第59話 夏休みⅫ

 生身天満宮へと向かう道は、思っていたよりもハードなものであった。これは例えば、歩く道が上り坂でしんどかったとか、夏の暑さに水分を奪われてとか、そういった身体的なハードさではない。むしろそういう面では、とてもイージーで楽なものだった。ハードさを極めたのは、道中の会話である。冬川がいなくなったという真剣さが漂う雰囲気において、雑談のようなものをするのは何だか気が引けるし、とは言っても、冬川の話をするにしても、どこまで詮索していいものか――彼女たちの関係は今現在よろしくないようだし。そういった精神的側面において、俺はハードさを感じていた。この気持ちのおおよそのところは他の三人にも共通しているようで、三人ともしきりに他のメンバーの顔色を窺うような仕草を先ほどから頻発している。

 そんな中、俺たちへ救いの手が伸ばされた。

「あ、見えてきた。あそこが生身天満宮。日本最古の天満宮」

 高坂の言葉を起点として、俺たちの視線が生身天満宮へと傾く。

 天満宮と記された巨大な鳥居。その両脇には灯籠が建てられている。奥に視線をやると、どうやら灯籠は幾重にも連なっているようで、俺たちを奥へ奥へと導いているような錯覚にとらわれてしまう。

 その立ち並ぶ灯籠の間を幾度か通り過ぎた後、高坂と倉敷は右手に続くわき道へと進んでいく。その道の先は夕方にもかかわらず真っ暗で、初見では一度立ち止まらずにはいられない。俺と秋月は二人で顔を見合わせ、互いに頷き合う。前を行く二人と同様にスマホのライトをつけ、木々に覆われた暗闇の道を一歩一歩踏みしめていった。

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