第12話 ダンジョン不動産再び

アルマームの街へ来るのはこれで何度目だろうか、俺とデナトスとリンスは迷宮横丁にある、以前と同じ不動産屋さんへとやってきた。周りの建物と違って、煉瓦造りのその建物は良くも悪くも目立っていた。


「こんにちわ・・」

「いらっしゃいませ・・あっお客さん〜今日はどうしたんですか?」

そう言って迎えてくれたのは最初のダンジョンを案内してくれたマシュとかいうホビットだった。

「いえ。あのダンジョンは売ることになりまして・・・今日は次の新しいダンジョンを探しに来たんです」

「あら。何か問題でもあったんですか?」

「そういうことではないんですけどね。どうですか良い物件ありますかね?」

「まーあるにはありますけど・・ご予算はどのような感じですか?」

予算についてはここに来る前に、みんなに相談して決めていた。最大で1500万ゴルドである。今のダンジョンの販売して得たのが2500万ゴルド、そして自動販売機の売り上げなどで貯金していたのが300万ゴルド。合わせて2800万、今後何があるかわからないので半分くらいは貯蓄しておこうと話になった。

「1500万ゴルドまででお願いしたいんですけど・・」

「1500万!!」

マシュは正直驚いていた。どうせ今回も激安予算で買いに来たんだろうと思い込んでいたからである。ま〜冷静に考えたら1500万でもダンジョンの予算としては下の中くらいで決して多くはないのだけど。


「え〜と少々お待ちくださいね。今資料を用意します」

そう言って資料を探し始めたマシュに、ここの女主人であるクローネが近づいてきた。そして小声で話しかける。

「おいマシュ。あの客は例の問題物件を即決で買ったカモじゃないのか?」

「はい。そうなんです。今回は予算1500万とそこそこの金額で探しに来たみたいでして・・」

「そうか。では、これと、これと、これを紹介してこい」

「クローネさん!これ全部、問題有り有りの曰く物件ばっかりじゃないですか!さすがにこんな物件ばかり紹介したら変に思うんじゃないですかね?」

「いいんだよ。ほら行ってこい」

マシュは渋々それらの物件を紹介することになった。この時ばかりはこの女狐を心底軽蔑した。


「お待たせしました。幾つかご予算にあった物件をご用意したしました。ま〜直接見てもらった方が早いと思いますので、これからお時間大丈夫ですか?」

「はい。是非拝見させてください」


今回は、何件か見て回るので多少時間がかかる。なので不動産屋が馬車を用意してくれた。


「こちらの馬車です。足元にはお気をつけてお乗りください」

紋次郎たちが案内された馬車は木製で、横一面にクローネのダンジョン不動産とデカデカと描かれている。少し恥ずかしく、そして豪華とはお世辞にも言えないが、乗り物としての役目はかろうじて果たしそうではある。


一箇所目の物件は馬車で街から3時間ほど南に行った場所にあった。周りに主要な施設などもなく、人通りのあまりない辺鄙な場所であった。


「ここが入り口になります」

そう案内された入口は一見何もない大きな木の根元であった。よく見ると根元の隙間から奥に続く穴が伸びているようだ。


「これはまた・・分かり辛い所にありますね」

「ちょっとこれはダメっぽいわね」

「そうですね。でも折角なので一応見てみましょう」


その中は大きな穴がいくつも伸びている、洞窟タイプのダンジョンだった。幾つか木で組まれた部屋みたいな作りの場所もあるけど、ほとんどが土と石とでできている天然作りであった。穴は迷路のように伸びていて、複雑な作りになっており、冒険者を迷いこますにはもってこいだろう。しかし・・これは自分自身も迷いそうで、すごく嫌だな・・・


「ここはパスで」


まず入口が目立たない、洞窟に住むのがなんかヤダ、そして俺が迷いそうということで、全員一致で不採用。次のダンジョンに向かった。


二箇所目は最初のダンジョンの近くにあった。なので立地は悪くない。引っ越しも楽でいいかもしれない。入口は小高い丘の下にあった。まるで炭鉱のような入口で一見ダンジョンのようには見えない。


「ここはすごく広いんですよ」

そう言って案内してくれたそのダンジョンは確かに広かった・・永遠に続くかのような長い廊下・・・そしてその先に延びる長い廊下、さらにその奥に広がる長い廊下・・

「てか・・ここ廊下しかないぞ!!」

「はい・・この先にもずっと廊下が続きまして、最深部まで廊下が続きます。歩いていきますと20時間くらいかかりますかね・・」


「却下!!」


次が本日紹介する、最後の物件とのことである。不動産の紹介する物件ってだいたい最後に本命を持ってくるもんだと思うんだよね。だから少し期待してしまう。


そのダンジョンはキュウレイ・ダンジョン群の端っこに位置していた。これは文句なしの好立地物件らしい。外見はまるで遺跡のような二階建ての建造物で、雰囲気は最高に良い感じである。


マシュの話だと、ダンジョンは二階層の作りになっているとのことである。建造物の1階部分と地下の部分がダンジョンになっていて、建造物2階は事務所である。最初に事務所を見たのだが中々いい感じである。大きな部屋が一つと小さな部屋が8部屋もあり、今のスタッフの人数だとみんなに個室が行き渡る。そして極め付けはなんと大風呂が付いているのだ。これはかなり大きい、滝とか川で水浴びする必要がなくなる。これだけでもここは買いだと思ってしまった。


そして、肝心のダンジョン部分なのだが、こちらも全然悪くなく、1階部分は大小10の部屋があり、それが適度な複雑さで、廊下や隠し通路なのでつながっている。もう購入を確信して、地下を見に行こうと階段を下りようとした時、マシュに止められた。

「あっすみません。地下は見ることができないんですよ・・」

「え?それはどういうことですか?」

「いえ・・少し・・・危険でして・・」

「危険?何があるんですか?」

「あ・・いえ・・その・・・いるんですよ・・モンスターが・・」

「モンスターがいるですって?ちょっと、普通ダンジョンを立ち退く時、配置しているモンスターは撤去する決まりでしょう?どうして残ってるのよ」

そんな決まりがあるのは知らなかったが、デナトスはマシュに少し怒り気味に抗議する。

「撤去したくてもできないんですよ・・・・強力すぎて・・」

それに対してリンスは興味なのか確認なのかマシュに質問する。

「何がいるのですか?多少強力なくらいなら何とでもなると思いますが・・」

マッシュは重く静かにそのモンスターの名を口にする。

「リッチです。強力なリッチが住み着いているんですよ」

「リッチ!!」

何かのゲームで聞いたことあるんだけどな・・・リッチって何だっけ?俺は驚くリンスとデナトスにそっと聞いてみることにした。

「ねーねーリッチって何だっけ?」

「リッチは不死の王とも呼ばれるアンデットの最高峰のモンスターです。元は強大な魔力を持つ、大賢者や大魔導士などだった人で、自らリッチになるものもいれば、呪いでリッチ化してしまったものもいます。その発生は様々なのですが共通して言えることがあります。それは強大な魔力を持つ、非常に厄介なモンスターであるってことです」

「うわ・・それは怖いですね・・」

「しかし・・・妙な話ですね。いくらリッチが強力だと言っても、ある程度知名度のある上級冒険者のパーティーなら倒せない相手ではないでしょう?」

「割に合わないんですよ・・・ここのダンジョン単価と討伐予算を天秤にかけたら、討伐予算の方に傾きます」

「そんなに強力なリッチなのですか?」

リンスの話だと、リッチの強さには個体差がかなりあるらしい。人だった時の能力でその差ができるらしく、生前の強さでリッチとしての戦闘力が決まるとのことである。

「すでに上級冒険者のパーティーが2つほど全滅しています」

「それほどの・・・」

「全能の秘神・・・そういえばお分かりでしょう・・・」

「アルティ・ルソッティ!!」

リンスとデナトスの声がハモる。それほど有名な人らしい。

「ここはダメですわ・・やめておきましょう・・」

「そうですね。さすがに伝説の大賢者が相手では部が悪いですね」

「え〜そうなの・・・俺は気に入ったんだけど・・・地下だけ封鎖してしまうとかできないですかね」

「確かに前の所有者はそうなさってたようです」

「じゃー問題ないですね〜」

「しかし・・ある冒険者がこのダンジョンで強力な範囲魔法を放ったことがあったのですが・・その時、うるさいとリッチの逆鱗に触れたようで・・・冒険者パーティーは皆殺し、ついでに所有者のスタッフたちも次々に殺された事件がありまして・・」

「ダメじゃん!!」


くっ・・しかし諦めるのか・・あの大風呂を・・嫌だ・・俺はあの風呂に入りたい・・どうにかならないものかな・・なんとかリッチと話し合いで解決できないだろうか・・・


「ちなみに・・ここはおいくらなんですか?」

「紋次郎様!購入するんですか?」

「紋次郎!さすがにここは・・・」

「え〜と1400万ゴルドになります」

「ぐおぉーーーー購入します!!リッチは俺がなんとかする!!」


こうして俺はこの曰く付き物件を購入した。かなり大きな問題が残っているが・・まーなんとかなるでしょう・・そう思わずにはいられなかった。





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