第10話 入部試験Ⅰ
桜井先輩に連れられて、俺たち三人は中庭に向かう。どうやら窓ではなく、中庭のことを指していたらしい。
入部試験とはいったい何なのか。中庭に移動するまでの間、俺たち三人の顔にはその疑問がありありと浮かんでいた。
「よし、到着だね」
桜井先輩は俺たちの方に向き直り、仁王立ちする。
「じゃあ、入部試験の説明を始めようか」
「ちょっと、待ってください」
“彼女”――秋月というらしい。さっき桜井先輩がそう呼んでいた。
秋月は桜井先輩の言葉を遮った。
「入部試験って、そもそも何でしょうか。部活に入るのに入部試験がある部活なんて聞いたことないのですが」
もっともな疑問である。
「オーケー。そのあたりも含めて説明するわ。まず、相談部が入部試験を行っているのにはもちろん理由があるの。私の趣味とかそういった軽い理由じゃないわ。さっき言ったみたいに相談部は責任感が比較的問われる部活なの。だから、入りたい新入生をそうですかと入れてしまうと、依頼主に迷惑をかけてしまう場合や、最悪の場合、責任問題を問われて廃部になってしまう可能性もあるわ。だから、新入生が相談部に入るのにふさわしいかどうかをテストするために入部試験を設けているのよ」
確かに誰でも入ってもいいような部活ではないだろうな。
「といっても、これまでに入部できなかった新入生はいないから気楽に挑んでもらっても大丈夫だと思うわ」
……入部できなかったら本気で落ち込むだろうな。
「じゃあ入部試験の内容について話すわね。入部試験は――ズバリ! かくれんぼよ」
……はい? かくれんぼだって?
「今がちょうど十六時で、部活終了時刻が十八時だから、制限時間は二時間ね。範囲は学校の敷地内。君たち三人が、隠れている私を見つけられたら試験合格ってわけ」
えーと、これって結構難問だと思うのだが。
「そんなことはないと思うよ。私も含めたこれまでの先輩たちだって全員合格してきたわけだし」
……何かヒントでもあるのか。
「ヒントは特にないよ。あ、そうだ。この入部試験を聞いて辞退した人なら大勢いるよ。私にはムリだーって言って。でも受けた人は全員受かってるって話だね」
……それは難問というのでなかろうか。いや、受けていないのだから、その彼らの試験結果は加味されないから、正しいと言えば正しいのだが。――現実逃避したくなってきた。
「君たちは受ける? 辞退してもいいけど?」
この試験を受けて合格する保証はどこにもない。確かに学校内に軽いプライベートスペースができるのは喜ばしいことではあるが、二時間もかくれんぼするのもどちらかと言えば面倒だ。
……小説の続きも読みたいしな。辞退するか。
手を挙げて辞退宣言しようとした一歩手前に横から声が飛んできた。
「受けます!」
秋月が手を挙げて宣言していた。彼女の表情から、いくらかの不安を抱いているのが窺える。
「私は受けます。一緒に頑張って先輩を見つけましょう!」
いや、俺は受けるつもりはないのだが。
「そうだね、頑張ろう。……いつまでも立ち止まってばかりいられない」
顔を上げた晴人が秋月、続いて俺にも視線を向けてくる。
秋月の期待のこもったまなざしに、晴人の、もちろん春樹も受けるよね、という半ば強制するような視線。――断りづらい。晴人の調子が戻ってきたのは喜ばしいことではあるが。
この後俺が入部試験を受ける意を示したのは当然と言ってもいい流れであり、実際にそうなったというのは述べるまでもないだろう。
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