞くと、冒険者の加護を受けてのデメリットはほとんどないそうだ。その辺の露店のおばちゃんも加護を受けているくらいなので、問題ないかな。


旅立ちの神殿は、街の中央区域の広い公園内にあった。その建物は中東の方にある、寺院と西洋の城を合わせたような感じの作りで、四、五階のビルくらいの高さがあった。中に入ると、大きな女神の像が中央に立っており、その前に丸い台座が置かれていた。台座の隣には、白髪で白いひげを生やした、いかにもといった感じの司祭が立っている。


「紋次郎様、あそこに大きな女神像があるでしょう? あれが探究の女神ラミュシャです。すべての冒険者を見守ってくれている、母なる神です」


リンスの話では、その女神ラミュシャが、未知なる探究者である冒険者たちの手助けの為に、加護を与えてくださるそうだ。


「新たな旅立ちを希望するお方ですか」

台座に近づくと、司祭がそう聞いてきた。

「あっ、はいそうです。宜しくお願いします・・・」

「それではこの像の前で祈りさない」

司祭に言われるままに、俺は像の前に立ち、祈りを捧げる。そうすると、頭に声が響く、しかしそれは言葉と言うより、何かのイメージのような不思議な感覚であった。

「未知なる探究者よ・・・・その手助けの為に・・・我が力を授けましょう・・」


その不思議な声とともに、体の隅から何か熱いものが身体中に満たされていく。それが俺のすべてを満たした時、俺は不思議な浮遊感のような感じを受けた。これが加護なのだろうか・・・

「あなたに冒険者の加護が与えられました。これより、未知なる探究を行い、ラミュシャ様にその恩恵を感謝しなさい」

「あ・・はい、ありがとうございます」


「紋次郎様、無事加護をお受けになったようですね。少し見せてください」

リンスはそう言うと何やら呪文を唱えた。

ジャナダ・ノズアイ洞察眼

それは対象者のラミュシャの加護の詳細を知ることができる魔法で、取得するには高レベルのスカウト能力が必要である。リンスがそのレベルのスカウト能力を有していることをメタラギもこの時初めて知った。

「すごいのぉ・・加護見の呪文か、リンスはそんなものまで使えたんか」


「紋次郎様のジョブは三つですね」

「それは多いの? すごい才能とかそういうのを感じたりしちゃったとか」

「いえ、すごく平均的です。ステータスも普通ですね。特に特化する部分はないです」

「簡単に言うと凡人ってことだね、そうだと思ったよ」

「でもジョブは三つとも面白いものが付いてますよ」

「おっそれは何?」

「言語博士、デーモンテイマー、ドラゴンテイマーの三つです。これはまたレアなものばかりつきましたね」

「それは喜んでいいのかな」

「大変喜ばしいことですよ。どれもダンジョンマスターとしては役に立つものばかりです。まーすべてのジョブがレベル1ですから、まだ実用的ではないですけどね」

「お兄ちゃん。すごいよ。ドラゴンテイマーは人気あるジョブなんだから」

「そうじゃな。デーモンテイマーもハイクラスのダンジョンマスターが欲しがるすごいジョブじゃしの、悪くはないぞ。それよりリンス、スキルは何か発動しておるのか?」

「ひとつだけ発動しています」

「おぉーなんじゃ」

「なになになに?」

「妖精語です」


「・・・・・」

「あ・・・・」

「それはまた・・・」

俺のスキル発表で、その場の空気が一気に変な方向へと変わる。可哀想というか・・残念というか・・・

「ま〜あれじゃ、スキルはこれからどんどん覚えていくと思うしの、まずはそんなもんじゃろう」

「なんだ、この微妙な空気は! あれなのか、妖精語っていらないスキルなのか!」

「いらなくはないですが・・そうですね言語であれば、ドラゴン語とか、精霊交信とかだったら使えるんですけどね・・妖精は人語を話すのも多いですし・・なんというか・・はい・・残念です」

「残念なんじゃねーか!!」

「お兄ちゃん、大丈夫だよ。妖精と仲良くなれるなんて素敵だよ」


少しみんなが優しくなるくらい微妙なスキル・・でも今の俺には唯一のスキル。一回でもいいので役に立ちますように。(合掌)

しかし、この願いが、早々に叶うとはこの時の俺は、夢にも思っていなかった。








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