第15話 入部試験Ⅵ
「俺たちは、先輩の狙い通りに、学校のあちこちにいる吹奏楽部員たちに先輩を見かけなかったかどうかを聞いて回りました」
「どうして、私の狙いがそうであると考えるに至ったのかな?」
「最大の理由は、先輩は俺たちに言葉を介したヒントをほとんど何も与えなかったことです。言葉のヒントがなければ、いったい何をヒントにすればいいのか。……これは、晴人から聞いたことですが、先輩はあまり卑怯なことを好まないようですね。なので、おそらく俺たちが先輩を見つけられるような何らかのヒントを、先輩は残しているはずだと考えました。ヒントなしでは難しい試験内容だったので。……言葉以外にどういったヒントがあるのかを考えているとき、秋月が吹奏楽の演奏音について言及しました。そのとき俺は、これだ、と思いました。吹奏楽部の演奏があちこちで聞こえてくる、言い換えれば人があちこちにいるとという、この状況が先輩を見つけるヒントになっているのではないかと」
先輩は一度頷き、口を開いた。
「なるほど。しかし、その考えは根拠に乏しく、説得力に欠けているとは思わないか。特に吹奏楽部についての話だが、別に吹奏楽部以外にも着目点は探そうと思えばいくらでも探せたはずだ。着目した根拠が薄いのではないかな。……まあ、現にこうして私を見つけているのだから、その考えの結果の部分は正しいと言わざるを得ないのだが。君の考えが聞きたいな」
居心地の悪さを感じつつも、話を続ける。
「確かに根拠が乏しいといえます。……俺がこの考えをおそらく正解であろうと考えた最大の理由は、入部試験の意図に相応しいと思ったからです」
「――どういう意味かな」
「つまり、俺たちが受けている、相談部の入部試験の意図を考えたときに、この方法が正しい可能性が高いと思ったということです。相談部は、相談を受けて、解決の手助けをする部活です――今回の入部試験では、俺たちが相談をする側になることで、相談に来る生徒たちの立場を少しでも理解してもらいたかった。そんな意図が含まれていると考えたんです」
「……単に私の居場所を吹奏楽部の生徒たちに聞いて回るというのは、相談というにはいささか小さすぎるように感じるが?」
「そうでしょうか、学校での相談事なんて大したものではないと始めに言ったのは、先輩ですよ」
先輩は一度視線を下ろし、その後すぐに笑みを浮かべた顔を上げた。
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