第58話 夏休みⅪ
冬川がいなくなった。そう聞かされたのは、有料席の案内が大方終了し、あと三十分ほどで花火の打ち上げが始まる、そんな時間だった。
話を持ってきたのは、京都女子メンバーの一人である倉敷だった。
「お手洗いに行くって言ってから二十分しても帰ってこなくて。それで近くのお手洗いを見に行っても凛はいなくて。どう、しよう、と、思って」
後半、倉敷は半泣き状態だったが、その後も俺と秋月の質問に対して、何とか説明してくれた。倉敷の話によると、中学の頃の話、特に冬川が疎遠な態度をとるようになった行事、修学旅行についての話をしている途中で、冬川はトイレに行くと言ってその場を去ったらしい。
「倉敷さんは、冬川が疎遠になった原因として、修学旅行でのどの出来事が関係していたのか心当たりはあったの?」
「いえ、あの頃から時々考えたりするんだけど、未だによくわからなくて……いったいどうして凛があんなによそよそしい態度をとるようになってしまったのか」
そうか。とにかく今は早急に取り組むべき問題が他にある。
「冬川はどこに行ったんだ」
何よりも冬川を見つけるのが先だろう。本人から話を聞けば何もかも明らかになるだろうし。
「あの……一つだけ、場所に心当たりがあるの」
おずおずと手を挙げながら、倉敷は話を続ける。
「私たちが中学生の頃、修学旅行でこの近くに来たことがあるの。凛も一緒に。そのときに、秘密の隠れ家に相応しいよねって話した場所があって。……もしかしたら、そこにいるのかもしれない」
冬川の態度が急に変わった修学旅行で、行った場所か。可能性はありそうだ。
「その場所は?」
「いきみ天満宮」
急に背後から声がした。振り返れば高坂がいた。
「高坂さん、いきみってどういう字なの?」
秋月も俺と同様に漢字変換ができなかったようだ。
「ああ、《生身》と書いて、いきみと読むの。生祠として祭祀したことが由来になってるみたい。とにかく、早く探しに行きましょう。凛が心配だし」
俺と秋月は、高坂と倉敷の後に続き、生身の交通手段――いわゆる徒歩で、生身天満宮へと向かったのである。
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