第63話 夏休み最終日Ⅱ

 住宅街を突き抜ける一本の下り坂を自転車で下っていく。周りを見渡すも高校生の姿は見当たらない。おそらくは家で明日に向けての英気を養っているのだろう――俺の当初の予定のように。夏休みの宿題を必死にしている奴もいるかもしれない。俺も夏休みの宿題を少しばかり残しておけばよかった。そうすれば、秋月の家に行くのを免除されたかもしれない。

 道の先に急な坂が見えてきた。マラソン大会で走る坂、通称、心臓破りの坂である。この坂を見ると、明日から始まる学校のことをいやでも思い出してしまう。学校に行くのを億劫に感じてしまう。特に夏休みのような長い休みの後は。

 ギアを一番軽くして、坂を上る。四月から毎日のように上っていることもあり、入学式の頃よりも楽に上れるようになっていることを改めて感じる――体力的には、であるが。精神的には今日はあまりよろしくない。いつもよりもダメージが大きい。

 坂を上り切り、右に見えるわき道に入る。地図によれば、この通りに秋月家があるみたいだ。右に左に首を回して、秋月と書かれた表札を探す。

 おっと、何度目の首振りだっただろうか。右に首を回せば、そこの表札には、『秋月』とある。最近流行しているナチュラルスタイルを意識した外観で、玄関扉の前にはアーチ状に囲まれた空間があり、どことなく可愛らしさを感じさせる家がそこにはあった。建てられて間もないのだろうか。

 表札の隣に位置するインターホンに目をやると、ボタンのところに犬をモチーフにしたキャラクターと思われるシールが貼ってあった。犬のシールができるだけはがれないよう、指と触れ合う表面積を小さくしてインターホンを押す。

 数秒後、玄関扉が勢いよく開かれる音がした。

「待ってたよー。もうみんな来てる。早く早く」

 インターホンの音が鳴り続く中、秋月がこちらの門の方へと大理石でできた道をやって来る。

「インターホン、鳴ってるぞ」

 あ、止めるの忘れてた。そう言って、家の中へと戻っていく。音が止まったと思ったら、インターホンから、今から開けるね、と言う秋月の声が聞こえてきた。

 ……確かにインターホンのことは俺が言ったが、何も家に戻らなくてもいいんじゃないか。

 門のところまで来るや否や、俺の手から自転車を取り上げた。

「じゃあ、自転車を置いてくるから、先に中に入っておいて。部屋は二階だから」

 そう言って、俺の自転車にまたがって家の裏の方へと自転車と共に立ち去った。

 ……いろいろと突っ込みたいのは山々なんだが、俺の頭が持ちそうにない。脚も重たくなってきた――山だけに。なんちゃって。

 その重たい脚を持ち上げて、玄関へと続く大理石でできた道を歩いて行った。

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