第4章 再会 3
「――ケンゴさん。ほんとにケンゴさんだよね」
反射的に立ち上がり、そのままケンゴに抱きつく。
ただただ、安否の不安が解消された喜びに、熱いものがこみ上げる。
ケンゴも驚きのあまり、目を丸くして息を呑み込んだ。
「お、おお。やっぱり……お前さん、だよな。庭に王子がいるから、挨拶して来いって言われて来てみりゃこれだ。びっくりしたぜ」
「探したんですよ。シータウの家にも、隠れ家にもいなかったから心配しましたよ」
「とりあえず、王子への挨拶済ませてくるからよ。ちょっと待っててくれや」
背を向け、王子を探しに行こうとするケンゴの服を鷲掴みに。
煩わしそうに振り返るケンゴに満面の笑みを湛え、人差し指で自分を指差す。
首を傾げていたが、やがて意図が通じたらしく、またしても呆気にとられた様子。
「まさか、まさか、お前さんが……王子!?」
「僕も正直言うと、まだ実感がないんですが……」
「マジかよ! 俺の知らないところで、何がどうなっちまったってんだよ。大体、なんでこっちに舞い戻ってきたんだよ。王女様は無事なのか?」
ケンゴの言葉に我に返る。
再会の喜びに、ゆっくりと浸っている場合ではなかった。
「実はアザミは、この屋敷の地下に捕らえられてる可能性が高いんです。それでどうやって助け出そうかと、頭を悩ませてたところだったんですよ」
「状況がちっとも掴めねえや。ちっと、分かりやすく説明してくれよ……」
「――確かに辻褄は合っちゃいるが、信じらんねえ話ばっかだな……」
庭の休憩所で、腕組みをして考え込むケンゴ。
色々なことがありすぎた一ヶ月半を三十分に集約したのだから、理解が追い付かないのも無理はない。
それでも、むしり取った芝に魔法で火を点けて見せると、納得の表情を見せた。
「するってえと、跡継ぎとしてお前さんが帰ってきたから、魔力のない妹の方は用済みになった。王族のプライドを守るために、王女の方を口封じに処刑するつもり……と?」
「アザミは、王女を騙った罪人ということにされてるみたいです。ずっと人前に出ることもなかったから、一般人には本物かどうかもわかりませんしね」
「それで今は、ここの地下牢に囚われているらしいんだな?」
「断片的な話を繋ぎ合わせると、間違いないと思います。それに、今は地下牢は使われていないと言いながら、しっかりと見張りまで立ってましたからね」
「なるほどな。じゃあまずは、アザミちゃんが本当に捕まってるのかどうか、確認するところからだな」
突拍子もない話をしたつもりだが、真剣な表情で作戦を考えるケンゴ。
すんなりと受け入れすぎだろうとも思うが、以前こっちで過ごした半月の間だってとんでもない出来事続きだった。そう考えたら、ちょっとやそっとのことじゃ動じなくなるのも無理はないか。
「ところで、ケンゴさんこそ、なんでまたこんな所に……。そもそも、僕たちが界門に飛び込んだ後、よく無事でしたね。ずっと心配してたんですよ」
「あのロニスとかいう野郎、お前さんたちが界門に消えた後、はらわたが煮えくり返ったみてえでよ。俺に向かって手を突き出したから、さすがにこりゃ終わったなって思ったぜ。ハッハッハ」
高笑いと共に、妙に自慢げな口調のケンゴ。
終わらなかったからここにいるわけだが、それを言っては身も蓋もない。
「それが、どうして終わらずに済んだんです?」
「おう、そこへ奴の部下が駆け込んできてな、一刻を争うからってロニスの野郎を連れてったんだよ。お陰で俺は命拾いしたってわけさ」
「危ないところだったんですね。無事で良かったです。本当に……」
「敵ながら、命の恩人てやつだな。再会できたら、抱きしめてキスぐらいしてやらねえとな。ガハハハハ」
あの後、何ごともないはずがないと思っていたが、やはり危険な目に遭っていた。
あんな状況だったとはいえ、自分の帰国を諦めた上に、命懸けで僕とアザミを助けてくれたケンゴ。
彼には、何度命を救われたかわからない。かといって、抱きしめてキスする気にはならないが。
「それで、逃げ延びたケンゴさんが、どうしてこんなところに?」
「帰国が諦めきれなくてな、しばらくは闇雲に神社巡りしてたんだよ。でもやっぱり、界門の出現情報なしじゃ無謀だって思ったわけよ。そこで、王族の近辺なら情報も漏れてくるんじゃねえかと思って、庭師としてここに潜り込んだのさ」
「でも、良くそんな仕事が都合よく空いてましたね。募集でもしてたんですか?」
「こちとら、大発明家のケンゴ様だぜ? こっちから売り込んでやったのよ。そいつを使ってな」
そういってケンゴは立ち上がると、昨日から放置されていた芝刈り機を手にして、再び休憩所に戻ってきた。
確かに昨日見た時も、この世界に似つかわしくない印象はあったが、ケンゴの手製だったのか。
「どういうことです?」
「この世界の芝刈りは魔法でやるらしくてな。ムラだらけで、きったねえ芝生だったんだよ。だから、俺なら綺麗に生え揃った芝生にしてやるって売り込んだわけよ」
「さすがですね」
別れ際に叫んだケンゴの、『どんなことをしてでも帰ってみせる』という言葉。
嘘偽りなく実践していたことを知り、胸が熱くなる。
「だけど王女の救出劇に加担したら、一緒に屋敷から脱出することになっちまいそうだな……。どうせ界門の情報なんてサッパリだったから、まあいっか……」
確かにアザミの救出となれば、そのまま再びの逃亡生活になりそうだ。
せっかく苦労して屋敷に潜り込んだ、ケンゴの努力も水泡に帰すだろう。
だが今の僕は、昔の無知識な僕ではない。
「――大丈夫ですよ。きっと今度こそ、ケンゴさんを日本に送り届けますから」
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