第21話 ダルマ山脈への道
俺たちはマミュラ洞窟へ向かって出発した。街を出てしばらくは、街道を歩いて移動する。軽く舗装されているので、歩きやすい。しかしそれも長くは続かなかった。半日も歩けば、歩道はなくなり、道はどんどん荒れていった。そして人気もなくなっていき、それと反比例してモンスターが出没し始めた。
まず最初に遭遇したのはバーグルタイガーという名の、クマとトラを合わせたよな獣系のモンスターだった。こんな時、妖精語じゃなく獣語が使えれば、説得なんかができるのだが、残念なことにそんなものはない。
「よし、紋次郎! 何事も経験じゃ、その閃光丸を使ってみろ」
メタラギの言葉に恐る恐る、腰の短剣を抜いて、屁っ放り腰でそれを構える。それを見たバーグルタイガーは、俺が一番弱いことを見抜いたのか、まっすぐこっちに向かって突っ込んできた。
「うわ〜こっちきた!」
「バカモン! 早く閃光丸を振れい!」
俺は無我夢中で閃光丸をバーグルタイガーに向かって振り抜いた。すると光の閃光がものすごい勢いで対象に向かって襲いかかる。その恐怖の光は、バーグルタイガーを切り裂き、高熱で燃やし尽くす。
「うっわ〜、一撃で倒しちゃったよ。これはちょっと反則級の強さだね・・」
「バーグルタイガーはレベル20くらいのモンスターなんですけど・・装備チートされてる紋次郎さんの敵ではないですね」
いつものセーラー服スタイルから一変して、真紅のローブに身を包んだアルティは、ニコニコと笑顔でそう言って称えてくれた。
「その調子じゃ、しばらくはモンスターが出たら紋次郎に任せるとしようかの」
「えぇ〜〜〜」
「ブーブー言うんじゃないわい、何事にも慣れが必要じゃ」
メタラギは言葉通り、出てくるモンスターの全てを、俺に倒させる。装備によって強力に強化された俺のステータスと、閃光丸の攻撃力のおかげで、どのモンスターも難なく倒せてしまう。これは自分が強くなったと錯覚してしまいそうだ。
★
ノットという一人の男がいた。彼はどこにでもいる普通の村人だった。いつものように畑に出て、いつものように農作業をする。そして日が暮れたら家に帰る。そんな平凡な日常を過ごしていた。しかし、その日の彼はいつもと違っていた。自分の畑に出ようと、歩き慣れた山道を歩いていた時に、見慣れないものを見てしまう。それは金色に輝く浮遊する物体で、美しい金の光の粒を撒き散らしながら移動していた。そんな珍しいものを見ても、いつもの彼なら気にもとめずに、そのまま自分の畑に向かったであろう。しかしこの日の彼は変な冒険心に囚われた、そのまま、その金色の浮遊する物体を追って行ってしまった。それが死の誘いだとは知らずに・・・
ノットの死体は三日後に発見される。すべての生気を吸い取られたようにミイラ化していた。村人たちはその死体を見て恐怖した。しかし、それがただの始まりだとは誰も思ってもいなかった。
次の被害者は、丘の上に住むマボル家の長女マノンであった。彼女は友であるニアの家に出かけると言って家を出たきり、いなくなった。そして彼女もノットと同じようにミイラ化した死体で発見される。
こうして、この村では、このひと月の間に7人も犠牲者を出すことになる。困り果てた村人たちは村長の家に集まり、相談し始めた。
「何が起こっているかわからない。これはもうワシらに解決できる問題じゃないじゃろう」
「そうだの〜街に行って冒険者を雇うか?」
「それは良いがお金はどうするんだ。見たとおり、ビンボーな村じゃ、出せても一万ゴルドがいいとこじゃ、そんなはした金で動いてくれる冒険者などいないじゃろう」
困り果てている村長と村人たち、そこへ村で宿屋を経営しているラドヌという男が駆け込んできた。
「おっ・・おい〜、大変じゃ〜冒険者じゃ! ワシの宿屋に冒険者が泊まるんじゃ」
ラドヌの経営する宿屋は、村に一つは宿泊施設が無いと困るだろうと、作られたもので、ほとんど利用されることはなかった。いいところ年に数回、行商人が利用するくらいで、冒険者が泊まることは珍しかったのである。それを聞いた村人と村長は顔を見合わせる。
「これは神の恵みではなかろうか! ダメもとでお願いしてみてはどうじゃろう」
「そうだの。ところでその冒険者とはどんな感じじゃった? 頼りになりそうかの?」
「そうだの〜真紅の綺麗なローブを着た魔法使い風の女に、体格の良いドワーフ、それとパシッとしたえ〜となんじゃ、スーツじゃったかの、それを着たエルフの女に、装備だけは立派なパッとせん男と子供が一人じゃ」
「なんとも微妙な感じじゃの、まー背に腹は代えられんわい。ワシが行ってお願いしてみよう」
そう言って村長はラドヌの宿屋へと足を運んだ。
★
「ヤダヤダヤダ〜宿屋じゃなきゃヤダ〜」
「メイル、あなた元冒険者でしょう・・野宿を嫌がるなんて、冒険者の時はどうしてたのよ」
「今は冒険者じゃないもん、部屋がいいもん」
「ま〜リンス、今日はどこか宿に泊まろうか」
「さすがお兄ちゃん、話がわかる〜」
「しょうがないですね。この先に村がありますので、そこで宿を探しましょう」
村に着くと、早速、宿屋の場所を村人に聞いてみた。この村には宿屋は一軒しかないそうで、俺たちはそこへ向かった。その宿はすぐに見つかったのだが、そこは宿というより少し大きめの家といった感じで、お世辞にも立派な宿屋とは言えない建物だった。しかしこんな辺鄙な場所にある村の宿である、贅沢は言えない。
「ごめんください。誰かいますか」
そう呼びかけると、中から中年のおじさんが現れた。そして俺たちを見ると、なぜかすごく驚いている。
「も・・もしかして宿泊ですか?」
「はい、そうです。お願いできますか?」
「は・・はい。もちろんです。ではどうぞお上がりください、部屋を案内いたします」
個室が丁度五つあるようで、一人一人案内された。宿泊する部屋はそれほど広くはなかったが、よく手入れされているようで、ある程度、清潔感があった。あと、嬉しいことにこの宿屋には露天風呂があるよで、旅の疲れを癒してくれそうである。
宿に入ってしばらくすると、俺たちの元に、この村の村長が訪ねてきた。神妙な顔つきで村長は俺たちに話を始めた。
「この村の村長のマキノフです。冒険者様、どうかお話を聞いていただけないでしょうか」
「は・・はい、どうしたんですか?」
村長の話は、最近このあたりで起こっている、奇妙な村人たちの死の話であった。どうもモンスターにやられているようだが、その原因もわからず、困り果てているようである。
「そこでお願いなのですが・・その・・調査をお願いできませんでしょうか・・」
本当に困っているようで、俺は悩みもせずに返事をする。
「わかりました。微力ながらお引き受けします」
「ほ・・本当ですか! あ・・ありがとうございます。あと・・報酬のことですが・・あまり多く出せませんで・・」
「あっ、報酬なんて入りませんよ」
この返事には村長は心底驚いている。しかし、それは悪いとのことで、ここの宿代が無料になった。
「冒険者としては、とても褒められた対応ではないですが、人としては好意的に思います」
無料で依頼を受けたことを、リンスはそう表現した。まー正確には俺は冒険者じゃないから、これでいいんだと思う。しかし、この依頼を引き受けたことを少し後悔することになる。この時の俺は、少しこの事件をなめていたのかもしれない。まさかあんなに大変なことになろうとは・・
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