第7話 入学Ⅶ

「仕方ない、どっかの部屋にいる人に聞いてみるか」

 近くにある部室――天文部と書かれている――の扉に手を掛け開けようとすると、廊下の奥の方から声が飛んできた。

「山内くんじゃない! 久しぶりね」

 そこには、一人の女子生徒が走るような勢いで歩いていた――早歩きではない。足の入れ替わりサイクルが早いのではなく、歩幅が大きいわけでもない。足を地面から離した後に彼女の体が前進しているのである。分かりやすく言えば体が宙に浮いている時間が存在するのである。

 ――一体何が起きているのか、思考が停止する。

「北条先輩! お久しぶりです。相変わらずですね。科学研究部でしたっけ」

「正確には、魔法科学研究部だけどね。これまで魔法と呼ばれてきたものを科学で説明しようとするのが目的の部活さ。今見てもらったのはね、浮遊魔法の初期段階のものでね――」

 その後の話の内容は、脳が受け付けなかった。

「そうなんですね、それは面白いです! 詳しい話はまた後日聞かせてください。実は先輩にお聞きしたいことがあって、地学準備室の場所を教えてもらえませんか」

 そうだ、俺たちは地学準備室を探していたんだった。停止していた脳が再び動き始める。

「廊下の一番奥の部屋だ。魔科研、私たちの部活の呼び名だが、魔科研はその隣の部屋だから、いつでも来てくれよ。歓迎する」

 そう言うと、北条先輩は再び浮遊しながら廊下を歩き去った。

「それじゃあ、部屋もわかったし行こうか」

 俺たちは廊下の奥へと歩を進める。さっきよりも歩くことに抵抗がある気がする――文字通り足取りが重い。あの浮遊魔法を見た後だと、歩くのは無駄な労力を費やす行動であるという考えがどうしても頭をよぎってしまう。気を紛らわそうと、さっき気になったことを晴人に聞いてみる。

「北条先輩の浮遊魔法の説明、どういう意味だったんだ?」

 俺はさっぱりだったのだが。

「え、ああ。全然わからなかった」

 ? 面白いとか言ってなかったか、さっき。視線で問うと、晴人は悪びれた様子もなく軽快に話す。

「面白かったのは事実だよ。でも、分からないって言うと分かるまで説明をしようとするからね、北条先輩は。また、別の機会に聞くことにするよ。それよりも今は、地学準備室だ」

 なっに部かなー、そういいながら晴人は廊下の奥へとスキップで進んでいく。

 ――スキップって浮遊魔法みたいだな。俺は少し早歩きでそのスキップについていった。

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