第13話 不死の王
あらかた引っ越しが終わり、紋次郎たちは事務所のリビングで寛いでいた。本当は一番重要な仕事が残っているのだが、そんな野暮なことは思い出したくないようで、現実を逃避していた。
「おい主! 風呂サイコーだぜ!」
風呂から上がってきたポーズはそう言って、冷蔵箱から冷えたエールを一本取り出して飲み始める。
「くぅ〜これはたまんねーぜ!」
「あっ俺も入ってこよ〜」
そう言って風呂へ行こうとしたがリンスに止められた。
「紋次郎様・・例の件を考えませんと・・」
「あ・・そうだね・・・」
一気にテンションがだだ下がる。確かに俺がどうにかするって言ったが、どうしたもんか。
「とにかく話し合いで解決しようと思うんだけど・・リッチて話は通じるの?」
「それは個体差で違います。長年、不死の体で生きていくうちに、理性を失うものも多くいますので。アルティ・ルソッティは500年も前の人物ですから、もしかしたらすでに・・・」
う・・実際話し合いに行って、話の通じない相手だったら・・相手は凶悪なモンスターだからな・・怖いな・・でも放置するわけにもいかないし・・仕方ない・・とりあえず行ってみるか。
「とりあえず、話し合いに地下に行ってみます」
「わかりました。それでは護衛パーティーを編成します」
護衛のパーティーはグワドン、デナトス、メイル、そしてリンスの4人が選ばれた。メリルが入っているのには驚いたが、対アンデットには一番の戦力らしい。
「大丈夫。お兄ちゃんはメイルが守ってあげるから」
嬉しいことを言ってくれる。でもなるべく戦闘にはならないようにしないとな、相手は伝説の人物らしいので、さすがにそんなのとメイルを戦わせるのは嫌だ。
地下は少し湿気の感じるジメジメとした場所だった。至る所に苔が生えており、何か出る雰囲気が満載である。とりあえず俺たちはリッチを探しに奥に進んでいった。幾つか部屋を見て回るが、それらしい者はどこにも見当たらない。
「リッチがいるってのはガセってことはないですよね・・それとも引っ越したとか・・」
そうポジティブに俺は考えていたが、地下の一番奥の部屋の扉を開けた瞬間・・俺の考えがアマアマだったと痛感させられた。
地下最深部の部屋・・そこには・・綺麗なベット、シーツはピンクの花柄、壁には何やら男性アイドルのポスターみたいなものがいくつも貼られている。全体的によく整頓されているその部屋は女子高生の部屋のようで・・・極め付けはその部屋で・・今まさにその女子高生が着替えをしていることであろうか。
「きゃーーーーーーーーーー!!」
「あっごめん」
彼女の悲鳴にそう言ってとりあえず俺は扉をそっと閉めた。とりあえず頭を整理しながら少し待ち、深呼吸して扉をノックした。
「どうぞ」
案外あっさりと部屋に通される。部屋の中で待っていたのは茶髪でツインテールの可愛らしいセーラー服を着た女の子だった。
「えーと。あの・・君はリッチなのか?」
想像を絶する見た目に俺は思わず聞いてしまう。
「ええまー、一般的にはそう言われてます」
「いや・・でもどう見ても女子高生だよね? セーラー服着てるし」
それを聞いた彼女は驚きの反応を示す。
「え!あなた女子高生ってわかるんですか?もしかして日本から来たんですか?」
「え? もしかして君も召喚されてきたのか!」
驚きである、リッチで伝説の大賢者は、俺と同じく日本から召喚されてきた者だった。彼女の話を聞くと、500年前に召喚された時にアルティ・ルソッティの名をつけられ、以降そう名乗っているそうだ。しかもさらに驚きなのだが、正確には彼女はリッチではなかった。元々召喚されてから彼女は一切歳をとらなかったそうで、有名になったことが災いとして、いつの日か変な噂が流れるようになった。全能の秘神は不死の法を使用したと・・・それからリッチと呼ばれ、肩身の狭い生活を余儀なくされた・・
「う・・・苦労したんだね・・」
俺は話を聞いて、同じ召喚者として共感してしまった。
「よし。これからはそんな心配しなくていいからね。あそうだ、うちで働かない? 君さえよければだけど」
「本当ですか! いいんですか! 何年ぶりだろう・・こんな人間扱いしてくれるのは・・」
こうしてうちに新しいスタッフが加わった。アルティ・ルソッティ、大賢者にして女子高生。彼女は大賢者にクラスチェンジする前はネクロマンサーだったらしく、死霊魔術が得意で、ゾンビやスケルトンなど、ダンジョン定番のモンスターを召喚できるらしい。リンスの話だと、これはすごくダンジョン運営にとって助かるらしく、彼女も喜んでいる。
あと余談だが、例の前の所有者のスタッフを次々殺したとかの話だが、どうも話が大げさに伝わってるらしい。確かに騒音で怒った彼女は、冒険者パーティーに、神話級の攻撃魔法で威嚇したらしい。しかし実際に当ててはおらず、死人も出ていないが、その魔法があまりにも強烈だった為に、冒険者たちがビビりまくって逃げ帰ったそうだ。その話がどうこじれたか知らないが、そんな風に話が大きくなってしまったみたいである。
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