第62話 夏休み最終日Ⅰ

七 夏休み最終日

 花火大会の後の夏休みは、あっという間に過ぎ去り、夏休みも残すところあと一日となった。今日が夏休み最終日だ。

 妹の夏希が作ってくれた朝食を食べながら、昨日の夜のことを思い出していた。


 風呂上がりにベッドの上でくつろぎながら小説を読んでいると、スマホから着信音がした。手に取ると見慣れない携帯番号。悪質な勧誘電話かもしれないと自分に言い聞かせ、着信音をしばらく無視するも、一向に鳴りやまない。気が散って小説の内容が頭に入ってこないじゃないか、と悪態をつきながら電話に出た。

「どちら様ですか」

 ぶっきらぼうな口のきき方になってしまったのは許してほしい。

「こんばんは。冬川です。夜分にすみません、古川くん。明日、時間はありますか」

 明日は当然のようにごろごろするつもりだった。今読んでいる小説の続きを読まなければならないし、録画して溜まっているアニメの鑑賞もある。新学期に向けての英気を養う予定だ。

「……いや、時間はない」

「ありますよね」

 俺の返答に間があったからだろうか。冬川が即返事をした。それとも冬川はエスパーなのか。エスパー冬川。

「俺には歴とした予定がある」

 電話越しに冬川がくすりと笑った。

「歴とした予定って、初めて聞く言い回しですね。聞かせてくれますか。古川くんの歴とした予定を」

 俺はベッドの上でごろごろしながら、英気養成プランを熱く語った。

「……では、十時に秋月さんの家に集合でお願いします。おやすみなさい」

 通話が切れる。

 ノーコメントで俺の明日の予定はないものとみなされた。歴とした予定は崩れ去り、凛とした予定が生誕した。

 ……ちょっと待て。秋月の家なんて知らないぞ。

 俺は着信履歴を呼び出した。


 朝食を終え食器を洗う。

「じゃあ、部活に行ってくるね」

 夏希はリビングに顔を一瞬見せて、そのまま玄関の方へと向かっていった。

 秋月家の場所を記したメモを持って、玄関へ。

「……部活行ってきます」

 誰に向けたわけでもないその言葉は、それでも俺の背中を少しばかり押してくれた気がした。

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