第11話 前向きな選択

「あの二人なんかあったのか?」

ポーズは少し細い目で、笑顔で話す紋次郎とデナトスを見て、リンスにそう聞いてきた。

「さぁ〜どうかしら。そんな感じはしないけど」

「いや。さっきちょっと会話を聞いたんだが、デナトスって呼び捨てにしてたぞ。ありゃ〜何かあったな」

「まー何かあったにしろ、私たちが詮索することじゃないでしょう」

「いや。気になる。ちょっと聞いてくるわ」

「あっちょっと待ちなさいポーズ」

そんなリンスの制止を無視して、ポーズは二人の元へ近づいていった。

「おい。主。デナトス」

「何よポーズ。殺されたいの?」

「いや・・ちげーよ!ちょっと聞きたいことがあるだけだよ」

「何?」

「お前たちできてんの?」

何のオブラートにも包まないストレートなポーズの一言は、デナトスの逆鱗に触れるには十分だった。褐色の美玉は短い詠唱を唱える。それは威力は弱いが、十分な激痛を与えるに足る電撃の魔法の詠唱だった。バチバチと空気を弾く雷の音とともに、ポーズの体はズタボロにされる。

「ぐぅえ〜待って!!ぐはっはは・・痛えって!悪かった!俺が悪かったって!」

そんな鬼の形相になったデナトスを紋次郎が制止する。

「デナトス。その辺で・・・ポーズさんが死んでしまいます」

「グワッ!それだよそれ!なんで急に呼びすてなんだよ!」

ポーズの質問には紋次郎が答えをする。

「えーと。それはですね。俺たちはもう家族みたいなもんだと思ったんです。それでそんな他人行儀はもうやめようと思いまして」

「ほほう。それじゃーどうしてデナトスだけなんだよ」

紋次郎は少し考えて、明るくその問いに対する答えを出す。

「そうだね・・確かにその通りだ。みんな聞いてくれ。今日からみんなのことは本当の家族だと思うことにする。だから他人行儀はしない。俺は今日から全員呼び捨てにするから。みんなも俺のことを主様とかじゃなくて紋次郎と呼んでほしい」

「え〜メイルはお兄ちゃんって呼びたいよ」

「メイルはそのままでいいよ」

メイルはそれを聞いてホッとしている。

「ほほう。そうかそうか。それもよかろう。ワシは紋次郎と呼ばせてもらうぞ」

「ありがとうメタラギ」

「私も紋次郎と呼ばせてもらいます」

「ソォードお前は手下だからダメだ」

「えぇ〜〜!!」

「ウソだよウソ」

ソォードは胸をなでおろし、心底ホッとしている。

「オレも・・・紋四郎って・・・呼んで・・いいのか・・」

「グワドンもちろんだよ。君も家族なんだから」

それを聞いたグワドンは目にいっぱいの涙を浮かべて、今にも泣き出しそうに喜んでいる。家族ってのが嬉しいらしい。

「私のことはリンスと呼び捨てにしてください。でも・・・私には主様を呼び捨てにはできません・・せめて紋次郎様と呼ばせていただくことを許可してください」

「リンス・・・わかった。それでいいよ」

そんな一同のやり取りを見て、ポーズは一人悪態を吐く。

「チッ。家族ごっこかよ・・・恥ずかしいったらないぜ」

「最初はごっこかもしれないけど・・そのうち本当の家族になれると俺は信じてるよ。ポーズ、君とも家族になれると思っている。どうかな?」

「ふん。勝手にしろ。でも俺は一度決めた呼び方を変えたくねーから、主って呼ぶぜそれでいいだろう。」

そんな態度を取っているポーズも少し顔を赤くして、本当はそんなに悪い気分じゃなさそうである。


今日はちょっとだけみんなと距離が縮まった気がする。それがすごく嬉しく思う。


「1200万ゴルドでどうでしょうか?」

高級そうな正装に身を包んだ一人の紳士がそう切り出してきた。提示した金額に俺は驚きを隠せない。ことの始まりはいつもと変わらない平凡な日常の午後の黄昏時、ボロい掘建小屋の扉を、その場には場違いな、見るからに上流階級の紳士の訪れから始まった。その紳士は俺のダンジョンを購入したいと尋ねてきたのだ。

「え〜とここのダンジョンの値段ですよね?」

「はい。もちろんです。このダンジョンを1200万ゴルドで買い取りたいのです」

「ちょっと・・・スタッフに相談させてください」

リンス、デナトス、ポーズ、メタラギを裏の部屋に呼んで、助言を聞くことにした。80万ゴルドで購入したこの物件が1200万とは・・・世の中わからないものである。

「速攻売れよ主!」

「待て早まるな。もう少し考えたほうがいいじゃろう」

「1200万なら確かに悪くないけど・・自動販売機込みの値段でしょう?そうなるとちょっと微妙かもしれないわね」

「紋次郎様はどうお考えですか?」

「俺は売りたいとは思ってるんだ。ある程度まとまったお金ができれば、もう少しまともなダンジョンを購入できるだろうし・・」

「それならば売りましょう。しかし、もう少し値段交渉の余地はあると思いますよ。うまく交渉して値段を上げましょう」


こうして俺の初のダンジョンである、ここを手放すことになった。少し寂しい感じがするのは多少の思い出が残ったからだろう。でもいつまでもこんな小さなダンジョンで、小手先の方法を使ってやっていっても未来はないと思う。


交渉は思いの外うまくいった。交渉の口添えをしてくれたリンスとポーズの力もあるけど、相手はよほどこのダンジョンが欲しかったらしい、まーもしかしたら欲しかったのは自動販売機だけかもしれないけど・・・とにかく2500万ゴルドで売ることに成功した。これでまっとうなダンジョンが購入できるんじゃないだろうか。


「俺とリンスとデナトスは新しいダンジョンを買いに街まで行ってきますから、他のみんなは、事務所とダンジョンの掃除と荷造りをお願いします。」

一同はその指示に返事をして答える。ダンジョンの引き渡しは三日後と決まった。それまでに新しいダンジョンの購入、ここの引き渡しの準備と引っ越しを行わなければいけない。そして新しいダンジョンではまたダンジョンのプランニングをしないといけないし・・しばらくまた忙しい日々が続きそうである。



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