第20話 初相談Ⅳ

「春樹くん、秋雨先輩に帰ってもらって本当によかったの? 吹奏楽部の事情に通じている人がすぐそばにいた方がいろいろと助かりそうな気がするけど」

 秋月が首をこてんと傾げながら問うてくる。

「少し煮詰まってる感じがしたからな。それに、大まかなことは秋雨先輩から聞いた。後は少し情報を整理したい。そのうえで、知りたい情報が出てきたら、必要なことを必要な人に尋ねればいい」

 まずは今後の方向性をある程度決めないことには、多くの行動が徒労に終わってしまう。同じことを成すために費やす時間や体力はできるだけ減らすのが、俺の三大モットーの一つだしな。

 さて、秋月には少し偉そうなことを言ってしまったが、一体どう考えを進めていこうか。

「秋雨先輩のフルートを一度拝聴してみたいです」

冬川が藪から棒なことを言い出した。その真偽を測りかねていると――。

「演奏を聴けば、謎が解けるかもしれません。どうして全員がフルートと書いたのか」

 ああ、そういうことか。確かにそれはありかもしれない。

「そうだね、僕も吹奏楽全体の演奏なら聞くこともあるけど、フルート単体の演奏は聞いたことがないな。是非一度聴いてみたいね」

 こいつは完全に個人的な理由だな。

「確かに! 私もフルート聴いてみたい!」

 ……こっちもか。

 まあ、その件は一旦置いておいて、少し考えてみよう。

 まず、解くべき課題は、どうして吹奏楽部に見学に来た新入生全員がフルートを吹くことを希望したのかということだ。

 新入生たちは、総じて秋雨先輩たちの演奏が素晴らしかったという意味のことを言っていた。しかし、秋雨先輩曰く、フルート以外の楽器の評判がいいという話はよく聞くが、フルートについてはそんな話を全然聞かない。それに、フルートを吹くことになったからといって、何らかのメリットになるようなことも思いつく限り特にないという。最近巷でフルートが流行しているということもない。

 一見すると、矛盾だらけの現象が起きていて、いかにもアニメやドラマの中の出来事って感じに思ってしまうが、現に俺たち相談部の前にこの現象が突きつけられている。

「すまんが、ちょっとトイレに行ってくる」

 思考が壁にぶち当たってしまったときは、気分転換。少し歩きながら考えるのも悪くないだろう。

 そうして俺は部室の扉を開け廊下へと足を踏み出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る