第5話 冒険者の悪夢

大きく振りかぶったグワドンの一撃は、無名の戦士の頭をスイカを割るように軽く粉砕する。後方から魔法で攻撃してきた魔法使いに一気に詰め寄り、横に薙ぎはらった棍棒で10mほどぶっ飛ばした。最後の残ったハンターと思われる男は逃げ出そうとする。しかしグワドンに回り込まれ、逃げ道をふさがれる。恐怖にひきつるハンターは動くことができず、そのまま何も抵抗することもなく、強力な棍棒の一撃に絶命した。


その状況を事務所に置かれた、魔法水晶の映像で見ていた紋次郎は言葉を失う。魔法水晶はダンジョンの様子を離れた場所から見ることができる魔道具である。紋次郎、リンス、デナトスはダンジョンの様子をこの道具を使って見ていた。

「うわ・・・えげつないですね」

「まずわね・・・」

「まずいですね」


俺は初めての強烈な映像に、ただビビりまくりなのだが、リンスさんとデナトスさんはその映像を見て、ある不安を口にする。

「これは完全にバランスを崩してますね・・・挑戦してくる冒険者とグワドンのレベル差がありすぎます」

「そもそも初心者用のダンジョンでグワドンはレベルが高すぎよ。ちょっと対策考えないとこのダンジョン過疎るわよ」


二人の意見に紋次郎は打開策を考える、しかしそもそもダンジョン経営の経験が皆無な彼に、簡単にそんな方法が思いつくはずもなかった。一通り考えた末に諦めの言葉が出る。

「ダメだ・・何も思いつかない。そもそもダンジョン経営の経験の無い俺に、考え付くわけ無いよな〜」


そんな俺の投げやりな発言に、リンスさんは厳しくアドバイスをしてくれた。

「ダンジョン経営で考えるから思いつかないのではないですか?例えば主様の元の世界では圧倒的強者とひ弱い弱者が戦う時、どのような方法を用いたのですか?」


「そりゃ〜そんな力の違う者が勝負する時はそれ相応のハンデがつくよ・・・あっ!そうか・・互角に戦わせる必要なんて無いんだ・・」


紋次郎はそう言い放つと、勢いよく立ち上がり、どこかへ走って行った。それを見送ったリンスは、死亡した冒険者の蘇生の手配に入った。


重い鍛冶道具が入ると、事務所の床が抜けてしまう為にメタラギの作業場は外に作られていた。そこへ紋次郎が訪ねてくる。


「なんじゃと、鉄の鎖を作れと?そんなもんどうするんじゃ?」

「それでグワドンを繋ぐんです。今のままだと強すぎるんで、それで動きを制限したいと思いまして」

「なるほどのぉ〜それじゃ〜そこそこ大きめの物を作らんとダメじゃの・・二日・・いや三日貰えるか?」

「あっ作って貰えるんですか?」

「もちろんじゃ、それがわしの仕事だからのぉ」

「ありがとうございます」


それを聞いたメタラギは紋次郎に軽く手を振ると、早速鉄の鎖の製作に入った。


事務所に戻った紋次郎はそこで蘇生された冒険者と対面した。何やらリンスと話をしていた。

「所持品の半分はこちらですでに回収させていただきました。また蘇生代ですがこちらが手数料を含めた請求額です」

請求書を見て絶句する冒険者たち・・

「うっ・・15万ですか・・・高いですね・・」

「ダンジョン法に基づいた正当な請求額になります。お支払い宜しくお願いします」


蘇生代を支払った冒険者たちはトボトボと帰って行った。所持品の半分を取られて、さらに蘇生代も取られて、紋次郎は彼らを少し気の毒に思った。


「どうあの冒険者たちの所持品は?」

デナトスが戦利品である、冒険者の所持品が気になり、リンスに尋ねた。リンスは取り上げた所持品を見て軽いため息をつく。

「まー低レベルの冒険者ですから・・大したものはありません。そうですね・・総額20万ゴルドってところでしょうか」

「まーそんなものでしょうね」


「お兄ちゃーん!!」

メイルが紋次郎に走り寄ってきた。

「どうしたのメイルちゃん?」

「蘇生に使う触媒のストックが少ないの・・・買い物に行かないといけないから・・一緒に・・・」

「あっ買い物かい?いいよ。一緒に行こう」


丁度、グワドンの鎖ができるまで、ダンジョンをお休みにしようと思っていたので、時間はある。これを機会に必要な物を買いに行くのはいいと思った。それをリンスさんに伝えた。

「そうですね。それは良い考えかもしれません。私も必要な物がありますので一緒に行きましょう」

「あっ私も行くわ。ダンジョンが休みなら暇だし」

このやり取りを奥で事務所の改修をしていたポーズが聞いており、会話に入ってくる。

「あっ俺も俺も行くぞ」

「あんたは駄目でしょう。事務所の改修でもやってなさい」


デナトスの冷たいセリフにポーズは項垂れながら改修作業に戻る。メイル、リンス、デナトスは出かける為に準備を始めた。女性の準備には時間がかかる。その間に紋次郎はダンジョンにグワドンを迎えに行った。


「グワドン〜今日はもう終了にしよう」

「あ・・主さま・・終了・・ご飯食べれる?」

「あーいっぱい食べていいよ」


そう言いながらダンジョンを出ようとした時・・・鋭い音がダンジョンの入り口から聞こえた。


「主さま!!」

素早い動きでグワドンが俺の体をかばうように覆い重なる。肉が何かに切り裂かれる無数の音がした。体を起こしグワドンの姿を見て恐怖する。


グワドンの背中には大量に矢が突き刺さっていた。グワドンは痛みをこらえてゆっくりダンジョンの入り口を睨みつける。そこには10人ほどの冒険者が弓を構えて立っていた。その冒険者の中には、先ほど蘇生代を払って去って行ったパーティーの姿が見て取れる。


「仲間を連れて戻ってきたのか・・・グワドン大丈夫か?」

「だい・・大丈夫・・グワドンこれくらいじゃ・・・効かない・・」


矢が大量に刺さり、弱ったとみたのか、冒険者の前衛が動き出した。大剣を持つヒューマンの戦士に、戦斧を担ぐドワーフの闘士、そして剣を構えたフルプレートのナイトがグワドンを取り囲むように近づいてきた。

「主さま・・・後ろに・・・下がって・・」

俺はグワドンに言われるままに少し後ろに下がる。


前衛が一斉に斬りかかる。それと同時に後方から連続の魔法攻撃と矢の攻撃が降り注ぐ。矢と魔法は全てグワドンに命中した。魔法の閃光と爆発により、グワドンの身が見えなくなる。そこへ前衛の冒険者たちの攻撃が一斉に襲いかかってきた。完全に隙を突いた連携攻撃であった。大抵のボス敵をこの連携で葬ってきたパーティーは勝利を確信した。しかし・・今回は相手が悪かった・・・


何が起こったか理解できなかった。鉄製のフルプレートを装備して、ほとんどのモンスターの攻撃をその鎧で防いできた。前衛職の中でも特に防御能力に優れているアーマーナイトの称号を持ち・・どんな攻撃であろうと防ぐ自信があった・・・しかしたった一撃の攻撃で、自慢のフルプレートは粉々に粉砕し、体は原型が分からないような損傷を受けていた。薄れ行く意識の中で、隣で戦っていた戦士の首が空中を舞っているのを見つめていた。


「グワドンすげ・・」


一瞬であった。前衛の攻撃をその強靭な体で全て受け止め、反撃に出たグワドンの攻撃は凄まじいの一言である。棍棒を二振りしただけで前衛の冒険者は全て肉片へと変わっていた。最初の攻撃を全て防いだ目の前の化け物に、他の全ての冒険者は恐怖し、呆然と動きを止めてしまう。それが命取りであった。瞬きをする一瞬の間で間合いを詰められ、気がついた時にはその強烈な攻撃を受けて絶命していた。


「あら・・・ダンジョン閉める前にこんなに沢山・・運の悪い冒険者よね」

「お兄ちゃ〜ん。こんなに沢山生き返らせないよ〜触媒が全然足らない〜」

「デナトス。とりあえず全員氷漬けにしといて。買い物から戻ってきたら蘇生しましょう」


怪我をしたグワドンと、事務所の改修をしているポーズ、鉄の鎖を作成しているメタラギを残し、急いで買い物に出発することにした。


「主さま・・・いっぱい・・・食べ物・・・」

「おう。グワドン沢山食べ物買ってくるからな〜」


そう言うと嬉しそうに笑顔を返してきた。







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