第4話 ダンジョン始めました。
紋次郎達はボロボロの掘建小屋に荷物を運び入れる。荷物を運び入れるたびに、床が怖い音を立てて軋んだ。
「荷物を一箇所に固めるな!床が抜けるぞ!」
床が変な形に変形しているのを見て、ポーズは思わず叫ぶ。
「メタラギ!重いから鍛冶道具を中に入れるな!グワドン!お前はとりあえず外で待て!」
ポーズのそんな姿を見て、デナトスがツッコミを入れる。
「ポーズ。あんた大工仕事も得意だったよね?そんな心配だったらこのボロ小屋ちょっと改修したら?」
「言われなくてもそーするわ!
「えーと。いくらくらいですか?」
「一万ゴルドもあれば十分だ!早くよこせ!」
紋次郎は一万ゴルドは大金だと思ったが、さすがに事務所がこのままだと困ると思い、ポーズにお金を渡した。お金を受け取ったポーズは、グワドンを連れて、家を改修する材料を買いに出かける。
そんな大人達のやり取りに全く興味の無いメイルは、奥の部屋に自分の居場所を作り、お気に入りの小物や仕事道具を並べていた。
「小瓶さんはこっち。すり鉢さんはこっちに並べて・・・あれ?ミレくんが無いぞ!」
ミレくんとは、メイルのお気に入りであるパールパンサーのぬいぐるみだった。自分の荷物と同じ箱に入れたと思っていたけど、どこかに紛れ込んだみたいだ。必死に探すメイルの姿を見て、紋次郎が話しかけてきた。
「どうしたのメイルちゃん?」
「ミレくんが無くなったの・・・」
「ミレくん?」
「私のお友達よ!ミレくんがいないと私・・・うっ・・うわ〜んーー!!」
大声で泣き出したメイルに紋次郎は戸惑う。
「わ・・わっ。大丈夫!お兄ちゃんも探すの手伝うから泣かないでくれ」
メイルと紋次郎はミレくんを探して、他の荷物の箱の中を見て回った。それを見たリンスが二人に近づく。
「主様。何をお探しですか?」
「あーぬいぐるみを探してるんです」
「あっメイルのぬいぐるみですか?それならあの箱に入ってますよ」
教えてもらった箱を見ると、確かにそこにぬいぐるみが入っていた。紋次郎はそれを取り出し、メイルに見せた。
「メイル、ぬいぐるみはこれかい?」
「あっ!ミレくん!」
そう言うと紋次郎の手から少し強引にもぎ取った。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
自然とメイルの口からはお兄ちゃんと声が出ていた。主様と呼ぶよりこっちの方がしっくりくるとメイルは感じた。呼ばれた紋次郎もそっちの方が嬉しいようだ。
★
一通りの材料を購入したポーズは荷物を全部グワドンに持たせていた。相当な量の材料だったが、グワドンは文句一つ言わずにそれを背中に担いでいる。
「グワドン。ちょっとあれ見ろ」
ポーズの指差した方向にはサイコロ賭博の屋台が出ていた。サイコロの目を予想してお金を賭ける、どこの街にも一つは存在する極めてポピュラーなギャンブルだった。
「ちょっと遊んでいこうぜー」
「ダメ・・ダメだよポーズ。その・・・お金は・・主様が・・家の修理に・・渡してくれたお金・・だよ」
「固いこと言うなよ〜勝てばいいんだよ勝てば」
そう言って半ば強引にポーズはサイコロ賭博へ参加した。
「ポーズ・・・・どうするんだ?・・・・お金なくなったぞ・・・」
「バカヤロー!家の改修は、もう買ってる材料でなんとかするわ〜いいか!買った材料で丁度お金を使い切った事にするぞ」
「・・・・・・」
「お帰りなさい〜材料は買えた?」
「もちろんばっちしよ〜!」
それを聞いたリンスはポーズに向かって手を伸ばした。それを見てポーズはしれっとシラを切る。
「な・・なんだ?」
「お釣りよ、お釣り」
「そんなもん材料で丁度使い切ったよ」
「グワドン本当?」
「ポーズ・・・サイコロ賭博ですった・・・材料・・二千ゴルドくらいしか・・・使ってない・・」
「コラーーー!!ポーズ!」
「グワドンてめー裏切ったな!!」
柱に吊るされて、リンスとデナトスに折檻されているポーズを見て、紋次郎はメタラギに質問する。
「あれはなんですか?」
「いつものことだ、気にするな」
紋次郎は真剣な顔でポーズにムチ打ちしているリンスを呼んだ。
「何かご用ですか主様」
「えーと、とりあえず明日からダンジョンの経営を始めようと思うのだけど・・」
「プランはあるんですか?」
「とりあえず、大きな部屋にグワドンを入れるくらいのことしか考えてないです。玄関開けたら5秒でボスキャラってコンセプトで!」
「そうですね・・色々問題がありますけど他に方法もなさそうですよね・・・あっそうだドロップアイテムはどうしますか?グワドンを倒した時に手に入るアイテムを考えないといけません。これで集客がかなり変わりますので重要ですよ」
「おっそんなのも用意しないといけないんですね〜うん・・とりあえずメタラギさんに武器か防具を作ってもらってそれをドロップアイテムにしましょうか。それで様子を見てまた考えましょう」
「はい。わかりました」
紋次郎はここですごい疑問が一つ湧いてきた。リンスにそれを聞いて見る。
「えーと。冒険者はグワドンを倒しにくるんですよね?」
「はい。倒しに来ます。それが目的ですから」
「倒すってことは死ぬんですよね?」
「はい。もちろん死亡しますよ」
「大丈夫なんですかそれ!グワドン死んじゃ〜嫌ですよ俺」
「あっ。それは大丈夫です。死亡してもメイルが蘇生しますので」
「おっ生き返るんですね!良かった・・・」
「ただ・・・蘇生にはお金がかかります。あまり死んでばかりだと破産してしまいます」
「え!メイルが蘇生するんですよね?お金取るんですか?」
「あっいえ。メイルが蘇生代でお金を取るわけじゃないですよ。蘇生の魔法に使う触媒が高価なんです」
「いくらくらいなんですか?」
「蘇生の魔法に使う触媒は、対象者のレベルによって量も質も変わってくるんですが、あー見えてグワドンはそこそこ高レベルなんですよ。一度の蘇生で15万ゴルドくらいでしょうか」
「高いっすね・・・」
「高いです。それにドロップアイテムの予算を入れると、一度の攻略で30万ゴルドは飛びますね」
「なるほど。経費はわかりました、でも収入はどこから入ってくるんですか?」
「もちろん冒険者からです。冒険者のパーティーを全滅させると、冒険者の持っている所持品の半分を戦利品で取得できます。それと全滅させた冒険者を蘇生させて返すんですけど、その蘇生代を手数料を含めて請求することができます」
「おっそんなシステムになってるんですか!じゃー冒険者をどんどんぬっ殺していけば大儲けですね」
「それがそんなに単純ではないんです。要は難易度とそれに対する報酬のバランスだと考えてください。そのダンジョンを攻略する事でのメリットに対して、難易度が異常に高いと、冒険者は見向きもしなくなってしまいます」
「そっか・・誰も必ず全滅するよなダンジョンに挑戦なんてしないですもんね。ありがとうございます。勉強になりました」
「いえいえ。主様がダンジョン運営に対して前向きなのは喜ばしいことです」
そう言ってリンスは、無表情でポーズの折檻に戻った。紋次郎はメタラギに報酬であるドロップアイテムの製作の相談をする。メタラギは今ある材料で制作できる、ロングソードを、デナトスにマジックエンチャントしてもらったらどうかと提案してくれた。魔法強化品の装備は人気があり、欲しがる冒険者は多いとの話なので、それで行くことにした。
★
「おう。主さん。ロングソードができたぞ」
「メタラギさん。ありがとうございます」
メタラギの製作したロングソードは、素人の俺が見ても出来が良いのがわかるぐらいに美しかった。メタラギにお礼を言うと、ロングソードをデナトスの所へ持って行き、エンチャントを依頼する。
「まー可愛らしい剣だこと、いいわよ。私がこの子を変えてあげるわ♥」
そう言ってデナトスは準備に取り掛かる。まず床に魔法陣のようなものを書き始めた。書き終わると、ロングソードを魔法陣の上に置いた。そして袋から宝石の破片みたいなものを取り出して、それをロングソードに満遍なくふりかける。
「エンチャントには宝石が必要なの、魔力を多く含んだ宝石ほど、強力なエンチャントが行えるけど、高価だから・・今はこの下級ルビーの破片で我慢してね」
そう説明すると、デナトスは何やら呪文を唱える。
「アール・メリュル・ナキュレスノリス・ハルベルト・・・・・この剣に魔法の加護を・・・」
デナトスがそういい終えると、ロングソードに強い光が溢れてくる。一度大きく広がったその光は、少しづつ収束していき、ロングソードを包み込むように纏わり付いた。
「出来たわよ。そうね。出来はルーン級ってとこかしら」
「ルーン級って何ですか?」
「魔法装備の階級よ。シャープ、パワー、ルーン、フォース、フィフス、スフィード、レーヴェン、ラレーヴェン、ラグリュナの順で魔法装備は階級分けされてるの。ルーンだから下の上ってとこかしら。下級ルビーの破片を使ってルーン級だと上出来だと思うわよ」
「おーなるほど。良い物をありがとうございます」
それを聞いたデナトスは怪しい目で俺に近づいてきた。そして耳元で囁いてくる。
「でもね・・・私が本当に変えたいのは・・・あなたなのよ・・♥」
あまりそういうのに慣れていない俺は、顔を真っ赤にして退散する。
「デナトスさん!本当にありがとうございました!」
「もう・・・意気地なし」
★
「それでは今日の予定を発表します」
一番広い部屋に集められたスタッフ達に紋次郎はそう切り出した。
「まず、ポーズさん。事務所の改修をお願いします」
「うい・・・」
昨日受けた折檻によりボロボロのポーズは力なく返事する。
「メタラギさんは報酬の装備の製作をお願いします」
「了解した」
「メイルちゃんはポーションの製作をお願い」
「任せてお兄ちゃん。私内職は得意だから・・・」
「グワドンはダンジョンで冒険者を迎えて待機」
「わ・・わかった・・・」
「リンスさんとデナトスさんは冒険者の対応で俺のサポート」
「わかりました」
「いいわよ〜」
「それじゃーみなさん。宜しくお願いします」
こうして記念すべく俺のダンジョン運営の初日がスタートした。
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