第22話 入学までの道のり④ 干支会議編(上)

「霧島さん、そろそろ着地します」

「ああわかった。牧野、君は葵を実家に送ってくれないか?」

「ええ、お安い御用ですよ。准尉の案内は氷室中尉が来ています」

「悪いな、忙しいところ。氷室君が中尉ね~、ま、責任の伴う階級に置かれたほうが強くなるタイプもいるからな。いい薬になるかもな」

「はは、違いねえ!」


 零機はそう言ってヘリから降りる。そして葵を振り返り言う。


「葵、明日には実家に帰るって親父と母さんに伝えてくれ。それと、警戒は怠るなよ。牧野がいるならあんまり心配してないけど、君は二宮次期党首候補、首を狙ってくるやつは多い。俺は君が血を使えばそれが察知でできる。すぐにかけつける。だから、死なないでくれ」

「もう、何言ってるんですか!、フラグってやつですよ兄さん」

「まあそうなんだがな。牧野、敵対組織がいたら葵と一緒に逃げてくれ。その途中で連絡してくれればいい。言ってる傍から来たな。軍の基地に、それも本部に近いここに来るなんて、いい度胸してるじゃないか」

「あいつらは何者ですかね?」


 そこには戦闘服(といっても軍のものではなく、ゲリラ戦闘員服のようなもの)の人機ヒューマノイドがいた。それも何体もいる。ざっと2,30人はいるだろう。


「あの格好だと犯罪組織だが武装が割りとしっかりしてるし、魔法士もいるな。あの支給の良さは軍事力を持つもののクライアントだろうな。日本の施設で作った、改造された奴等じゃない。それに、あの目は死人の目だ。死人を機械化、この技術はロシア系の犯罪組織、蠍、ってとこだろう。あれは俺と葵にようがあるらしい。牧野、ささっと逃げてくれ」


 蠍、とは、広大な国土を持つロシアの犯罪グループのひとつだ。ロシアはまだ、転生の天撃の影響で完全統治がなされていない。そのなかでも割と大きな組織である。


「ですが、零機さんは?」

「あいつらくらいなら俺一人で裁ける。だから行け!」

「了解!」

「待ってください、兄さんを置いていくなんて無理です!」

「いいから連れて行け牧野。俺は妹をまた失いたくない」


 牧野は武装を取り出し、加速魔法で駆け出す。それを人機が銃弾で撃とうとするが、


「悪いな。俺は不老不死の吸血鬼なんだ。銃弾の雨もなんの問題も無いわけ」


 零機がMMGを取り出し、シュヴァルツェ・ロッホを発動した。それはとても小規模なもので、零機の体に銃弾が当たる瞬間に発動し、銃弾に付加する気圧のみを吸収する。銃弾が落ちる。それを見た人機の連中には、零機の体がそれを跳ね返したように見えただろう。


「俺のことをよくわかっているなホールウェイズ」

『相棒のことはしっかり記憶していますよ』

「頼りになるよ君は。まあ俺もあんまり手札を見せたくないんでね、そうそうに片付けるぞ」

『了解』


 葵に危害が及んだ場合、彼女の血を吸った零機は封印術式になったので全部肩代わりすることになる。それに、マモンが自分の女王に傷をつけさせるとは思えない。ルシファーは零機が燐火のもとを離れる間、護衛に回っている。それをこちらに連れ出すわけにはいかない。なら必然的に魔法による撃退になる。零機はホールウェイズの銃口を向ける。それにあわせて魔法が構築されて銃口に魔力光があふれ出す。それは色を持たぬ無色だが、確実に知覚できる。無系統魔法だ。


『魔法構築完了、ロード、クンプレシオン・アウスダウ、格対象に発動します』


 零機が引き金を引くと、人機一体一体の下と上に魔法陣が現れたと思った瞬間に人機は一瞬で消え去り、そこには限界まで圧し縮められた質量体が無残にも飛び散っていた。そのスピードは人機の記憶保存機構が展開するより早かった。


『対象の消滅を確認、撃退しました』

「撃退ではないだろうけど、君は本当に馴染むな。最高のパフォーマンスだよ」

『ええ、当たり前ですよ』

「自信家だな」


 零機は携帯端末を取り出し、電話を牧野にかける。


「ああ牧野、もう終わった。普通に葵を送ってやってくれ。あ、やっぱりいいや、君は職務に戻ってくれていい。葵の護衛に適役なやつがいる。マモン頼んだぞ」

『はっ、請けたわった』


 そういって電話が切れる。普通ならありえないが、マモンは悪魔だ。気配を殺す以前に気配がない。それに、神格を宿した悪魔に勝てるやつはそう多くない。これで大丈夫だろう。まあ気がかりは牧野の苦労だが、今はそんなに余裕が無い。


「マジで早く行かないとな。本当にヤバイぞこれは」

『あなたが悪いと思いますよ。上空から気づいていたなら私を使って撃退すればよかったのですから』

「仰るとおり。はあ、面倒なことはなんで一回に来るんだろうな」


 零機はそういいながら上野の基地から皇居に向かって走り出した。


「遅れて申し訳ありません」


 零機はそういって皇居の応接間に飛び込む。そこには零機を除いて十四人がいた。一人は戦皇、それ以外は干支の魔法士たちだ。そして全員が揃う。

 鼠、二ノ宮美香。二宮家の現党首。

 丑、五島武。十士族、五島家の現党首。魔法庁副大臣。

 寅、綿草陽。大手魔法士事務所、綿草魔法士派遣会社の社長。

 兎、丸山国光。警視庁魔法局の局長。

 辰、一之瀬竜太郎。十士族一之瀬家の出で、現日本国防陸軍大将。

 巳、三嶋蘭。十士族三嶋家の次期党首。

 馬、七夕浩太。十士族七夕家の出身、警視庁魔法第三特務課エース。

 未、八文字元徳。八文字家現党首にして国防空軍大将。

 申、九雲鹿丸。十士族九雲家現党首にして、古式魔法「白魔術」の正規継承者。

 酉、桐谷零機。

 戌、東雲亜里沙。東雲家次期党首候補。魔法庁大臣。

 猪、四野正志。十士族四野家の現党首にして国防海軍大将。

 そして、猫として六条真理。十士族六条家の党首。十色慎太郎、十士族十色家の次期党首候補にして警視庁第一魔法課の課長。

 猫は干支の魔法士に次ぐ強さを持つ魔法士二人を当てはめるためのもので、本来は存在しない。だが、今の日本にはこれだけの危険な魔法士がいる。


「もう、零機君遅い~」

「すいません蘭さん」


 三嶋蘭はこの面子のなかでは零機に好印象を持っている人間の一人だ。おしとやかな美女で、まだ二十半ばである。


「まあまあ、桐谷君は軍の仕事、それも相模湾防衛で遅れたんだ。仕方ない」

「いえ、申し訳ありません四野さん」

「上層部会議で戦地に私は出れなかった。その分も感謝している。だから頭を下げないでくれ」


 四野正志も好印象を持ってくれている人間で、たまにプライベートでも会う仲だ。三十代ながらも、顔が渋いため、貫禄を持っている。


「久しいね零機君。座りたまえよ」

「はい、九雲師匠」


 九雲鹿丸は桐谷家自体にあまり差別意識を持っておらず、それどころか好意的に接触してくる家だ。そのため、零機は古式魔法の黒魔術と近い流派の白魔術の使い手の鹿丸に指導を施してもらっていた。


「お久しぶりだ、桐谷君」

「はい、綿草さん。今日はよろしくお願いします」


 彼、綿草陽は昔から個人的に零機に興味を持っている。好意的な人物だ。


「軍のエースは多忙だな」

「そちらこそ警視庁のエースでしょ七夕さん」


 彼、七夕浩太は他の十士族の人間と少し変わったところがあり、警察にも限らず犯罪者のような匂いがする人物だ。零機は彼のそんな危なっかしいところが気にいている。浩太も同じだ。


「申し訳ないな桐谷。援軍を出せずに」

「いえ、急なことだったので仕方ありませんよ一之瀬大将」


 一之瀬竜太郎も零機と同じ陸軍の人間なので、零機を高く評価している。


「空軍も対応が遅れた。済まない桐谷」

「謝ることではないですよ八文字大将」


 零機は何度か空軍の作戦に参加しているので、八文字とも関係がある。そして、


「零機、会いたかったよ!」

「や、やめてください亜里沙様」

「なんでそんな形式ばった言い方なの?、昔みたいにしてくれていいのに」

「わかったから離れろ」


 東雲は桐谷と徹底的に敵対している。零機が養子として東雲家にいたとき、二人だけ零機に近づくものがいた。同じ歳で子供だった亜里沙と春彦という少年だ。そのため、好印象を飛び越えた感情を零機に抱いている。必然的に、これ以外のものは零機に好印象を持っていない。敵意を持つものもいる。

 そういった光景を見ながら、戦皇がいった。


「では、干支会議を始めようか」

 

 

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