「ゼロ」から始める生活再入門

24番線

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 不安を感じて、手を止めた。

 だからお前は駄目なのだ、と自分の中の生活が囁く。生活を志向する生活は、僕を支配しようと躍起だった。僕はこれに抗いたかったが、3ヶ月後も、11ヶ月後も、僕が生存を望むなら、その媚態に身を委ねるしかないのだ。頭はこわれきっていて、正常な動作を試みようとしない。試用期間は既に終了していて、後は経年劣化を重ねるだけの運命を、受け入れざるを得ない。生活の幸福を、享受することが、そのまま自分の幸福になるのか、それはよくわからない。ここまで抽象的な話ばかりだが、抽象的だからといって高等であるとは(高等という文字列から滲み出る傲慢さが僕はきらいだ)限らず、どこまでも愚劣な文字列が世界に並んでいる。今日ほとんど部屋を出なかったのは、生活をさらに遠くへと、追いやる態度であったと言わざるを得ない。今日は睡眠が摂餌かの、どちらかしかなかった。夢も見なかった。餌に味はなかった。情報もなかった。完全に社会とのつながりを絶とうと、生活しかない外界から距離を置こうと、試みる。無味無風な一日を薄暗い部屋で過ごし終わると、明日も明後日も、生活が僕を待ち受けているという事実が、一先ず脇に置いておいた事実が急に迫ってきて、僕を殺そうとしている。生活は必ず、僕を殺すだろう。生活が生存と結びついたせいで、僕が生存を試みることは、生活を試みることに他ならず、生活の一切を退けたい僕としては、生存をゆるやかに断念せざるを得ない。明日からまた、生活が始まる。今日眠ってしまえば、僕はまたこの社会の一員となり、蔑まれるべき存在として、みにくいアヒルのままに、どこへ行こうとも、みにくいと言われ続ける。僕は白鳥ではなく、みにくいアヒルで、アヒル全員が自身の醜さを十分に理解しているし、みにくさの中に美しさを見出すような態度を取りたいものは一人としていない。みにくいアヒルで埋め尽くされた池の周りを自転車で回り続けて、いつしか白鳥に出会う日が、来るのだろうか。

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