第21話 入学までの道のり③
000旅団が東京から神奈川に付く頃には、全てが終わっていた。だが、どんなに順調に進んだ作戦でも、死傷者は免れない。000旅団によって手当てやもろもろの後始末が行われていく。数日前に結成されたとは思えない結束度である。
「霧島准尉、よくやったな」
「はっ、ありがとうございます。大木少将」
「この階級はまだ慣れないものだな」
「ええ、本官も同じ思いです」
零機に声を最初に掛けたのは大木太一少将だった。そのあとからグリンガル・ソリアット大尉がやって来る。
「霧島准尉、お疲れ。お前が俺の配下になったって言うのが本格化すると気持ちいいな。これが上官の気持ちってやつか」
「ソリアット大尉。少し言っていることが厳しいと存じますが」
「知るか。もういいだろう、零機」
上官になったグリンガルが零機を名前で呼ぶということは、友人として話すということである。もちろん零機もそれに乗る。
「ああ。大木さん、本当に使ってよかったんですか?、海軍兵に見られてしまいましたが」
「まああの状況ではそういってもいられないからな。それに、日本国防軍の海軍はそこまで落ちぶれた奴等じゃない。多分大丈夫だろう」
「多分って……。まあそれは上の仕事ですからね。ま、いいっか」
「そうだ、零機。お前に軍上層部と戦皇陛下から本部出頭命令が出てる。干支の会議だとよ。軍の体制が新しくなったからな、そのことだそうだ」
「はぁ~、面倒だな、本当に。あそこにいる連中人格破綻者の集まりでしょ、まあ俺もいろいろ変だとは思ってますけど」
「自覚はあるんだなおい」
干支とは、日本の魔法士のなかで最も強いといわれる十二の魔法士たちの総称だ。この魔法士たちは国家が監視することでしか抑えられないような者の集まりで、全員が国家戦闘級魔法を有している。一言で言うと化け物だ。それと同時に国の最大戦力でもある。零機はそのなかで一番若い新入りだが、国家決戦級魔法士なので、酉の称号を与えられている。
「葵、大急ぎで東京に戻るぞ。じゃないと俺の命が危ない」
「兄さんに害意を持つものは私が排除しますよ」
「まあそれができる相手ならいいんだけどさ。一応、軍服とMMGも持ち込まないとだし。ああ行きたくないな~」
「でも、葵は私の兄さんが国の魔法士最強に数えられているのを誇りに思います!」
「ありがとう。妹がそこまで言ってくれるのに行かないわけにはいかないか」
「零機、健闘を祈る」
「なんで闘いが起きるの前提なんだよ。そういうフラグはやめて欲しいんだけどなあ」
零機はブツブツ言いながらも歩き始める。先ほどまで乗っていた電車に乗り込まなければならない。零機が次の電車がいつか調べようとすると、
「准尉、000旅団ももうすぐ引き上げる。ヘリがあるからそれに乗っていけ」
「ではお言葉に甘えさせて頂きます」
零機は陸軍のヘリに乗り込み、着替え始める。国防軍の白と赤の日本を象徴する軍服だ。それに着替え、実弾銃を一丁、小型の折りたたみナイフ(振動系魔法が刻まれた特注型のMMG)、大木少将が持ってきてくれた黒鋼を帯刀する。そして、もうひとつ置いてあるMMGに手を出す。
「兄さん、それは?」
「まあ、見てろって」
零機がその銃のMMGを持つと、
『ユーザー認証、開発者X、桐谷零機と断定、適合開始』
その銃が喋りだし、零機の魔力を吸い上げる。
「こいつは俺が創った黒鋼シリーズのひとつだよ。現在、マジック・レイバー社はMMGに人工知能、AIを用いる技術の研究を進めている。これは悪魔じゃなくてAI機構が内蔵されたMMGだ。フロストみたいな上位悪魔との契約は負担が大きいからな。まあ、この黒鋼の刀を麻衣が欲しがってたし、フロストも麻衣を気に入ってるみたいだからな、俺も新しいMMGが必要になってくる。そろそろ適合するかな」
零機がそういった瞬間、銃状のMMGがまた喋り始める。
『適合完了。黒鋼シリーズ、イニシャルX、ナンバー007、M1911式自動拳銃型MMGホールウェイズ。起動開始』
黒き銃身が一部青くなった。
『お久しぶりですね零機。今日は何故私を起こしたのですか?』
「ああ、干支の会議があってさ~、君くらいのMMGじゃないと乱闘騒ぎになったとき僕が危ないんだよね。フロストは呪術と結びつきが強くなるよう設計したからああいう場ですぐに発動できない。呪術は効力が長い代わり、相手に呪符を付けないといけないからね。呪刀のあいつもパスの接触、もしくは直接斬らないといけないから。だから実弾銃のバレッタと君を持っていくのさ。頼むよホールウェイズ」
『わかっていますよ。元々、あなたがこのAI搭載型MMGを作るといい始めたから創られた私ですから。最高のパフォーマンスを提供します』
「アスリートか何かかよ君は。じゃあ、行こうか。牧野軍曹長、いや、牧野准尉」
牧野も新体制になったときに階級が上がった。新宿のことも考えればもう少し上の階級が与えられるべきだが、本人が准尉で言いと言ったらしい。
「いいんですよ、桐谷さん。まあ今は職務中なんで霧島さん」
「おいおい、別に同じ階級なのに敬語か、それも年下の俺に」
「よしてくださいよ。命の恩人にそんなことできませんよ。まあせめていい友人でありたいですけどね。第一世代なのに俺は軍に
「ならいいんだけどさ。飛んでくれ」
「了解です」
零機は東京に再び戻る。葵は兄がそんな魔法士として優れているものたちに評価されているのを嬉しく思いながらも、不安に思った。兄が、本当に人間性を失ってしまうのではないかと。
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