第21話 初相談Ⅴ

 廊下を歩き、トイレのある方へと曲がり角を曲がろうとすると、何かにぶつかりそうになったので、何とかよける。

「あ、すみません」

 そう言いながら振り返ると、そこには小柄な女子生徒がいた。青みがかった黒髪ショートーーどこかで見たような気が……。

 女子生徒は少し頭を下げると、俺が来た方向へと足を進めようとする。

 あ、確か吹奏楽部員じゃなかったっけ?

「すみません」

 歩き去ろうとする彼女に声を掛ける。

 彼女はゆっくりとこちらを振り返り、何か用? とでも言いたげな視線を送ってくる。

「吹奏楽部の方ですよね? 昨日桜井先輩の場所を教えて下さった」

 彼女は視線をこちらに注いだまま、しばらくこちらを見つめていた。

「……覚えてない」

 ……そうですか。いやいや、この際それは別にどっちでもいい。俺は晴人と同じ轍を踏まないよう、彼女の校章が赤――二年生だ――であることを確認して話かける。

「先輩に聞きたいことがありまして。……吹奏楽部の新入生歓迎会についてなんですが」

 新入生歓迎会の言葉に少し目を見開いた。

「……何?」

 先輩は先を促すように問うてくる。

「さっき、吹奏楽部の秋雨先輩から、僕たち相談部に依頼がありまして、何でも新入生全員がフルートを吹きたがっているとか」

 先輩は無言のまま俺の話を聞いている。

「秋雨先輩は、その原因を明らかにすることを僕たち相談部に依頼されました。どうしてそんなことになったのか――」

「ほのかたちが上手いからだよ」

 先輩はそれだけ言うと、今度こそ背を向けて歩いて行ってしまった。

 いや、でも、秋雨先輩たちの演奏は……。

 ……一つ確かめておく必要がありそうだ。

 俺はトイレには寄らずに、そのまま階段を下りることにした。

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