第12章 シータウ大捜索 2

「――この周辺の目撃情報が、時間的に最後みたいですね」


 チョージの事務所を本部にして、その人脈を使って目撃情報を集めた。

 大きな袋を抱えた黒装束の集団なら目立つだろうと考えたが、アジトを特定できるほどの有力な情報は得られない。それでもそこは人海戦術のなせる業。数は少ないながらも目撃時刻と場所の情報が、ぽつりぽつりと持ち込まれる。

 チョージの肩書は街灯を管理する組合の所長で、一街区を丸々任されている。それだけでも結構な広さだが、さらに彼は他の街区の所長とも横のつながりがあり、そのお陰でシータウ中の情報が事務所に持ち込まれた。

 そして、その情報を集約して黒装束集団の足取りを追い、ある程度の範囲まで絞り込むに至ったというわけだ。


 今は、アジトがあるだろうと絞り込んだ範囲の中心にいる。

 僕は居ても立っても居られずに単身で捜索に出ようとしたが、あのまま飛び出していてもきっと今頃、何の情報も得られずに途方に暮れていたことだろう。それが今や半径一キロ程度の広さにまで絞り込まれた。まだまだ広範囲とはいえ、捜索できない広さではない。捜索に協力してくれているチョージと、彼に相談することを思いついたケンゴに感謝だ。


「もう日も暮れましたし、これ以上新しい目撃者も期待できそうもありませんね。後の作戦はケンゴさんにお任せしましょうか」

「後はうちらで手分けして、一軒一軒しらみつぶしに当たってみるしかねえな。チョージさんありがとうよ、助かったぜ」

「おやおや、ここまできてお役ご免ですか? 水臭いですね……。何でも、攫われたのは相当な美人だっていう話じゃないですか。ここまで来たら何としても見つけ出して、私もそのお嬢さんにお目にかかりたいですよ」


 そう言って、チョージは嫌味のない顔でニヤリと笑う。

 ケンゴは、もうこれ以上厚意に甘えるわけにはいかないと遠慮したのだろうが、絞り込んだと言っても半径一キロ、僕とケンゴとアザミの三人ではやはり人手不足だ。それを見越してだろう、チョージはケンゴの言葉などお構いなしに、街灯の下で地図を広げ始めた。

 そして部下を集め、今度は地図を指差しながら次々と、一人一人に捜索地域を指示していく。

 これほどの人情味溢れる親分肌の頼れる上司だから、こんな時間でも嫌な顔一つせず、部下たちは指示通りに駆け出して行くのだろう。ついつい元の世界の上司の顔を思い浮かべ、こんな人だったら今頃ここには来ていなかったかもしれないと苦笑する。

 部下の全てに指示を出し終えると、次は僕の番だ。

 チョージは地図を指差し、現在地と捜索するべき場所の位置関係をわかりやすく説明する。どうやら地理に明るくないことはお見通しで、近場を残しておいてくれたらしい。

 一刻も早くカズラを見つけ出そうと、指示された地域へ駆け出す――。


 ――この音は?


 聞き覚えのあるセミの鳴くような音が、遠くから聞こえてくる。

 しかし、この不自然な人工的な音、間違いない、これは防犯ブザーの音だ。

 振り返ってケンゴとアザミを見ると、二人とも気付いたのか大きく頷いて、音の発信源に向けて一斉に駆け出す。


 今鳴り出したということは、カズラはまだ無事なはずだ。

 とにかく、カズラが無事なうちに間に合ってくれと天に祈る。

 ケンゴとアザミも同じ気持ちだろう、さっきまでの悲壮感漂う表情から、一心不乱に音のする方へ走る姿は希望に満ちている。

 だが、気持ちが焦っているせいもあるが、走っても走っても音源は近づかない。そして、時々建物による反射のせいか軌道修正を余儀なくされる。

 じれったい、あの防犯ブザーの音はカズラの悲鳴だというのに、なかなかたどり着けない――。



 ――そして音が止んだ。

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