第4章 再会 4

「――さっき外で聞いたお前さんの言葉、あてにしてるぜ」


 薄暗い通路に、ケンゴの声が反響する。

 昼間だというのに地下牢へと向かう通路は、発光するクロルツのぼんやりとした明かりが頼りだ。

 お盆の上に三人分の食事を乗せ、前を歩くケンゴ。


「ケンゴさんは、相変わらず口が上手いですよね。罪人への食事の運搬を、あっさりと請け負ってくるんだから」

「それよりお前さんこそ、俺みたいなのとつるんでるところを見つかったらまずいんじゃねえか? なあ、一国の王子様よ。クックック……」

「からかわないでくださいよ。じゃあ、庭の休憩所で待ってますから」




 打合せ通り、一足先に庭の休憩所へ。

 救出作戦の案を練るものの、中の様子もわからないままでは具体性に欠ける。

 結局、ボーっとしていたのと変わらない時間を少々過ごしたところで、足取り軽くケンゴがやってきた。


「お前さんの推測通り……いたぜ、アザミちゃん。それにカズラちゃんもな。二人とも驚いてたわ」

「カズラもいたんですね、それは好都合。マスターはいませんでしたか? カズラのお父さんは」

「ああ、俺よりもちょっと年上みてえなオッサンがいたな。そいつがカズラちゃんの親父さんかもしれねえな」


 特徴や雰囲気を話してみると、やはり間違いないらしい。

 三人まとめて処刑するつもりなら、同じ所に集められていても不思議はない。

 だが、逆に考えればすぐに執行されても、ちっともおかしくないともいえる。どうやらのんびり構えている余裕はなさそうだ。


「しかし……地下牢なんてものがあったなんてな。俺もここに来てしばらく経つけど、全然知らなかったぜ」

「それにしても、よく配膳係なんて引き受けられましたよね」

「おう、厨房に行って『手が空いたから、囚人に飯を持ってってやろうか?』って言ったら、険しい目で睨まれたぜ。看守と仲が良いから頼まれたって、咄嗟に嘘でごまかしたけどよ」


 相変わらずの口八丁手八丁。

 きっと僕なら同じ嘘をついても、その挙動で簡単に見抜かれてしまうことだろう。

 そんなことよりも、今は救出作戦の立案が最優先。まずは、中の様子をケンゴに尋ねる。


「地下牢ってどんな様子だったんです? 救出は可能な感じでしたか?」

「まずあの扉の鍵は、すぐ横に立ってた見張りが持ってた。そして、中には看守が二人。牢は左右に三つずつあって、一番手前で向かい合わせにアザミちゃんとカズラちゃん。一番奥にそのカズラちゃんの親父さんが入れられてたな」

「鍵はその看守が持ってるんでしょうかねえ……」

「ああ、そいつは間違いねえな」


 普通に考えれば看守が鍵も管理していそうなものだが、絶対とは言えない。

 なのにどうして、そんなにハッキリと言い切れるのだろう?

 そのケンゴの言葉に疑問を感じ、説明を求める。


「なんで言い切れるんです?」

「『なんてこった! ポケットに穴が開いてやがったのか! 姉ちゃん、そっちに小銭転がっただろう。拾ってくれねえか?』って一芝居打ったんだよ。目配せしてな」

「アザミにですか?」

「やっぱ、あの子は賢いな。こっちの思惑を察したみてえで、『嫌です。拾いたければご自分でどうぞ』だってよ。それで看守に泣きついたら、机の引き出しから取り出した鍵で、牢の扉を開けてくれたってわけよ。この上なく確実だろ?」


 あまりに単純明快なその答え。

 そして、脱帽のケンゴの行動力。

 さらにアザミの洞察力と、その対応。事前の打ち合わせもないというのに……。

 思わず二人には、尊敬の念を抱かずにいられない。


「鍵の場所もわかったとはいえ、看守も二人いるんじゃ簡単にはいかないですね」

「看守は体格も良かったし、きっと魔法も使えるだろうからな……」

「カズラとマスターがいるなら、全員で日本へ渡って……。でもそうすると、また散り散りになっちゃうからな……」

「一発ドカーンと派手にいかねえか? 爆薬でも仕込んでよ」

「怪我したらどうするんですか!? それに、爆薬なんてあるんですか?」

「発明家のケンゴ様にかかれば、それぐらいお茶の子さいさいよ」


 相変わらず本気なのか、それとも冗談なのかわかりにくい。

 だが、一人では無謀に思えた救出作戦も、ケンゴとならばなんとかなりそうな気がしてくる。

 自分たちの昼食をとるのも忘れ、救出作戦の立案に時間はあっという間に過ぎていった……。

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